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65話

身売り、女衒、売春婦。

現代にも影に隠れて行われてる社会問題ですね。

 エミリーとアンに案内されて3階の広い、ここ連日で泊まっている部屋に入る。


 部屋に入ると胸当てを外して仕舞う。


 両肩に掛かっていた鉄の重みも無くなって脱力する。


「リュート様、お顔緩んでますよ?」


 エミリーのクスクスと笑う声に指摘されて慌てて取り繕う。


「今日は疲れた、本当に疲れたんだ…」


「そんなにお疲れなんですね?今日はどんなモンスターを?」


「今日は人間に襲われた…それが一番堪えた…」


「え? 何故リュート様が襲われるんですか?」


「ああ、色ガラスの製法をな、吐かせる為に(さら)うつもりだったらしい」


(さら)っ、大丈夫なのですか?」


「お怪我は? リュート様お怪我は?」


 エミリーとアンが口々に捲くし立てる。


「大丈夫だ、キッチリ撃退して雇い主まで締め上げたから、物理的に」


 そう、物理的に足と顎を締め上げたんだった。


 連中の顔が見れなかったのが残念で堪らないが、それでももう俺に関わってくる理由は無い。


 有るとしたら大金を払わされた逆恨みからの報復だろうが、連中のLvは分からないが三人で俺をどうこ

う出来無いのは身に染みたはずだ。


 その「もし」が有るなら、それまでの間にLvをもっと上げてしまえば良い。


 蜘蛛と熊を倒し続けてLvを35まで上げてしまおう。


 収入面でも戦力面でもそれが良い。


「物理的にって、リュート様は何をなされたのですか?」


 アンは俺の言葉の不穏当さに気が向いたらしい。


「ん? 襲撃者を張り倒して工房主の目の前で足を全力で握り込んだだけだ」


「リュート様のお力で握り締めたら痛いんじゃ……?」


「そりゃ痛いだろうさ、泣く程締め上げたからな」


 流石に「全力で握って骨を折った」とは言えない。


 そんな凶暴で力が有る相手に身を委ねるのは怖いだろうから言わないでおく。


「キッチリ買い取らせたから、もう何も言ってくる事は無いだろう」


「命を狙われる金額だったのですか?」


「さて、金貨20枚を払いたくない、と銀貨20枚位で依頼したらしいが、な」


「……金貨20枚は、命の対価には十分な額です……」


「……私達の値段でも有ります……」


 二人の声には絞り出す様な悲痛な響きが籠っていた。


 ああ、俺は今地雷を踏んだらしい。


 親に売られたか、自ら飛び込んだかは分からないが、それ相応の額だったのだろう。


 娼館の娼婦は待遇として悪くは無いだろう。


 だが、それが女性として辛くない筈が無い。


 それでも気丈に男を持て成してきたのだ。


 俺は不用意な言葉で、生傷か傷跡かを引っ掻いた。


 いや、生傷だな、現在進行形で娼婦をしているのだから。


 二人に掛ける言葉が見付からずに黙り込んでしまう。


 これ以上無神経な言葉で二人を傷付けたくない。


「申し訳ありません、直ぐにお食事の用意を致しますね」


 奮って明るい声でエミリーが告げると部屋を出ていく。


「アン、今日は二人も好きな物を思い切り飲み食いしよう、俺も命を狙われて気分を変えたい」


 傍らのアンの背中を押して送り出す。


 アンも一礼して部屋を出ていく。


 先ほどの会話で二人の借金は金貨20枚程なのだと予想が付く。


 俺が肩代わりするのは簡単だ。


 簡単だが、その後どうする?


 10代かそこらで身売りしたか、された女性がいきなり表世界に出ても余計に悪い事に成りかねない。


 稼ぐ方法を身に付ける所までケア出来なければ意味が無い。


 そして俺にはそこまで首を突っ込む理由が無い。


 二人には救われたが、それは代金と引き換えでしか無い。


 お人好しで済む話では無いし、二人を本当に身請けする様な関係でも無い。


 いや、傍目から見たら二人を囲って、独占してる様にしか見え無い。


 同時に、二人と良い仲の男が居たなら引き剥がした可能性すら有る。


 盛大にしでかしたかも知れない。


 思わず頭を抱えていると二人が戻ってくる。


「ただいま戻りました、リュート様」


「お食事をお持ちしました、リュート様」


 お盆に何か乗せて二人が戻ってくる。


 今日の夕食らしい。


「二人も何か酒を持ってきたのか?」


「はい、私の好きなワインを頂きます」


「私は果物を追加で頂きたいと思います」


 切り替えて来たのか二人の声には陰は無い。


 強い娘達だと思う。


 想像する事しか出来ないが、その心の痛みと傷は深いだろう。


 そして、それは俺が口には決してしてはいけない事だ。


「なら食べよう。流石にお腹空いた」


「ただ今並べますので、お待ちください」


 エミリーがお盆から料理をテーブルに並べていく。


 右にアン、左にエミリーが座る。


 席に着いて三人揃ってから食事に手を付ける。


「アン、今日の料理は何だ?」


「今日はローストビーフとスープとパンです。リュート様が食べれない物は有りません」


「ありがとう、助かる」


 悪夢再び、は避けたいからな。


 アンに笑いかけてからフォークを手に取り薄切りの肉を口に含む。


 赤身のしっかりした味とソースの微かな酸味と苦味、それに強い旨味が口の中に広がる。


 野菜を炒めて、肉を焼いた脂と焦げの苦味を足して煮て濃縮した感じ。


 ローストビーフの定番ソースだと思う。


「旨いな、うん、旨い」


「お気に召したなら幸いです」


 左から声がするからエミリーだな。


 パンを千切って口に放り込む。


 うん、パンは普通だった。


 もう一欠片をスープに浸してから口に運ぶ。


 ローストビーフを作る時の肉の端切れを使ってるのか中々旨い。


 満足気に吐息を溢すとエミリーがグラスを差し出してくる。


 礼を言って受け取り口に含む。


 いつも飲むワインより味が強い。


 酸味より渋味が勝ってるのか、全体的に味が濃い感じがする。


「旨いワインだ、これがエミリーのお気に入りか?」


「はい、滅多に呑めませんが」


「今日の料理は味が濃いからいつものワインだと酸味しか感じなさそうだ。


 旨いワインを勧めてくれてありがとうな?」


「いえ、私が呑みたかっただけですから」


 少し下から籠った声で返事が返ってくる。


 余り突っつくのも不粋だろうから、


 話題を変えて食事を続ける。


「二人のドレスは綿だよな?シルク地のドレスは着ないのか?」


 見た目では分からないが、触れれば俺でも綿とシルクの違い位は分かる。


「シルクのドレスなんて高くて買えませんよ」


 右からアンが応える。


 やはりシルクの服は高いのか。


 多分、ハンターと普通の人とでは金銭感覚がズレ続けていくのだろう。


 それでも娼館勤めはハンター寄りだとは思うが。


「明日明後日で素材を集めるから、良かったら二人供ドレスを作りに行こう」


 娼館勤めの娼婦を連れ出して良いのか知らないが、まず二人が乗り気に成らないと始まらない話だ。


「良いのですか? 仕立てはお値段がしますし、ましてやシルクでなんて……」


「いやいや、シルク自体は俺が集めるから、仕立て費用だけだよ」


「娼婦に買う代物では有りませんよ? リュート様」


「いや、むしろ君等は着飾って華で在るべきだよ」


 残念ながら彼女等が着飾っても俺自身は目に楽しい事は経験出来ないのだが。


 結局この目の問題で勿体ない事ばかりだ。


 でも、ドット絵。

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