57話
体当たりを完全に盾で受け止められた事に満足した瞬間に、反対側から路地に引きずり込まれる。
油断した、体当たりを捌いた隙を突かれた。
頭の中が瞬時に冷めて行くのが分かる。
大の男三人掛かりで路地の奥まで押しやられる。
囲まれ、押しやられながら殴る蹴るの暴行を受けるが、ダメージは大した事無い。
Lvに差が有るのか、痛みも思考を邪魔しない程度にしか感じない。
刃物を使わない所を見ると問答無用での殺害は目的では無い、か。
やはり色ガラスの製法目当て。
喋れれば負傷はむしろ推奨位か。
囲まれ追いやられる内に、腰の新しい片手半剣が奪われる。
抵抗力を奪うつもりらしい。
ならば、揉み合いの今の内にインベントリから、ウルフファングダガーとボアリーダーのダガーを取り出して両手に装備する。
俺自身のアドバンテージはインベントリの中の武器達。
人間武器庫さながらに、換装運用が出来る点だ。
袋叩きにするつもりで接触状態なら、ダガーの有効範囲内だ。
腕を振るって連続で三人に切りかかる。
箇所はこの際問わず、切り傷で怯ませたらそれで良い。
「イデッ」「グッ」「ガッ」短い呻き声が漏れる。
浅く複数の負傷を負わせたら囲みを強引に突破する。
体当たりの勢いや暴行の威力からLvやステータスは俺に分が有るらしい。
刃物で急所を攻撃されない限り、致命的なダメージには成らないらしい。。
囲まれたまま武器で袋叩きにされたら、流石に切り抜けるのは不可能だろうが。
思考が想像以上にクリヤーで、吐き気がする様な悪意にも冷静に対処法が浮かぶ。
殺す事は勝利条件には成らない、元凶を叩く道具にすべきだ。
挟み撃ちにされない様に立ち位置を整えて武器を構える。
右手のウルフファングダガーは順手、ボアリーダーのダガーは逆手に握り込み、いつでも全力で飛び込める様に腰を落とす。
広くもない路地に三人で、満足に武器振れる訳が無い。
順々に単独撃破していけば良い。
荒事に馴れた連中ならダガーの切り傷位で戦意を喪失はしないだろう。
気を引き締めて戦おう。
昨日の死闘と同じ位には危険な状況だ。
右手のダガーを胸に投げ付けた瞬間に、次いで左足で地面を蹴り出す。
右足を踏み込みながらインベントリから槍を右手の中に出現させて、勢い良く先頭の男の腹に突き出す。
腰を捻り、肩を入れ、右手を押し出して槍を突き立てる。
投げたダガーは男の胸の右側に突きたった。
「ウガッ!」と声を上げて男が呻く。
胸元と腹部に命中した刃に身をよじる。
槍を捻る様に引き抜いて足元に投げ捨てる。
ガシャンと音を立てて槍が転がる。
槍を捨てたと認識してくれたら次の布石に成る。
右足を引いて右手を背後に隠してインベントリからメイスを手に取る。
最後尾の男が倒れこんだ男を引き摺って下がる。
二番目の男が灰色のドットの棒を構える。
メイスと違いドットに膨らみが無いから片手剣の類いだろう。
息を整えて相手の出方を見る。
鋭い踏み込みからの剣の一閃が降り下ろされる。
その一閃にぶつける様にメイスを叩き付ける。
片手剣が1.5kgならメイスは3kg、それに降り下ろしの速度が乗れば衝撃で手首の捻挫位はするだろう。
屈めた膝を伸ばして、太股と背中の筋肉のバネを活用して、一度下に走らせたメイスをそのまま上に打ち上げる。
男の顎に命中して骨を砕く、潰れた音がする。
一つ一つの動作の合間を出来るだけ短く、付け入る隙を作らない事を意識して必要な行動を最短時間で進めていく。
捨てた槍を触れずにインベントリに一旦仕舞う。
最後尾の男は瞬殺された仲間に驚いて身体を翻す。
「聞いてねえ! こんな強えなんて聞いてねえ!」
何やら叫びながら逃げ出す男を追う。
メイスをインベントリに放り込んで足を踏み出す。
「逃がさん」
こちらもダッシュして右手に意識を向けて、槍の柄の後ろ側を頭に浮かべてインベントリから槍を出す。
握り込んだ槍を踏み込みと一緒に突き出して背後から刺し貫く。
後ろから右肩を貫かれて男は地面にのたうち回る。
胸側から灰色のドットが生えている。
肩甲骨を砕いて貫通したらしい。
暴漢を無力化した事を確認して大きく息を吐き出す。
他者から排除する意図で悪意、敵意を向けられたのは初めてだ。
「念の為に聞いておく。誰に頼まれた?」
槍を抉りながら男に尋ねる。
「ガラ、ス工房の、オヤ、ジだ。あん、たを口、が利ける、範囲で袋叩、きにし、て連れ、てこい、と」
痛みに途切れ途切れで男は質問に答える。
「加えて聞く、俺の事をどこまで知ってる?」
「あ、んたの狩り、の、場所と常、宿まで、は調、べた」
やはり宿まで特定されていたか。
「見逃し、てくれたら、もうあ、んたに、関わら、ない、見逃し、てくれ! 頼、む!」
「命を狙っておいて、失敗したら見逃せ? それは都合が良過ぎるだろう?」
「俺達、は命、までは狙、って無い」
「はあ? 怪我させて抵抗出来なくして、情報を聞き出したら解放するつもりだった、等と言うつもりか?」
身勝手な言い分に頭の熱い部分が殺せと主張する。
冷静な部分は後腐れなく殺しておくべきだと主張する。
そして、俺の性根のネジ曲がった人格はもっとえげつなく行けと主張している。
刺さったままの槍を引き抜いてインベントリに収める。
奪われて転がされてる剣も拾い上げて剣帯に吊るし直す。
一人目に刺さったままのダガーも回収すると、連中の足を掴んで右足か左足か分からないが、一本ずつ三本纏めて以前購入した紐で括り付ける。
肉に食い込もうが、血が止まろうが関係ない。
頑丈に結び付けて、ガラス工房まで地面を引き摺って運ぶ。
痛みに暴れるが、その都度蹴りを入れて黙らせる。
いつもより早足で歩くと呻き声と嗚咽が聞こえるが無視する。
ガラス工房に到着するとドアを蹴破る勢いで蹴り付ける。
「商談に来たぞ?」
我ながら物騒な商談だとは思う。
思うが、へし折れるまで踏みつけないと気が済まない。
心折れる瞬間が見れないのが残念だが。
本当に融通が効かない視界だ。
でも、ドット絵。




