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60話

 目を閉じて深呼吸を繰り返す。


 悩んでいても仕方がない。


 ヒントか予兆待ちしかないか。


 解決の道に繋がる苦労はしても、


 解決方法に成らない苦悩は無駄だと割り切ろう。


 空笑い、空元気、偽物でも今は悩むのを止めよう。



「胃が痛い……、胃酸が出過ぎだ……」


 インベントリからドロップアイテムの牛乳を取り出して喉を潤す。


 一息吐いて腹拵えする事にする。


 チキングリルを出して噛る。


 骨付き肉とは言え、物の数分で食べ終えてしまう。


 食べ終えて、牛乳を飲み干すとまたする事が無くなってしまった。


「食休みしたら何しよう?」


 ポーションの補充はした、武器の更新はした、防具の更新は夕方まで出来ない。


「新しい剣の馴らしでもするか?」


 狩りに行くのは気が重いが、する事も無いし悩む。


 剣で戦うのに向いたモンスターを思い浮かべる。


 思い浮かんだのは蜂か蛾だった。


 ドロップアイテムの買い取り額を考えるなら、シルクの糸玉を集めるのも良い。


 エミリーに何かプレゼントをしなければ成らないしな。


 服を仕立てるのなら悪くないはずだ。


「そう言えば、モンスター由来のシルクと普通のシルクで違いって有るのか?」


 艶とか強度に違いとか、他のモンスターで、より良いシルクを出すヤツが居ないかも気になる。


 被服店に寄って話を聞いてこよう。


 胃が落ち着くまで休んでから立ち上がる。


 服に付いた土埃を払って歩き出す。



 暫く歩いて被服店に到着する。


 店内に入ると店員の方から話し掛けられる。


「いらっしゃいませ、買い取りですか? オーダーメイドですか?」


 古着、オーダーメイド、被服関係のドロップアイテムまで扱うのがこちらでは一般的らしい。


 既製品は徒弟の練習用に作られ、小数が置かれている程度。


 実は着てみると分かるが、袖の丈や裾が不揃いだったりする。


 ファンタジー中世で古着を着る勇気は無いから、訳あり既製品を買っている。


「ああ、すまない。幾つか聞きたいのだが、ポイズンモス以外にシルクを出すモンスターは居ないかを聞きたい」


「ポイズンモスより艶が強いブラッドバタフライ、刃物に強くて艶が弱い糸を落とすのはフィルムスパイダーです」


「それぞれの群生地は分かりますか?」


「フィルムスパイダーは東側の森に居ます。ブラッドバタフライは近隣には居ません」


 Lv帯次第で蜘蛛狩りも視野に入れる事にする。


「因みに、フィルムスパイダーはどの位のモンスターだろうか?」


「私はハンターではないので、すいません、分かりません」


 それもそうか、久し振りにあの酒場に行ってみるか。


「最後に、糸玉幾つで服を作れるのかを教えて欲しい」


「そうですね、四玉で一着が作れる布地に成ります」


「ありがとう、参考に成った」


 礼を言って店を出る。



 城門脇の酒場を目指して歩を進める。


 歩きながらシルクの事を考える。


 刃物に強い服は魅力的だが、艶が弱いと女性にプレゼントするには向かないか。


 それとも糸を紡ぐ段階でポイズンモスのシルクと蜘蛛のシルクを一緒に縒れば、艶と防刃性が両立するかも知れない。


 後は色だな。


 調べた事は無いが、蜘蛛のシルクって染めが可能なのか?


 蜘蛛の巣が水滴を弾く印象が有る。


 そう言う意味でも一緒に縒るのは良い手なのかも知れない。


 頭の中で糸を紡ぐ映像を思い浮かべる。


 眠り姫に出てくるあれだろうか。


 見た事が無いから自信は無いが、あの段階で二種類の糸玉から縒ったら可能か?


 イメージだと綿から毛糸位の太さで紡いでいた印象だ。


 絹の糸玉だとどうなんだろう?


 流石に雑学の範囲を越えると判断出来ない。


 糸玉を集めてからまた聞いてみよう。


 そんな事を考えながら歩いていると酒場に到着した。


 スイングドアを開けて店内に入ると混んでは居ないが、パラパラと客が居る。


 まだ昼過ぎなんだがな。


 なんと言うか、日雇いに近い感覚なのかも知れない。


 取り合えずカウンターの席に座りバーテンダーに話し掛ける。


「ちょっと教えて欲しい事が有るんだが」


「久し振りに来て、挨拶も酒の注文も無しか?」


「この後狩りに行くつもりだから、酒は入れたくないんだ。酔ってモンスターと戦うとか有り得ないだろ?」


「呑んで明日からにしたら良い。酒以外は水と果物位しか無いぞ?」


 なんだろう、この酒呑み理論。


 飲兵衛じゃない俺には着いていけない理屈だ。


 確かに、酒場に来て飲めるのに飲まない方がおかしいのだろうが、一杯引っ掛けてからの狩りは油断し過ぎだと思う。


「なら果物を貰うよ、昼間から呑むのは性に合わない」


 バーテンダーは溜め息を吐いてカウンターの下でガサゴソし始める。


 バーテンダーがカウンターに赤いドットの四角い物を置く。


 多分果物なんだろう。


 多分林檎なんだろう。


 手に取ると丸い滑らかな皮、林檎か林檎の近縁種だろう。


「銅貨二枚だ」


 インベントリから銅貨を出してカウンターに置く。


 多分林檎を一口噛る。


「酸っぱっ! しかもパサパサ!」


 口の中一杯に酸味が広がる。


 品種改良が進んだ林檎をイメージしていたら、


 手痛いしっぺ返しを食らった。


「そう言えばお前噂に成ってるぞ」


「噂? 二回しかここに顔出してないのに?」


「何日か前にパーティーを助けたろ? 連中が喋りまくってたからな」


「ん? なんだっけ?」


 パーティーを助けた?


「コボルトに囲まれたパーティーを助けたろ?」


「ああ、有ったなそんな事」


「いや、なんで四人パーティーが持て余す群れをソロで殲滅出来るんだよ?」


「Lvと位置取り? コボルトの攻撃範囲の外から処理してけば良いだけだろ?」


「だからあんな二つ名が付く訳か」


「二つ名? 何だそれ」


「コボルトの群れを吹き出す鮮血の中、真っ赤に成りながら暴れてたから。お前何日か前から「返り血の

リュート」だか」


「ダセえにも程がある! 二つ名なんか要らん!」


 面白がる声とダサい二つ名にカウンターに突っ伏して悶絶する。


 二つ名とか意味が分からない。


 ゲラゲラと笑うバーテンダーの顔を憎々しげに見上げてしまう。


 バーテンダーの顔に意地の悪い笑顔の幻視が重なる。


 本気で殴りたい。


 表情は見えないがどうせ人の悪い笑顔をしてるんだろう。


 ああ、見えても見えてなくても腹立たしい。


 でも、ドット絵!

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