54話
湯気で湿度が上がった浴室で靴と服を脱ぎインベントリに収める。
シャツだけは洗って貰う為に部屋の隅に銀貨1枚と置いておく。
浴室に布擦れの音が響く。
二人が脱いでるのだが、
残念ながらドット絵に萎えるだけだから見向きもしない。
音だけは色っぽいのだが、逆に笑いそうになる。
「スーパーが付かない○ァミコン初期の粗さを八頭身にしてもな」
俺はそこまで強者では無い。
と言うか、そんな強者見た事無いし、まあ、見たくもない。
我ながら馬鹿な事を考えてるな、と呆れる。
「お待たせいたしました、リュート様、お身体流しますね」
多分エミリーに頷いてバスタブに移動する。
バスタブの中で二人がかりで全身を洗われる。
「リュート様、お肌ツルツルですね。何かされたんですか?」
ワックス脱毛が早速アンにバレたらしい。
「鎧をオーダーメイドしたら型どりで蝋を掛けられて、無理矢理剥がされた。涙目に成る位痛かった」
「あら、本当。リュート様、手足もツルツルですね」
泡を流してエミリーが太股を指先で撫でてくる。
尻尾で切り裂かれた箇所だ。
「リュート様、また傷が増えてしまいましたね」
「予想より厄介なモンスターが現れてな。少し引きつる位で大した事無いさ」
肩を竦めて何でもない事を伝える。
背中側からアンも触れてくる。
「無理しないで下さい、リュート様」
「アンもか、大丈夫だ。明日には新しい装備に替える。今日より良い状態で稼げるから」
二人の声には柔らかな響きが籠っている気がする。
現実味を感じられないのに、誰かに心配される事のくすぐったさに頬が少し緩む。
「髪を洗います。お座り下さい」
アンの言葉に従い湯の中に胡座をかく。
バスタブの淵に背中を預ける。
左右からエミリーとアンの指が髪に付いた埃と汗を洗い流していく。
髪の泡を流し終えたら、アンに声を掛ける。
「俺に背中を向けて座れ」
自分の足の間を指差して指示する。
前に回ったアンの首筋に触れてマッサージを施す。
筋肉痛の筋肉に余り強くすると余裕に痛めるから、首筋、肩、背中、腰を順番に優しく揉み解していく。
湯に浸かりながらだと尻や太股は出来ないので、途中で切り上げる。
エミリーが拗ねたふりをして擦り寄ってくる。
アンと場所を変わって貰いエミリーにもマッサージを施す。
二人とも柔らかくて暖かくて、掌が心地好い。
「さて、逆上せる前に上がろう」
「はい、リュート様、ありがとうございました。少し身体が楽に成った気がします」
「私もとても気持ちが良かったです。リュート様にも後程マッサージ致しますね」
身体を拭きながら他愛の無い話を続けて、バスローブを羽織る。
浴室から出るとリビングにはもう食事が置かれている。
テーブルには三人分の食事が用意され、まだ二人とも食事を済ませてない時間だったらしい。
胃の辺りに手を置いて二人に尋ねる。
「今日の食事はなんだ?」
「今日は猪肉のベーコンを炙った物です」
「リュート様、食べれそうですか?」
「ああ、大丈夫だ。安心した」
どう言う事かとエミリーがアンに尋ねて、昨日の話をアンが説明する。
説明を聞いたエミリーが納得の声を上げている。
「食材の認識は地方、国々で違うと聞いた事があります。念の為、他にはどんな物が有りますか?」
「食事の前にする話ではないが、虫、爬虫類、両生類は忌避される国だったよ」
「畏まりました、それらが出されたら簡素な物になりますが差し換えを致しますね」
「手間を掛けてすまない」
「リュート様、真っ青でしたからね」
「アン! 貴女が差し換えを提案すれば良かっただけでしょう? 腸詰めを用意する位出来るのだから」
確かに、一階は酒とツマミは出してるから可能か。
ただ、他の物に変えても食べれなかった気がするが。
「エミリー、昨日は料理を変えても胃が受け付けなかったさ。そう怒らなくて良い」
エミリーの髪を撫でて宥める。
確かに、歴史上の幾万幾億の男達が娼館に入れ込むのが分かった気がする。
一夜の恋人気分を本気に勘違いし燃え上がるのも当然なのだろう。
女の演技が凄いのだ。
それが男を騙すのか自分を騙すのか、両方なのかは俺には解らないが。
テーブルに着いて三人で食事を始める。
腸詰めの肉の旨味と脂の甘味がとても旨い。
燻製しているのか芳ばしくて良い。
あれ? ここ数日で一番旨いのでは?
多分、食べる前に猪肉だと、ソーセージだと聞いて安心して食べれたからだろう。
視覚だけじゃなく、安全を確信した食事が初めてだったのかも知れない。
二人に、旨い食事に感謝しなければな。
食事を終えてワインで喉を潤しながら作業の準備を始める。
インベントリからコバルトを50個取り出して革袋に入れて、
削るヤスリと別の革袋を並べて開始。
ゴリゴリとコバルトを削りながら、ワインで思い出した特徴的なワインを二人に聞いてみる。
「二人とも質問なんだが、こっちでは甘いワインって造られてるのか?」
思い付いたのは貴腐ワインとアイスワインだ。
どちらも果実の水分が減った所から造る極甘のワイン。
「以前耳にした気がしますが、申し訳ありません。名前までは……」
「アンは聞いた事が有るかな?」
「ごめんなさい、私は聞いた事がありません」
「そうか、なら仕方がないな。有るなら試してみたかっただけだ」
「リュート様はお酒にお詳しいですね」
「余り飲まないから、聞きかじりばかりだが。興味が湧けば調べたりはしたな」
「甘いワインって美味しいのですか?」
「好みだろうが、美味しいとは思うな。アンは興味が有るのか?」
「甘い物は好きですし、いつか……」
「……そうか、分かった」
何となく言いたかった言葉は分かった。
貴腐ワインのカビを特定するのは難しいが、逆に凍らせた葡萄なら分かりやすい。
後は俺自身がどこまで肩入れするか、だ。
「エミリーは興味有るか?」
「面白そうだとは思いますが、私には……」
アンだけを気に掛けるのも違う気がする。
二人に同じ位に救われてる自覚が有る。
もし肩入れするなら二人だな。
これで顔が見えていたらどちらかに気持ちが向くのだろうが、少なくとも今そう言う類の余裕は無い。
誰かの体温が無かったら、俺はきっと壊れていたと思う。
カウンセリングを受けれずに戦場から戻った兵士の事件と同じ事になっていた気がする。
ありがとう、顔の見えない女神達。
まあ、どんなにお洒落に言っても結局同じなのだが。
「でも、ドット絵」




