45話
カエル、カエルか。
胃がギリッと軋む気がする。
既に口の中のカエルのフライは胃袋に移動してしまっている。
食文化だ、食文化が違うだけだ。
忌避する話じゃない。
日本人だって、生の魚を食べると昔は西洋からは奇異の目で見られていたし、
国に依っては虫が貴重な蛋白源だって当然有る事だ。
理解もしている、納得もしている。
ただ不意討ちだっただけだ。
多分。
「リュート様? お口に合いませんでしたか?」
アンの不思議そうな声で自分の世界から帰ってくる。
「いや、俺の国ではカエルを食べる文化が無いから驚いただけだ」
「でもお顔が真っ青ですよ?」
無言でワインを口に含んで咥内の違和感を流す。
隣のシチューも鶏肉じゃなくカエルの肉なんだろうな。
深く溜め息を吐いて腹を括って食事を再開する。
無理矢理腹に納める様にフライとシチューを飲み込んでいく。
黙々と平らげて最後にパンを食べて食事を終える。
「そんなに苦手なら無理をなさらなければ良かったのでは無いですか?」
呆れ声でアンが尋ねてくる。
「食事の為に命を奪ったなら、感謝して食すのが俺の国の文化だから」
「青い顔しておっしゃられても」
呆れた声でツッコまれて苦笑する。
顔が強張ってるのが分かる。
取り合えず現実逃避的に話題を変えよう。
「アン、今日のモンスターからワニ皮が出たんだが、使い方は知ってるか?知っていたら教えてほしい」
「余り詳しくは有りませんが、脛まで有るブーツに使われてるのはたまに見掛けます」
蛇革のブーツみたいな扱いだろうか?
明日は防具屋、被服店、硝子工房廻りか。
日課のコバルトの製粉作業に取り掛かろう。
「すまないが手を洗う水を用意しておいて貰えるか?」
水を頼んで俺は俺で作業を開始する。
取り合えずコバルト150個を50個ずつに分けて粒に削ってから乳鉢で製粉する。
一時間位掛けてコバルト粉3袋を作って、明日は2袋を卸そう。
3袋卸すと感覚的に不味い気がする。
この辺りは慎重に動こう。
あれこれ考えながら手を洗い、歯を 磨く。
木の枝を噛みほぐした歯ブラシは正直使いにくい。
と言うか血の味がする。
歯ブラシってどの位の時期に作られたんだろう?
豚とか馬の固い毛で作られてた記憶が有る。
まあ、馬も豚もこっちで見た事が無いから出来るか分からないが。
雑貨屋に作らせてみるか。
あれこれ考えてたが、取り合えず寝よう。
口を濯いでベットに腰掛ける。
「灯り、消しましょうか?」
「ああ、頼む」
アンがランプの灯りを消すまでの間でワインを一口呑んで横になる。
部屋が暗く成ってようやく付いて回る違和感が無くなる。
1日の終わりをシミジミ実感する。
アンがベットに入るのを確認してから毛布を被る。
隣に横たわるアンを腕枕で懐に入れると頭に浮かんだ事をそのまま口にする。
「ドロップアイテムの整理までここでして、
毎日此処に来ると住んでる様に錯覚してしまうね」
そう苦笑しながらアンに囁くとアンも苦笑した様な声で応えてくる。
「お帰りなさいませ、リュート様」
アンやエミリーに救われてる日々を可笑しく思う。
温かくて柔らかいアンを抱き締めながら心の中で呟く。
でも、ドット絵。
少し体調が崩れ気味なので、
数日更新が遅れるかも知れません。
また、感想やご意見を頂いた部分を徐々に手直ししたいと思います。