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77話

「リュート様、灯りを消しますね」


 アンの声に手を上げて応える。


 目を閉じて視覚情報を遮断する。


 ベッドの左側か軋むと甘い香りがする。


 エミリーが横に伸ばした腕に頭を乗せる。


 フッと、瞼を透過した明かりが消えて闇に包まれた。


 僅かに残っていた体の強張りが抜けて溜息が漏れる。


 捲ったシーツを掛けられて、右側にも肌が触れる。


 アンも寄り添う様に腕の中に納まる。


「ああ、やっぱり真っ暗が一番落ち着くな……」


「リュート様は灯りが消えた瞬間に力が抜けますものね」


「昔からそうだった気もするが、最近は特にそうだな」


「リュート様、マッサージ致しましょうか?」


「マッサージって痛いから嫌いなんだ」


 生来筋肉が柔らかい性質で、指圧が痛いと感じるせいでマッサージ全般に苦手だ。


「そんなに気を遣わなくて良い、この温かさで十分だ」


 腕を持ち上げて、二人の頭を抱え込む。


 不思議だ、灯りの下で触れ合う時は違和感が付きまとうのに、闇の中で触れ合うと様々な柔らかな感情

が溢れてくる。


 二人の頭を掌で触れ、指を髪に差し入れて漉き撫でる。


「リュート様は髪を撫でるのがお好きですね」


 アンが髪を撫で続ける俺に胸元から声を掛ける。


「二人とも髪が柔らかいからな、触れていて心地良い」


「リュート様の手は大きいので…私は好きですよ」


 今度はエミリーが口を開く。


 余り意識した事は無いが、比較的大きい部類なのかも知れない。


「他人と比べた事が無いから分からないんだがな」


「大きいですよ、だって私の胸握れてしまうでしょう?」


 そう言って俺の手を引いて自分の胸に当てさせる。


 バスローブの合わせを割って、掌がエミリーの胸に触れる。


「リュート様、私からお願いします……」


 エミリーの声に応じる様に、アンが頭を上げて身を離す。


 自由になった右腕で抱える様にエミリーと肌を重ねた。


 俺を含めて三人の吐息が流れては闇に溶けて行く。



 心地良い温もりで目を覚ました。


 昨夜はエミリーとアンが、火が付いた様に求めてきた。


 そして俺も昂るままに二人を抱いた気がする。


 余り冷静に思い返すのも気恥ずかしいので考えるのは止めておく。


 時計が無い為に時間は分からないが、普段は六時に目が覚める生活をしていた。


 こちらでも大体同じ位の時間に目が覚めているとは思う。


 今日は休みだ、慌てて起きなくても良い。


 休日に昼頃までゴロゴロするのは一種の贅沢だったが、今は肌を重ねてくれる人が居る。


 しかも二人も。


 贅沢と言う言葉に収まらない気さえする。


 浮気不倫の類は良く耳にするが、日本人で複数の恋人や妻を同時にベッドに入る奴は少ないだろう。


 俺だけじゃなく、現代日本人の常識の範囲外な状況に対応が定まらないで居る。


 いや、二人同時にと言い出したのは俺なのだが。


 あの段階から俺自身が迷走を始めたのだろうと思う。


 二人の反応から珍しいが忌避感の類は感じられない。


 結局、常識や文化の違いなのだろうが、地雷が予測出来ないのが怖い所だ。


 般若に成られるのも怖いが、二人を無自覚に傷付ける事が怖いし避けたい。


「泣いて欲しくないと思う、これは何て感情なんだろうか……」


「慈しみ、じゃないですか?」


 予想外に腕の中からアンが声を上げる。


「起きていたのか」


「はい」


「まだ寝ていて良いぞ? 俺もまだこうして居たい」


「はい、そうします……」


 そう言ってまた部屋の中は静寂に包まれる。


 アンの膝が太腿に触れている。


 まるで赤子か猫の様に背中を丸めて寝ている姿が想像出来た。


 アンの寝姿を幻視出来てしまうと、彼女の言った言葉が脳裏に過ぎる。


「慈しみ、か。普段使わない言葉だな……」


「リュート様らしい、と思いますけれど?」


 俺らしいと言われても反応に困る、そんな大層な生き方はしていない。


「エミリーも起きていたのか?」


「お二人の声が聞こえましたから」


「起こしてしまったか、すまない……」


「いいえ、大丈夫です」


「もう少し寝よう、もう少しこの贅沢な時間を楽しみたい」


 そう言うと目を閉じて、微睡を自ら誘う。


 二度寝は快楽だと思う。


 この状況に成ってからは生きる事に追われてそんな余裕も無かったが、二度目の微睡の心地良さに浸る。


 数分か数時間か、どれだけ時間が経過したか分からないが、腕の中でモゾモゾと誰かが動いている。


 薄ボンヤリとした頭で「誰かが動いてるな」と思っていると、手が俺の身体を撫で始める。


 くすぐる様に動く指先に反応を始める。


「ん? もう昼か?」


 体内時計は機能していないらしく、時間が読めない。


 左側でエミリーが俺の胸元に額を擦りつけているのが分かる。


 それと下腹部を羽でくすぐる様に指を這わせているらしい。


「エミリー? そう言う起こし方もどうかと思うのだがな?」


「申し訳ありません、でも触れていたく成りました……」


 溜息を吐くと、小さな声でアンに声を掛ける。


 起こす為では無く、起きていたら聞こえる位の小さな声で。


「アン、も起きてるのか?」


「はい、起きています」


 どうやらたっぷりと二度寝していたらしい。


 流石にアンが寝ているのを情事で起こすつもりは無かったらしい。


 考えてはいるのだろうが、起こし方も考えて欲しいと思うのは我が儘だろうか?


 小さく苦笑して、二人に朝の挨拶をする。


「おはよう、エミリー、アン」


「「おはようございます、リュート様」」


 綺麗にハモった二人の声に諦めて二度寝を切り上げる事にする。


「起きるか……」


「起きてしまわれます?」


「ん? 起こしていたのだろう?」


「いえ、甘えて居たいな、と……」


 エミリーの声は気まり悪そうな、我が儘を自覚した声だった。


 つまり、二度寝から先に覚めてしまい、退屈やら甘えたいと言うのか、構って欲しくなったらしい。


 何と言うか、飼っている犬猫の様な行動だ。


 まあ、真っ暗な中、する事も無ければ、出来る事も無い状態ならむしろ当たり前かも知れない。


 知れないが、性的刺激で起こされるのも正直コメントに困る。


 そしてこの会話の間も手が止まって居ない所が実に困る。


「リュート様、熱いです」


「言わんで良いから」


 苦笑して二人を抱き寄せる。


 引き寄せて交互に唇を重ねて、それから肌も重ねる。



「全く、朝から贅沢な起こし方する……」


 呼吸が整った所で小さくぼやく。


 休日の二度寝からの、刺激的な起こされ方をされたら、叱るに叱れない展開だ。


「恥ずかしいから、手加減してほしいんだがなぁ…」


 二人の女性が変な所で競い合ってるのだから、避け様も無いのだが。


 本当に、般若モードだけは避けてくれると嬉しいのだが……。


 ……でも、ドット絵。

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