61話
顔が引きつるを通り越して痙攣する。
第一、「返り血のリュート」とかもう二つ名じゃなくてあだ名でしかないし、何よりも恥ずかしい事この上無い。
「返り血の、とか盗賊とか悪人に付ける物じゃないか?」
「それだけ返り血を浴びたお前が怖かったって事だろうよ」
ああ、これ手遅れなパターンだ。
今更無かった事に出来ない類の物らしい。
「もう良い……。フィルムスパイダーの強さと攻撃の特徴を知りたい」
「また物好きな。ワニより上、熊より下だな。特徴は糸を吐いて絡めとる攻撃をしてくる」
「予想通り、か。なら蜘蛛でLvが上がらなくなるまで狩り続けるか」
「ちょっと待て、お前どんなペースでモンスターと戦ってるんだ?」
「朝から夕暮れ前までだが?どうした?」
「一日何回戦闘になる?」
「さあ? 数こなせるモンスターなら100は越えるし、昨日のワニなら50匹を少し越える位だが」
バーテンダーがカウンターの内側から溜め息を吐いて頭を抱えてる。
何故溜め息を吐く?
何故頭を抱える?
「道理でお前のLvが高いか分かった。お前の頭がおかしいからだった」
「人聞きが悪過ぎないか? 客に頭がおかしいとかどうかと思うぞ?」
今のやり取りで周囲とペースが違うのは理解した。
もしかしたらソロだから経験値が独占出来ているのも有るか。
まあ、今のペースが負担な訳でも無いから、
ペースを下げて収入を制限する意味もない。
「まあ良いさ。情報ありがとう、じゃ」
「またな、返り血」
嘲笑とは行かないが、人の悪い笑いが籠った声が飛んでくる。
椅子から立ち上がり酒場を後にする。
正確には酒場から逃げ出す。
長居はしたくない。
挨拶の度に「よう返り血」「景気はどうだ? 返り血」とか嫌過ぎだ。
溜め息混じりに城門を出て、東側の森に向かって足を進める。
しかし、いい加減狩りに行くのに徒歩で移動するのには距離が遠い。
強いモンスターは街から離れて分布している。
いや、弱いモンスターの棲息地を人間が奪って街にしたのか。
ならこの城門や城壁は何を意味する?
何を警戒して建てた?
モンスターの大量発生でも有るのか?
やはり人間同士の戦争か?
夜、二人に聞いてみよう。
長居をする気は無いが、いつ戻れるかも分からない。
だからこそ備えは肝心だ。
取り合えず、武器と防具は更新し続けよう。
まあ、モンスターの大量発生でも、戦争でも備えは焼け石に水な気もするが。
足が必要に成るかも知れない。
狩り場も徐々に遠くなりだした。
「馬か馬車か……。乗馬も馬車操作もした事無いぞ……」
想像すると尻が痛くなりそうだ。
そう考えると車やバイクが取って替わった歴史に納得する。
逆にインベントリの存在から余り荷馬車は使われて居ないかも知れない。
大人数での移動用に馬車は使われるだろうが。
あれこれ考えながら歩いていると森が見えてくる。
道中、モンスターと接敵せずに到着する。
この街の東側、森までの土地はモンスターの棲息域では無いらしい。
早速森に入ってフィルムスパイダーを狩っていこう。
どうせ巨大な蜘蛛が出てくるのは予想出来る。
森の中で長柄の武器は振れないと思う。
剣かメイスで戦う事に成る。
先ずは新しいダマスカス鋼の片手半剣で切れ味の確認をして、蜘蛛の外殻との相性を確かめよう。
左腕のバックラーの調子を確かめて、腰から剣を抜き両手で構える。
周囲を警戒しながら森の中を進むとBGMが戦闘用に変わる。
周りを細かく見回してモンスターを探す。
見当たらない、どこだ?と不審に思ってると近くで悪臭が漂う。
慌てて飛び退くと、さっきまで立っていた所に2mは有りそうな蜘蛛がぶら下がっている。
スルスルと音も無く地面まで降りようと糸を伸ばしている。
その巨大で不気味な姿に吐き気を覚える。
観察していても意味が無い。
近付いて真下から片手に持ち換えて握った剣を振り上げる。
右足を踏み込んで、腰から上半身を右に捻りながら剣を走らせる。
頭と言うか、胸部と言うか、口の有る所から、
クビレの近くまでを斜めに切り落とす。
「怖っ! デカ過ぎる蜘蛛ってこんなに気持ち悪いのか……」
外殻は硬くない所か軟らかい。
そして剣の切れ味もかなり良いと思う。
蜘蛛の体が消滅するとドロップアイテムがバラバラと地面に落ちる。
BGMがまた日常の物に変わると肺に溜まった息を吐き出す。
ドロップアイテムを回収する様に意識すると、落ちたマンゴー位の大きさの白い物と、灰色の貨幣らしき物が地面から消える。
「うへぇ、見た目も感触も気持ち悪い……」
表現し難い外殻の軟らかさと内部のドロドロさに顔を顰める。
外殻はスイカの皮みたいな硬さで、中身はもっとドロドロした軟らかい生の貝に近いか。
このモンスターはリアルな映像では見たくないと切実に思う。
本当に堪らないな。
でも、ドット絵。




