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53話

 暫くして多分支配人が戻ってきた。


「お部屋の用意が出来ました。本日はエミリーとアンの二人で銀貨24枚です」


「先に汗を流したい。その後食事とワインを届けて欲しい。食事とワインと合わせて25枚で良いか?」


「はい、結構です」


 インベントリから銀貨を取り出して渡す。


「畏まりました、今エミリーに案内させます」


 そう言うと多分支配人は奥の部屋に消えていく。



「お待たせしました、リュート様。お部屋にご案内致しますね」


 うん、この媚び、いや色香を押し出した様な声はエミリーだな。


「頼む。あの広い部屋だよな?」


「はい、リュート様がいきなり酔い潰れたお部屋です」


 エミリーがクスクスと俺をからかう。


 全く返す言葉も無く、ただ苦笑で返す。


「あの日もだが、いつも申し訳無い」


「いいえ、これからも御贔屓にお願い致します」


 俺の言葉に、振り返らずにエミリーは応える。


 迷惑の分通えって事なのだろう、多分。


 階段を上がり、エミリーに続いて部屋に入る。


「リュート様、寛いで下さい。今日も一日お疲れ様でした」


 左手で顔を撫でる。


 今日の戦闘の疲れが顔に出ていただろうか?


 ギリギリで、ジワジワと力量の向上を実感する様な戦闘の疲れは抜けきらないか。


 バックラーを外してインベントリに収める。


 ブレストプレートとチェインメイルを脱いでラックに架けて息を吐く。


 鎧と戦闘で蒸れた身体からは血と汗の臭いが立ち上る。


 意識していなかったが太股からも血の臭いがする。


 確かにこれなら周りに悟られるのも当然か。


「早く湯を浴びなきゃ、臭いな」


「私はハンターの事は分かりませんが、怪我をしながら稼ぐのは大変ですね」


「俺には他に稼ぐ術が無いから。大変かどうかも分からないな」


「他に術が無いのは私達もお……」


 ドアがノックされ誰か部屋に入ってくる。



 鈍い動作で部屋に入ってくる人の名前を確認するとアンだった。


 ぎこちない動きに本当に申し訳無い気持ちに成る。


「アン、具合はどうだろうか?酷く辛そうだ」


「もう大分良いのですが、全身筋肉痛に成ってしまいました」


「君に甘え過ぎた、改めて謝罪する。申し訳無い」


 深く頭を下げて謝意を伝える。


 俺の視界異常も、モンスターとの戦闘も自身の問題でしかない。


 対価を払って慰めを貰うとしても限度や配慮が必要だった。


 今日受けたストレスは昨日のストレスの比ではないが、だからこそ自制心が求められる。


 素直に泣ける性格なら話は単純だったのだろう。


「はい、その言葉で十分です。それにリュート様は(わたくし)を乱暴には扱いませんし」


 余り違わない気がするが、くどくどと繰り返すのも互いに気持ちの良い物ではないと判断して口を閉じる。


 黙ってインベントリから碧ガラスのゴブレットを取り出して渡す。


「リュート様、こちらがいつも何かを削ってた物ですか?」


「透明のガラスにあの粉を混ぜるとこの色に成る」


「これが……。大事に、致し、ます」


 途切れ途切れにアンが呟く様に応える。


 職業柄、余り贈り物を受け取る事が無いのかも知れない。


 こう言う雰囲気は苦手だ。


「アンはリュート様に可愛がられてるわね。それに比べて私なんか」


 エミリーが固くなった空気を混ぜっ返す様に笑う。


 有り難い様な、何と返すのが良いのか悩みながらエミリーにも何かを用意する約束をさせられる。


 正直、現状ではお金に困ってないし、使う宛ても殆ど無い。


 寧ろ精神的に救ってくれた二人が喜ぶなら問題ない。


 そんなやり取りをしているとまたドアがノックされる。


 エミリーがドアを開けると何かを抱えた人が見えた。


 お湯が入った瓶だろう。


 一階から三階までお湯が入った瓶を持って上がる重労働を、多分年若い女の子達がやってるんだと思うと複雑な気持ちに成る。


 お湯の入った陶器の瓶って熱いだろうに。


 10分位待っていると往復でお湯を運び終えたらしい。


 アンに人数分の銀貨を預けて浴室に逃げ込む。


 少しするとアンとエミリーも浴室に入ってくる。


「リュート様、チップ多過ぎます」


 アンから再度注意が入る。


「丁度良い貨幣が無いから仕方がない。


 それに熱くて重い瓶を何度も運ぶのは重労働だよ」


「リュート様、私からもよろしいでしょうか?」


 エミリーが口を挟んでくる。


「ん? どうした?」


「お気遣いありがとうございます。皆口減らしで売られた娘達です。労われる事がほぼ無い娘達です。本当にありがとうございます」


「あぁ、うん、どういたしまして」


 地雷を踏んでないか不安だったが、改めて言われると恥ずかしい物だ。


「汗を流したい、二人とも頼んで良いか?」


 二人の返事を聞いてから服を脱ぎ風呂に入る。


 今日は精神的に揺さぶられる日だ。


 視界は相も変わらず正しい情報をくれないが。


 このギャップに溜め息しか出ない。


「でも、ドット絵」

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