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78話

「汗、流して用意しようか?」


 肌を濡らしたエミリーとアンの背中を撫でながら声を掛ける。


 くすぐったそうに背中を反らせて身を捩る。


 余韻は抜けてるはずなのだが、ゴロゴロと起きないので背中から腋から指先で撫でる。


「リュッ、リュート様!」


 アンが声を上げて悶える。


 そしてエミリーは無言で身悶えている。


 それでも身を起こさないのでそのまま続ける事にする。


 手から逃げる様に身を捩るがそれでも起きない、くすぐる、身悶える、の闘争が勃発する。


 両手を伸ばして二人をくすぐり三人で笑い合う。


「さあ、浴室で汗を拭くだけでもしよう」


 二人を急かしてベッドから立ち上がる。


 ブーツを履いて窓の元に向かう。


 手で触れて閂を外して木製の窓を開ける。


 パッと光が部屋の中に差し込む。


 浴室に向かうと脇を肌色のドットが笑い声を落としながら通過する。


「バスローブ位羽織って行けば良いのに……」


 クスクスと笑いながら裸体を晒しながら駆ける姿が頭の中に浮かぶ。


 映画のワンシーンの様な光景だったのだろう、見えていたなら。


 二人の容姿は分からないが、その姿は素直に見てみたいと思った。


 我ながら口にした言葉と脳裏に過ぎった姿が一致して無さ過ぎると苦笑する。


 苦笑を解いて、ブーツの踵を鳴らして浴室に入る。


 浴室の入り口で、ブーツが濡れない様に脱いでインベントリに仕舞う。


 昨夜持ち込まれた湯を溜めた(かめ)に、体を拭いた手拭いを浸して緩く絞る。


 冷めた温い水を含んだ手拭いで目の前の微かに見える人影に当てる。


「ひゃっ!」


 蝋燭の灯りの無い、薄暗い部屋の中ではその姿が誰だか分からなかった。


 そして急に濡らされた悲鳴では判断も付かない。


 構わず水を滴らせながらその華奢な背を拭いていく。


 背中を拭き終えるとまた瓶の水に手拭いを浸して絞りその細腕を拭いていく。


 時折触れるその胸で、今綺麗にしているのがアンだと分かった。


 視覚に異常を抱えているとは言え、胸のサイズで人物特定出来てしまった事が恥ずかしい。


 両腕を拭うと、アンを正面に向かわせて新たに絞った手拭いで拭いていく。


 胸元から腹部、太腿からつま先まで膝を着いて綺麗に拭う。


 手拭いを洗って、今度はエミリーに向かう。


「エミリーはもう拭き終わったか?」


「はい、終わりました」


「すまない、アンにしかしてやれなかったな」


「いいえ、私はリュート様をお拭きしますから」


 パシャパシャと水音がして、湿った手拭いが胸元に触れる。


 胸元から首、肩を濡らす様に拭われる。


 首の後ろに手拭いが掛かると、首を両手で引き寄せられてエミリーの唇に重なる。


 キスをしながら背中や腕を拭われる。


 手に持っていた手拭いを引っ張られ、アンに渡る。


 背後で水音がして、背中に緩く絞った手拭いが押し当てられる。


 背中から踵まで磨く様に擦られる。


 エミリーは粘液が大量に付着した部分を念入りに拭ってから、つま先まで入念に拭かれる。


 彼女の吐息が触れて腰の辺りがむず痒くなる。


 時折湿った感触が触れるのが分かる。


 最後に硬く絞った手拭いで一滴の水気も無くなるまで拭き上げられた。


 本当にトリミングか何かに思えてくる。


 浴室から出てベッドまで戻ってから着替えを始める。


 インベントリから下着、鎧下を取り出して着込んで、それからブーツを履く。


 シャツを重ね着して、首元のヒモを結ぶ。


 今日は一日オフの為、武器防具は装備しないでおく。


 もう慣れたつもりで居たが、チェインメイルもブレストプレートも無しだと身が軽い。


 一日中3~4kgはやはり重たい。


 ベッドに腰掛けて、二人の用意が済むのを待つ。


 布ずれの音がしてそちらを向くが、何を穿いて、何を着ているのか全く分からなかった。


 そう言えば、この世界の化粧はどうしてるのだろうか?


 中世の肌を白く見せる物は洋の東西を問わずに鉛中毒を伴っていたと聞いた事が有る。


 まあ、どうやらこの辺りは髪の色を見る限りでは、コーカソイド系が多い気がするから不要なのかも知れないが。


 目を閉じてあれこれと考えているとフッと思い出した事が有る。


 真珠粉を服用したり、肌に塗っていた歴史的美女の話だ。


 当時のエジプト周辺で真珠の養殖が出来たとも思えないから、毎日凄まじい散財だった可能性が高い。


 逆に、こちらでは真珠をドロップするモンスターが居たら、「お肌がパールの輝き」なんて言う様な無害な白粉が既にあるかも知れない。


 女性のこの辺りのパワーは男には太刀打ち出来ないから、海の側のハンターは奥さんに尻を叩かれている可能性が有る。


 そんな光景が脳裏に浮かんで思わず笑ってしまう。


「どうかされましたか? リュート様」


「いや、大した事では無いのだが、こちらの女性のお化粧事情ってどうなってるのかな? って事を思い浮かべたら、奥さんに化粧品の材料を集めさせられる夫の図がな」


 エミリーの不審そうな問い掛けに、笑いを堪えながら浮かんだ構図を説明する。


「有る話だと思いますよ? 奥さんかどうかは分かりませんが、化粧品の原料になるドロップアイテムも有ると聞きますから」


 アンが可能性として肯定する言葉が飛んでくる。


 海の中で息を止めて貝のモンスターと戦う図を考えると、本当に割に合わなそうだ。


 倒すのに時間が掛かる貝のタフさと、倒した後岩の間に沈みゆく真珠。


 凄く虚しい思いをする未来が見えた気がする。


 まあ、当面海の側に行く機会が有るか分からないので保留とする。


「「リュート様、お待たせいたしました」」


 二人揃って用意が出来たらしい。


 揃った声に意外と仲が良いのだと思う。


 時折、俺を挟んでギスギスするのはやっぱり女のプライドなのだろうな……。


 身請け話が出てからは、少し質が変わった気がする。


 どう変わったかは言葉に出来ない位の変化でしかないが。


 上客争奪戦から女の戦いに移った、と言う感じだろうか。


 怖いから触れないけれど……。


「よし、じゃあ出ようか」


「「はい」」


 服を買いに行く直前に成ると、やはり女性は声が明るくなるらしい。


 娼婦として借金を抱えていれば、気軽に買い物するだけの余裕も無いのだろう。


 二人が明るく笑えるならそれはきっと良い事なのだと思う。


 その明るい笑顔も、着飾った姿も見れないのが切ないのだけれどな。


「……でも、ドット絵」

奥さんに蹴り出される様に真珠を取りに行くハンター夫…。

逆らったら恐いだろうな…。


しかし、主人公は身請けする側なのに、

二人に弱いのか怖いのか地味に及び腰なのが笑いを誘います。

頑張れ主人公(笑)

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