58話
今回は拷問テイストが若干有ります。
ちょっとだけですが、苦手な方はスルーして下さい。
ガラス工房の中が騒がしくなる。
当然だろう、ドアを蹴破って怪我人を引き摺って乱入者が現れたら、 誰だって驚くし慌てもする。
「何事だ?」
工房の奥から工房主が表れる。
満面の笑顔で工房主に話し掛ける。
「商談に来たぞ?」
「お前は……!」
俺の顔を見て驚いたのか、俺がぶら下げる連中を見て驚いたのか分からない。
ただ、大層驚いてくれたのは良い。
「この場で商談に入るか?」
いかんいかん、表情が獰猛な笑顔に成りそうだ。
「話は俺の部屋で聞く!」
一つ頷いて工房主の後を着いていく。
石畳からずっと引き摺られた連中が弱々しく呻くが、それはどうでも良い。
工房の玄関に残していくのも迷惑だろうからな。
連中を引き摺ったまま工房の二階に上がって行く。
呻き声が強くなるが死にはしないだろう、多分。
廊下の突き当たりの部屋に工房主が入るので、続いて俺も部屋に入る。
「何のつもりだ? 怪我人を引き摺って俺の工房に何の用だ!?」
「語るに落ちてるぞ? 無関係なら「こいつらは誰だ?」と叫ぶのが正解だ」
「確かに顔見知りの連中だ。だが、だから何だ?」
「こいつらが全部喋ったぞ? あんたに依頼されて俺を襲ったってな」
掴んだままの連中の足を分かりやすく振って見せる。
息を飲んで工房主が黙り込み、場に沈黙が広がる。
「商談の前に聞こうか。こいつらに幾らで依頼した?」
「……銀貨20枚だ……」
「青ガラスの製法と赤ガラスの製法と俺の命が銀貨20枚とは驚きだ、勝手に命に値段を付けられたのも、安過ぎる金額にも、な」
返事も出来ないらしい。
それもそうだ、失敗するとは思って無かっただろう。
現実を知らしめて、二度と関わりたくないと心折る為に踏み潰しておく。
「色ガラスの製法を知らず、手に入れられなかったあんたの価値、値段は俺より高いのかな? 俺が払ったら素直に殺されるのか?」
暗に生殺与奪権はこちらに有ると宣言する。
俺の発言の度に舌打ちが聞こえる。
まだまだ折れないか。
深く息を吸って、ジワジワと手に力を入れる。
掴んだままの足首を握り込む。
呻き声が泣き声に変わる。
もっと力を込める。
泣き声が悲鳴に変わる。
更に力を込める。
悲鳴が絶叫に変わる。
鈍い、骨が折れる音がして男の声は断末魔の色を帯びる。
骨の音は一回だけ、腓骨が折れた音らしい。
脛骨は流石にまだ折るには筋力が足りないか。
「で? 商談は進めるか?進めないのか?」
取り合えず笑顔で尋ねてみる。
返事が無い、唯のしかばゲフンゲフン。
じゃ、二本目行くか。
握り込んだ足首を離して折れた足を床に落とす。
再度悲鳴上げさせて、違う奴の足首を掴む。
足元から止めてくれと懇願されるが無視する。
ユックリ掴んだ足首に力を込めて行く。
同じ様に懇願から断末魔の悲鳴までを周囲に聞かせて、改めて工房主に尋ねる。
「商談を進めるか?」
暫く待つが返事が無い。
何かカチカチ音がするが、
返事が無ければ話は進まないから繰り返す。
三人目の足首も持つ主と一緒に悲鳴を上げて折れた。
もう逃げ出す事も出来ないだろうから、足を離してやる。
工房主の反応を促す為に再度問う。
「もう一度聞く、商談を進めるか?」
工房主の顔辺りから盛大にカチカチと音がするが、返事をする余裕ごと折ってしまったかな?
それともこの握力が自分に向かって来ないと思ってるのか?
なら、直接返事を促してみるか。
逃げる間を与えずに工房主の顎を掴む。
「返事も出来ない口なんか不要だよな?俺が砕いてやろうな」
少し顎の骨が軋む位の力を込める。
「止めてくれ! 買い取る! 止めてくれ!」
折れたか、心の方が。
今どんな顔をしているのだろうか?
そして、俺自身がどんな顔してるのやら。
少なくとも愉快でもないが、良心の呵責も無い。
漸く話が進みそうなので、手の中で藻掻く工房主から手を離してやる。
工房主はバタバタと逃げる様に部屋の机に飛び付き、
引き出しから何かを取り出した。
「金貨20枚だ、これで良いだろう?」
「命を狙った事への対応はまだされてないが?」
「俺は殺せなんて言ってない、命令してない!」
深々と溜め息を吐いてから教えてやる。
「金貨の取引をケチってゴロツキを雇って、袋叩きにして秘密を吐かせて。吐かせたら何もせず解放する? 有り得んだろう?」
まあ、どちらにせよ襲わせたのは事実だし、自分で認めた時点で言い訳の余地はない。
もう少し追い詰めるとしよう。
「今迷ってる。青ガラスだけ教えて、赤は他所に売るのも手か? と」
そして、他所に赤ガラスの製法を売った場合のデメリットを教えてやろう。
「青ガラスに赤いワインを注ぐとグラスが黒く見えるから、ワインを好む富裕層は青ガラスより赤ガラスのグラスを買いたがるだろうな?」
珍しい今は良くても、駆逐されるのはあんただ、と教えてやる。
そして、出し抜きたいと、先んじたいと考えるなら、高くても製法を手に入れたがるだろう、と。
「俺を排除出来ない、製法を手に入れなければ客が逃げる、あんた詰んでるぞ? もう」
これで良く今まで工房を維持出来ていたな?
商才が無さ過ぎないか?
「青も赤も両方買わせてください……」
陥落したか。
進退窮まった事を漸く理解したらしい。
「青ガラスの製法20枚、赤ガラスの製法50枚、迷惑料と合わせて全部で金貨100枚だ、オマケで緑色のガラスの製法も教えてやる」
金額としては大きいが、世界初の色ガラスの製法三種類なら安いはずだ。
命を狙われた迷惑料を考えたら穏当な金額だと思う。
「100枚……、100枚……うぅ……払う」
机の上でじゃらじゃらと硬貨のぶつかり擦れる音がする。
暫くして、袋に詰めた金貨を受け取る。
革袋をインベントリに仕舞って金貨100枚を確認する。
さっさと製法を教えて関わりを終わりにしよう。
「青ガラスの顔料はコバルト。モンスターのコボルトからのドロップだ。赤ガラスの顔料は金、徹底的に粉末にしないと発色が悪い。緑ガラスは以前作っていた黒いガラスを透明なガラスに混ぜると緑を発色する」
口頭で説明すると単純過ぎるが、分かりやすく説明するとこんな物だろう。
用の無くなった工房からさっさと引き揚げるとしよう。
今更連中が俺を害する意味も気力も無いだろう。
有っても脅威に成りそうに無い。
しかし、中々に堪えた。
命に直結した他者からの悪意は吐き気を催す物だと初めて知った。
ドット絵の世界で視界異常に悩まされ続けだか、目に見えない悪意に直面すると対処が一際難しい。
難しいのにシリアスに成れないドット絵の視界に辟易する。
本当に厄介な目だと思う。
でも、ドット絵。




