56話
『艶』を挟んでいます。
少しのエロも駄目な人はスルーして下さい。
暑い、そして腕が痺れた。
そんな感覚で目が覚めた。
両腕が痺れを通り越して冷たい気がする。
Lvが上がっても女性の頭の重みで腕が痺れるのが少し面白い。
「しかし、寝返りが出来ないと肩が凝るんだな」
「おはようございます、今退きますね」
「いや、もっと良い方法が有る」
右腕を持ち上げてアンの頭を胸元に引き寄せる。
「これなら痺れない。まあ、今度はアンの首が疲れるが」
「いえ、大丈夫です。それに……」
いきなりアンに口を塞がれる。
寝起きから情熱的な事だ。
女のプライドの発露なのだろうな。
「あの、腕枕で寝てるもう一人の女を置いてけぼりは流石に酷いと思いませんか?」
当然、エミリーも起きる訳で。
エミリーの口撃に舌を掻き回される。
尾てい骨の疼きが消え、呼吸と汗が落ち着いた段階で誤魔化す様に二人に尋ねる。
「あ~、これから二人共俺に着いて貰う訳にいかないか?」
「え? 毎晩私とエミリーさんを一緒にですか?」
「ああ、その方が俺も二人も無理がない気がする」
「毎日、倍額掛かりますがよろしいのですか?」
「貯蓄とは別にその額なら余裕を持って稼げている」
両側から軆を擦り付ける様にしがみついてくるので、了承と受け取る。
さて、用意して出るとしよう。
三人でベッドから起き上がるとエミリーが窓を開ける。
視界が暗闇からドット絵に変わる。
ゲンナリしながら昨日買った服に着替える。
チェインメイルを着込んで、ブレストプレートを着ける。
腰紐に剣帯を括り付けて剣を下げる。
左腕に真新しいバックラーを装着して準備を終える。
「さて、行ってくる。また、夜にな」
違和感の有る言い回しだが、他に言葉が見付からないから仕方がない。
「「行ってらっしゃいませ、リュート様」」
エミリーとアンが声をハモらせて送り出される。
娼館を出る際に、多分支配人に話し掛けて二人を自分に付けて貰う様に話す。
値段交渉も無く、意外とスムーズに話は纏まる。
二人共一番人気と言う訳じゃないのかも知れない。
俺には関係ない話だ。
エミリーとアンは俺を救ってくれた、それを俺だけが忘れなければ良いだけだ。
宿を出て先ずは薬屋でポーションの補充をする。
薬草の独特な匂いが立ち込めるカウンターで、銀貨20枚を払って10本のポーションを購入する。
今回のポーションも触った感じ、試験管位の容器に入った物らしい。
続いて武器屋に入りオーダーしたダマスカス鋼の片手半剣を受け取りに行く。
これで武器は頭打ちだろうか。
青銅、鉄、鋼、ダマスカス鋼。
刃物の材料に適した金属は後は機械錬成した合金だが、中世ファンタジーの世界に求めるのは無理な話だろう。
チタン、クロム、タングステン辺りか。
ダマスカス鋼の中にはチタン、クロムは含有してるって話も有るが。
後はゲーム用語の「Lvを上げて物理で殴れ」を地で行くしかないか。
薬屋から少し歩くと武器屋に到着する。
ドアを開けると店内からなかなか愉快な「ウゲッ」と言う声が聞こえる。
ほう、今日も遊んで欲しいのか。
「オーダーした剣は出来てるか?」
「ああ、出来てるぞ」
うん、まだ愉快な響きが声に滲んでいる。
ここは期待に応えて弄って行こう。
「見せて貰えるか?」
「今出す、待ってろ」
カウンターの奥に店主は消えていく。
直ぐに店主は剣を携えて戻ってくる。
剣を受け取り鞘から抜いて重心の確認をする。
気持ち重心は切っ先側に寄ってるが誤差の範疇だろう。
新しい剣を鞘に納めて店主に残りの金額を尋ねる。
「前金と同じ銀貨39枚だ」
「え? なんだって?」
「だから銀貨39枚だ」
「ん? 幾らだって?」
「てめえ! 聞こえてるだろうが!」
「店に入るなりウゲッなんて言われるはず無いからな、俺の耳が悪いんだろうさ。で幾らだって?」
「くっ、俺が悪かった。銀貨39枚だ」
「そうか、銀貨10枚か、安過ぎないか?」
「なんでそうなる! 39枚だってんだろ」
「言葉は正しく使うもんだ。先ずはごめんなさい、だろ?」
「悪かったつったじゃねえか!」
「馬鹿なのか? 俺が悪かった、は事実認識だろ? それは謝罪とは言わんが?」
「俺が悪かった! すまんかった!」
良し、止めを差すとしようか。
「良し銀貨38枚だったか?」
「もう、それで良い……」
なんでこの店主はいつも俺に噛み付かれる隙を作るんだろう?
これで少しは口の悪さも直るだろう、多分。
インベントリから銀貨38枚を取り出してカウンターに置く。
店主が銀貨を回収するのを確認してから尋ねる。
「ダマスカス鋼より強い武器って有るのか?」
「金属だとこの辺りじゃ手に入らんがオリハルコン硬くて重くて良い武器に成る。それ以外ならスプリッツァー近郊に出るワイバーンの骨だな、あれは硬くて軽くて切れ味も良い」
「モンスターの分布として、この辺りとスプリッツァーならどっちが強い?」
「そりゃスプリッツァーだ。この国で一番モンスターの種類が豊富だ」
「分かった、ありがとう」
腰の剣を新しい剣に差し換えて、インベントリに収める。
店を出てこの後どうするか考える。
稼ぎに行くか、この世界で初めての休日にするか悩む。
昨日の地味な死闘の後だし、休んでもバチは当たらないとは思う。
ただエミリーとアンに肩入れするなら稼いでおきたい。
まったく、大層入れ込んだ物だ。
少し考えて今日もバイト・アリゲーターを狩る事にする。
城門に足を向けて歩き出すとコバルトを売ってないのを思い出す。
気が重いし避けたいし、縁を切りたいが、収入は収入だ。
仕方がない、工房に向かうとしよう。
縁を切りたいのに、昨夜は何も考えずにコバルトの製粉をしていた自分に呆れる。
色ガラスの製法で狙われてる。
しかし、製法を売れるなら売りたい。
欲をかいてる自覚も有る。
街を早く離れるべきだが、Lvや装備が次の街で通用するか分からない。
結局、危険を自分から招いてるだけ、か。
しかし、理不尽な話だ。
新しい産業のアイデアを持ってるだけで狙われるなんて。
まったく、食い破りたくなるじゃないか。
物騒な笑顔を浮かべてガラス工房に向かう。
さっさと済ませよう。
面倒なやり取りを避けてコバルト粉を二袋売り払って工房を後にする。
今日も工房主の言い回しは不快だった。
工房を離れると耳に意識を集中させて、尾行者の気配に気を配る。
城門に向かって歩いて行くと、走り去る足音が聞こえた。
訝しさに眉を寄せながら歩みを進める。
城門が視界に入った途端に右側から気配を感じる。
戦闘のBGMが流れる。
気配の方向を向くと突進してくる何かをバックラーで受け止め、腰を落として耐える。
覚悟もしていた。
気配に反応は出来た。
あのビジュアルに体当たりされるのは予想外だったが。
緊急事態でも俺の視界は結局変わらない。
「でも、ドット絵」




