32話
体調を壊して入院していました。
まだ読んでくれてる人は居るだろうか?
完遂するまで頑張って書き続けます。
ではどうぞ。
剣の使い勝手を確かめたいが、顔に痛みも有るし、もう夕暮れだ。
今日は止めておこう。
痛みがずいぶん長引いてる気がする。
少し触れてみると激痛が走る。
ポーションを取り出して傷口に掛けていく。
痛みが和らいで、気分もだいぶ楽になった。
しかし、このポーションって謎な代物だ。
傷や打撲、骨折にまで効果がある治療薬、しかも即効性も高い。
少しの時間で傷が治るってどんな薬だろう?
金属や物理法則は普通なのに、摩訶不思議な薬やモンスターも居る。
本当にここは何処なんだろうか?
夢なのか異世界なのかゲームなのか、答えが欲しい。
でも、答えに「帰れない」が付随するならそれはそれで聞きたくないとも思う。
すべてがドット絵の世界に実際ストレスが溜まってる。
俺には不気味にしか見えない。
普通として認識が出来ないのだから仕方がない。
そんなあれこれを考えながら常宿に辿り着いた。
娼館に入ると女性の声に出迎えられる。
声の持ち主は多分アン。
うん、誰か自信が持てない俺は薄情なのだろうか?
念の為頭上を確認して安心する。
「リュート様っお顔に傷が!」
「もう塞がってるだろう?」
微かに痛みは有るが傷口が見えないせいで実感が湧かなかったが、
意外と大きな傷を負ったらしい。
「気になるか?」
「気にはなりませんが、心配には成ります」
アンの憂いを含んだ声に大分目立つ傷らしいと納得する。
「ポーションで治ってる、気にするな。それより食事頼めるか?」
気にしても仕方がないので、食事を頼む事にする。
溜め息が微かに聞こえる。
恐らくアンが呆れて溜め息を吐いたのだろう。
テーブルに案内され、程無くして数枚の食器が置かれる。
さあ、今日の闇鍋タイムだ。
1日で一番不安でたまらない時間だ。
下手なモンスターより地味に来る。
器を見ると茶色いドットが乗った皿が二枚と赤い何かが入ったカップみたいな物が有る。
隣ではアンが多分ナイフとフォークで何かを切って口に運んでいる。
「アン、これは?」
何となく救いを求める様に問いかける。
「ネイル・ボアのステーキと酸味の有る果肉のスープですけど」
訝しげな声でアンが答える。
「そうか、昨日今日俺が卸したやつかもな」
話題を誤魔化す様に笑って済ます。
「そうかも知れませんね」
明るい声でアンが応える。
しかし、酸味の有る果肉ってなんだ?
赤い、酸味、まさか苺の温かいスープでは無いだろうな?
無いと言い切れないのが困る。
仕方がない、腹を括ってまずステーキを切り分けて口に運ぶ。
パンを千切って頬張り、スープを啜る。
良かった、甘くない。
トマトスープに似てる気がする。
うん、トマトスープだって事にしよう。
考えるのを止めるとなかなか旨い食事だ。
あの硬い釘の毛皮に包まれた猪の肉なのに、かなり柔らかい。
そして熱々なのに苦になら無いのも不思議だ。
そう言えば猪鍋はどんなに煮込んでも火傷しないとか聞いた気がする。
なんでだろう?
一定以上の熱を溜めないのだろうか?
機会があれば調べてみよう。
そう、帰ったら。
食後にワインを頼んで体から力を抜く。
良く考えたら今日何匹のモンスターを倒したか分からない位倒したし。
筋肉の塊のネイル・ボアとコボルトの群を大量に殲滅したし、無自覚に疲れてたらしい。
「済まないが湯に浸かりたい、頼めるか? 後、部屋にシードルも用意して欲しい」
食事を終えて肩にもたれているアンに頼む。
「畏まりました、リュート様」
アンは手を挙げて別のスタッフに話しかける。
暫くワインを呑みながら時間を潰してから部屋に案内してもらう。
早速バスルームに入って、服を脱ぐ。
「済まないが返り血を浴びたから、先に頭から頼む」
「畏まりました、こちらにお掛けください」
バスタブの脇の椅子に腰掛けるとアンが頭からお湯をゆっくり垂らす。
髪が充分に濡れると一気に血の臭いが漂い出す。
ムクロジの弱い泡で髪にこびり付いた血糊と汗を落とす。
頭皮を女性の細い指が揉みほぐす様に動く。
目を閉じて居ると実感する。
他人と触れ合うと癒やされる、と。
誰でも良い訳ではないが、アンやエミリーはお金が絡むからこそ警戒に値しないだけだが。
顔色をうかがえないと言うのは相手を信用出来るかの判断材料が減ると言う事だ。
声の表情を計るには経験も足りない。
どう考えても、これ以上の人間関係は望めないだろう。
溜め息が零れるとアンは吐息と勘違いしたのか、
「流しますね」と声を掛けてくる。
一つ頷いて動きを止める。
この後は湯に浸かり酒を呑み寝た。
暗闇の中のアンに包まれながら。
この娘はどんな顔で俺と触れ合ってるのかが知りたかった。
だから思う。
……でも、ドット絵。