62話
巨大な蜘蛛を倒した所で表情を引き締める。
「このサイズで俊敏で、糸まで使うとしたら……堪らんな」
地上での移動速度は厄介な早さを想定して動くしかない。
幸いステータスの向上で剣も重くは感じない。
多分反応速度も上がってるだろう。
深呼吸をして次の蜘蛛を探しに森の中を歩いていく。
五分位進むがフィルムスパイダーを見付けられない。
眉を顰めて一旦立ち止まる。
モンスター群生地で五分歩いて遭遇しないのは不自然だ。
もしかしたら地上を余り移動しない種類の蜘蛛なのかも知れない。
木の間を抜けながら頭上にも視線を向ける。
直ぐに頭上の木の緑色のドットが動いている木を見付ける。
周囲の木は揺れていない。
風で揺れているのかも知れないが、フィルムスパイダーが居る可能性の方が高い。
首を素早く振りながら警戒しつつ地面の石を手探りで拾い上げる。
親指大の小石を三、四個を思い切り揺れている木に投げ付け、剣を両手に握り直して数歩下がる。
音も無く巨大の蜘蛛が糸垂らして降りて着た。
蜘蛛の地面での戦闘を確認する為に攻撃をしないで観察する。
地面に足を着けた途端に巨大蜘蛛が高速で這い寄ってきた。
速過ぎて回避が間に合わない。
構えたダマスカス鋼の剣を口に突き込んで突進を留める。
勢いで鍔本まで埋まった剣を抉って内臓をズタズタにしてから、外殻を切り裂いて剣を振り抜く。
「うぇ、生臭い……」
蜘蛛の生態は知らないが、内臓の臭いは酷い。
両手に付いた体液を水を満たした革袋を使って洗い流す。
武器の相性としては刃部分の長さで剣が一番良いらしい。
多分、長巻が最適だと思う。
「やっぱり俺も日本人だなぁ。長巻なんて武器が頭に浮かぶんだから」
日本人の刀信仰の根深さを改めて思う。
「刀か……、ダマスカス鋼の剣が造れるなら……」
確か芯金が鉄で、皮金が鋼だったな。
あれ?現代の製鉄技術なら、逆の方が良い刀に成るとか聞いた記憶も有る。
製鉄技術次第には成るのだろうが、一度鍛冶屋に行ってみよう。
インベントリのお陰で武器を絞らなくて良いし、各種武器を揃えるのも良いかも知れない。
落ちたドロップアイテムを回収しながら憧れの武器に思いを馳せる。
刀もだが、そろそろ遠距離の攻撃手段も考える時期かも知れない。
引続き蜘蛛探しを開始する。
こちらも余り遭遇しない、数稼げないモンスターらしい。
暫く歩いて樹上の蜘蛛を見付けては、石を投げて誘き寄せて狩っていく。
繰り返し蜘蛛を狩っていると木々の間から見える空が気持ち赤く染まり始めていた。
森の外に出る為に来た道を戻る。
警戒して頭を下げて、膝を曲げていつでも回避が出来る姿勢で歩みを進める。
まだリポップしていないらしく、蜘蛛とサッパリ遭遇しない。
現段階で蜘蛛の撃破数は13匹。
「効率悪いな……。見付け難いのがまずややこしい」
独り言を呟くと同時にBGMがいきなり替わる。
頭上と周囲を見回すが蜘蛛が見当たらない。
すると突然後ろから何かが脚に絡み付いてくる。
脚を閉じた状態にされて仰向けに倒れこむ。
カサカサカサと猛スピードで這い寄ってくる。
脚を開けない、倒れ込んで身動きが取れない。
ダガーをインベントリから取り出すと脚に絡み付いてくる物をダガーで切っていく。
「ちっ、固い、鋼線並みか……」
蜘蛛特有の固い糸に手間取り、完全に切除をする前に蜘蛛に乗しかかられてしまう。
両手にダガーを装備して蜘蛛の体に下から突き立てる。
四回五回と鍔本まで刺し続けると蜘蛛が嫌がって距離を取る。
その隙に脚に絡んだ糸を切って立ち上がる。
再度ダガーと剣を交換して蜘蛛目掛けて右足を踏み込む。
上段から一気に剣を振り下ろして始末する。
蜘蛛を両断するとBGMが切り替わり、Lvが上がった時のシステム音がする。
ステータスの確認は森を出てからにしよう。
今はモンスター棲息地を離れることを最優先にして急ぎ足で進む。
二十分程歩くと森を抜け出せた。
「やっぱり糸を吐かれると厄介だな……」
森を出て安全地帯にたどり着いた所で溜め息混じりに対策を考える。
脚を取られる、両腕を動かせなくされるのが怖い。
蜘蛛狩りは一際慎重さが求められる気がする。
「Lvも上がったし、明日はもう少し楽に狩れると良いな」
襲撃前にLv上げておきたかったのに、そう都合良くはいかないらしい、と苦笑する。
しかし、巨大な蜘蛛は不気味だった。
流石に蜘蛛を幻視すると夢に出そうだった為、深く考えないで居たが。
取り合えず、フィルムスパイダーに関しては、リアルな映像じゃ無くて良かったと思う。
珍しく視覚異常で助かった案件だ。
でも、ドット絵。




