67話
三人供体を洗ってから一緒に湯船に浸かる。
エミリーもアンもぴったりと肌を合わせてきた。
両手を二人の腰に回してバスタブの縁に背中を預ける。
目を閉じると湯の温かさと二人の体温の暖かさに一日中目元に入っていた力が抜けていく。
「リュート様、目の調子は如何ですか?」
エミリーが唐突に尋ねてくる。
確かに娼館に着くと、食事や室内で移動する時以外は目を閉じる事が多い。
気には成るか。
「怪我や病気で目が悪い訳じゃないからな、大丈夫だ」
エミリーの頭に首を傾げて頭を当てる。
アンが対抗して強く軆をくっ付けてくる。
アンの腰を強く引き寄せてやる。
他愛の無い話をしながら全身を温めて、暫くしてから湯船を出る。
「リュート様、全身真っ赤です!」
アンが驚いて肌に手を触れる。
アルコールを含んだ体は逆上せ気味だった。
二人より酒に弱いみたいだ。
日本人がアルコールの分解を体質として得意ではないのは事実だ。
要するに悪酔いしない範囲で飲めば良いだけだが。
「体質的に酒に強く無いからな。二人と呑み競べしたら早々に負けるな」
笑いながら髪を掻き上げて絞ると水滴が肩に垂れる。
「キチンと拭かないと風邪を引いてしまいます」
アンが綿の手拭いで全身を拭ってくれる。
それが終わるとエミリーが広げたバスローブを羽織る。
一人でさっさと浴室を出るのも薄情に思い、二人が体を拭き終わるまで待つ。
「お待たせいたしました」
エミリーの声に頷いて浴室を出る。
湿気の無い部屋に出ると一気に汗が噴き出してくる。
体温が随分と上がっているらしい。
汗が落ち着くまでソファーで寛ぐ。
「リュート様、何かお飲みに成りますか?」
「ああ、果実を絞った物か、果汁が入った水を頼む。二人も何か欲しければ用意してくると良い」
飲み物を頼み、二人にも進めつつ、柔らかな蝋燭の明かりの中でぐったりとソファーに凭れ掛かる。
疲れで酔いが回り過ぎたらしい。
風呂で血行が良くなったのも有るか。
後一杯でも多く口にしていたら、悪酔いした予感が有る。
全体的にアルコール度数が高いのかもしれない。
これからは、酒は風呂の後にしないと悪酔いで潰れそうだな。
欠伸を噛み殺しながら二人を待つ。
眠気を感じながら明日の予定を考える。
蛾の方のシルクを昼間で集めて、それから蜘蛛を叩きに行こう。
明後日を休みの日にして二人を誘ってシルクで服を仕立てに行く感じか。
繭から糸を紡いで、糸を染めて、織り機で布にする。
服に成るのはその後数日掛かる。
取り敢えず赤と白は避けよう、二つ名の「返り血」を補強する様な事はしたくない。
何と言ったか、確か中二病?は持ち合わせてない俺には悶絶する位恥ずかしい。
少し想像してみる。
「俺はリュート、返り血のリュートだ」と誰かに話しかけている自分を。
「無いな、無い無い……」
ああ、頭が痛くなってきた。
これが黒歴史ってヤツか。
自分から言い出した訳でも無いのに厄介な話だ。
思わず両手で頭を抱えてしまう。
ドアがノックされて二人が戻ってくる。
手にはお盆と水差しの様な物を携えている。
「頭を抱えられてどうされました?リュート様」
エミリーの不思議そうな声に手を下して目を開ける。
「頭が痛い事を思い出してな、どうしたものかと」
「頭痛の種、ですか?」
アンが確認する様に繰り返す。
「不本意極まりない、酷い二つ名を付けられた…」
「二つ名ですか? どの様な二つ名なのですか?」
「あ~、返り血のリュートだそうだよ」
ゲンナリして背もたれに体を預ける。
「随分と物騒なお名前ですね……」
「リュート様の印象と違う様な……」
ああ、良かった、二人からはまともな反応が返ってきた。
「リュート様、お飲物です」
「ああ、ありがとう」
アンが差し出すコップを受け取り一口含む。
何か柑橘類を絞って水に入れた物だ。
さっぱりとしていて飲みやすい。
コップを空けて立ち上がってベッドに向かう。
「もうお休みになさいますか?」
「俺はな、二人は飲み終えてからで良い」
ベッドの脇に脱いだ靴を置いて横になる。
ソファーや風呂でも寛いでいたが、やはりベッドに横になるのは別格だ。
布団に潜り込むと心地良さに目を細める。
「リュート様、灯りを消しますね」
「ああ、頼むよ」
「本当にお疲れなんですね……」
「体は大して疲れてないんだが、心が疲れたよ」
アンの案じる声に素直に応える。
シーツの擦れる音がして二人もベッドに上がってくる。
交換されたばかりのシーツの心地良さに眉が下がる気がする。
酒の酩酊感とシーツの心地良さと、二人の素肌の滑らかさと柔らかさに夢見心地に成る。
両腕に頭を乗せる二人と交互に唇を重ねて笑い合う。
右腕に頭を乗せるワインの香りがするのがエミリーで、左側で肌を寄せて来るのがアンか。
ガウンが肌蹴て互いの素肌を擦り合わせながら、夜は更けていく。
「……でも、ドット絵」
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