↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/179

59話

 ガラス工房を後にして、取り合えずその場から離れる。


 特に行く宛も無いが、正直今日は狩りに行く気力が壊滅した。


 この視界で街の観光をしても空しいだけだ。


 歩きながら考えるが何も浮かばない。


「ん~、する事が無い……」


 周りを見回してもドット絵の街並み。


 歩く人々もドット絵。


 目に写る物は細部不明のドット絵。


 ああ、良く考えたら初日以外、毎日狩りに必要な用件でしか街を歩いていない。


 いや、見ても見えていないのと同じだと、切り捨てて居たのか。


 本当に出来る事は狩りでモンスターを倒して稼ぐ事だけなんだと思い知る。


 視界に屋台の列びが入るが、何を売っているのかやっぱり判らない。


「いつまでこのまま何だ?」


 何故この世界に居るのか、いつまでこの世界に居る事に成るのか、結局分からないまま着てしまった。


 そして、このままだとどこに行くのかも分からない。


 答えは出ない。


 そして、答えが有るかも分からないのだ。


 気落ちしたままダラダラと歩いていると腹が鳴る。


 ああ、昼が近いのか。


 屋台を眺めて何を出しているのか分からないと買うのも躊躇われる。


 と言うか、並ぶ勇気が無い。


 またカエルだったら引き籠もりたく成る気がする。


 そう言う意味では初日で鶏のグリルを屋台で買えたのは幸いだった。


 ただステータスの幸運の数値が日常生活に作用するとは思えないが。


 多分、ドロップアイテムに関わるだけだろう。


 覚悟を決めてからしか食事も出来ないのが現状で、その現状は変わる気配も無い。


 要するに慣れなければいつか近い内に心が病む。


 ああ、空腹と胃痛で吐きそうだ。


 取り合えず、街の広場に移動しよう。



 広場の街路樹の下に腰を下ろして溜め息を吐く。


 いつまでも抱えていたくなかった製法を売り払って、大金が手に入った途端に気落ちしてる自分に笑いが込み上げてくる。


「何をやってるんだ、俺は……」


 最初は夢だと思った。


 次いで夢で有ってくれと願った。


 そして怖さから考えない様にした。


 結局、分からないまま足踏みをし続けただけだった。


 元に戻れる日まで生き延びようと思ってたはずが、気が付いたら次々強いモンスターを狩りに行くのが当たり前に成っている。


 いや、安心して寝れる場所にお金が掛かり、稼ぐ為にある程度良い武器を求めて、武器の為により稼ぎが必要になっただけ。


 だけ、と言い切れないのは「毎日毎夜帰りたいと考えていたか?」と、誰かに尋ねられた時に即答出来ない自分に気が付いたから。


 居たい訳じゃない、帰りたいと考え続けるのが苦しかったのだ。


 正直、もう何も視たくない。


 暗闇だけが安息なのだ。


 目を閉じて、視覚異常を遮断する。


「不味いな……、実は限界だったのかな?」


「街中で、こんな陽気で限界なんて似合わなくない? お兄さん」


 面白がる様な甘い声が降ってくる。


 誰だ? 昨日の警告者か?


 今は人の顔は視たくない。


 のっぺりとした絵が喋っている様な視覚異常を確認したくない。


 声から判断するに、まだ若い感じだ。


 目を開けるのを拒み、深呼吸をしてから尋ねる。


「君は誰だい?」


「私はムーサ、可愛くないからミューって呼んで?」


 少しだけ声の主の方に顔を向ける。


「ムーサ、ミュー。それで何か用かな?」


「いやね、怪しいのに付けられてたお兄さんがこんな所で疲れて潰れてるし、昨日の連中も見当たらないからどうしたかな?ってね」


 ああ、この声の主は面白そうな事に首を突っ込みたがるタイプなのか。


「連中ならガラス工房で折れた足を抱えてるんじゃないかな?」


「折ったの?」


「ああ、折った、バキッと」


 笑いながらゆっくり右手を閉じる。


「握り潰したの? 握り潰しちゃったの?」


「潰せはしなかったさ、細い方の骨を折っただけで」


「過激~、怖い怖い」


 本当に怖がってる風には聞こえない口調で返してくる。


「礼が遅れたな、昨日は警告してくれてありがとう。危うく袋叩きにされて殺される所だった」


 事実、昨日の警告が無ければ無警戒に襲われていた。


 警告無しに切り抜けられたとは考えて無い。


 連中の攻撃を乗り切れたのも単純に初手が刃物じゃ無かったからだ。


 打撃はステータスで緩和されても、


 刃物で急所を突かれたら一堪りもない。


 装備品の強化は必須だとつくづく思う。


「いやいや、面白そうだっただけだよ。縁が有ったらまたね」


「またな、女神様」


 一方的に面白がられては俺が面白くないから、ミューの名前で最後に弄る。


「なんで分かったの?」


「ムーサ、読み方を変えてミューズ。確か女神の名前だよな?流石に女神を名乗るのは恥ずかしいか」


「むー、お兄さんやりにくい」


 片目だけ開いてミューの頭上の名前を確認すると、やはりミューズの名前が有る。


 ミューは何かぶつぶつ言いながら去っていく。


 面白い娘だったな。


 他人と話をして少し落ち着いたのが、胃痛が和らいでいた。


 つくづく人間って生き物は何らかの形で他者と関わりを求める生き物だと納得する。


 まあ、抱き締め合っても俺にはドット絵人形にしか見えないのだが。


 でも、ドット絵。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。