64話
娼館に向かって歩きながら、真新しい鎧下の感触を確かめる。
不思議な素材だ。
皮なのに、ラバー素材みたいに伸びる。
締め付けられる感触も有るにはあるが、貼り付く様な感じでキツくはない。
着た事は無いが、ウェットスーツみたいな感じかも知れない。
耐久性は話を聞く限り、防刃服程度。
矢は貫通するらしいが、牙はどうだろう?
大型の獣、例えば昨日のバイト・アリゲーター・リーダーの噛み付きには耐えれないと思う。
いや、耐えれても中身の俺自身が砕かれてしまうな。
バイト・アリゲーターの牙なら貫通しないって話だが、根本的に鰐の牙は鋭さより咬合力?頼りだから、コモド大蜥蜴の牙には不安が残る。
ワイバーンの強さが分からないから断定は出来ない。
多分大丈夫だとは思うが、態々賭けに出る意味は無い。
明日明後日は蜘蛛とポイズンモスでアイテムと貨幣を稼ごう。
しかし、防刃シルクとは不思議な話だ。
艶やかで滑らかなゴージャス素材が、文字通り命綱に成るのが面白い。
モンスターが当たり前の文明だと、こう言う進歩の仕方をするのだろう。
三人分のシルクを集めたら服を作りに行こう。
普段着から防刃繊維にする辺りが俺自身の警戒心の表れなのだろう。
指先でブレストプレートを撫でると、買って数日なのに既にザラザラとした傷と小さな凹みが有る。
低Lv層向けの装備だ、目を見張る様な性能は無い。
それでも鉄製品を傷めるモンスターが居る事は素直に怖いと思う。
そして、ここから先は未知の素材に命を預ける事に成る。
鉄や鋼と言う見知った物には知識に基づいた信頼感を感じた。
それが無いのはやはり怖い物だ。
明日は色々試して信用出来ると確信を持てる様にしよう。
そうこう考える内に娼館に到着する。
向けられた悪意に今日は疲れた。
ゆっくり風呂に入りたい。
しかし、一日休みにしようとしても居場所が無いのは困った。
交渉を持ち掛けてみるか。
娼館に入ると支配人が挨拶してくる。
「いらっしゃいませ、リュート様。御用意は出来ていますよ」
「うん、それで支配人。一つ頼みがあるんだが」
「頼み、ですか? どの様な?」
不思議そうな声で支配人が問い掛けてくる。
「エミリーとアンを着けて貰うのはそのままで、あの部屋を常宿にしたい」
「ふむ、どう致しましょう。こちらを常宿にしたいと仰るお客様が居なかったので」
「昼間も使ってるなら無理だろうが、夜しか使わないなら変わらないのでは無いか?」
「そうですね、でしたら最低でも十日以上、前払いからでしたら承りましょう」
「感謝する。なら先ず十日前払いしよう」
インベントリから金貨二枚と銀貨五十枚を出して支配人に渡す。
これで疲れて狩りに行けない日や、怪我をして休みたい日でも部屋から追い出されずに済む。
丁度明日で一週間に成るこの世界で、追われない日が漸く作れたのだろうか。
「今二人にご案内させますので、ソファーで掛けてお待ちください」
支配人がその場を離れて恐らく色々指示を出すのだろう。
椅子なら兎も角、バックラーと剣を外してインベントリに仕舞ってソファーに腰掛ける。
左側に架かった盾と剣の重さが抜けるとやはり一日の終わりを感じる。
実際は胸当ても外したいのだが、ここで解放感に浸るのも気恥ずかしい。
多分あれだ、飲み屋でオジサンがお手拭きで顔を拭くのに似てるんだ。
「いらっしゃいませ、リュート様」
声の方を向くと二人が立っている。
今の声はアンか?
念の為、二人の頭上の名前を確認して立ち上がる。
これで気を張った一日は御仕舞いだ。
後は寛いで良いんだよな?多分。
多分が付きまとう日常、か。
女性に囲まれて尚、儘ならない物だ。
だからさ、……でも、ドット絵。




