白き悲哀、笑う兄妹
「アルケオン 第二章 感情の色を探して」
彩葉たちの活躍から、十年――。
世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。
日本・大阪府大阪市。
その街に、一人の守護者が存在していた。
イラストから生まれた守護者――ユズ。
絵を描くことを愛する彼女は、
しかしひとつの欠落を抱えていた。
それは――
“色で感情を表現できない”こと。
どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。
色が、ただの色にしか見えないのだ。
そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。
苦しみの上位想霊――
感情体「サファリング」。
感情から生まれる存在である彼女は、
ユズの“欠落”に興味を抱く。
そしてユズもまた、
“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。
タブレット端末を手に、
二人は旅に出る。
喜び、怒り、悲しみ、愛――
さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。
これは、色を知らない守護者が、
“感情の色”を探し出す物語。
そして――
世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。
福重小学校の校庭。
夕暮れが差し込み、空気がわずかに冷たくなる。
その中で——
ユズは、目の前の存在から目を離せなかった。
「……サッドネス……あれが……」
そして、小さく震える声で続ける。
「で、でも……“ふたりいる”……」
マーダラスが静かに答える。
「そういう想霊だからね。二人でひとつなのよ」
プライドも頷く。
「えぇ、しかも私たち感情体の中で一番残忍なのは彼らじゃないかしら」
サファリングがぼそりと呟く。
「ん、あいかわらず不気味……」
キュリオシティは腕を組みながら言う。
「サッドネスはね、兄妹なんだ。そして——我々とは違う」
ユズは息を呑む。
「何が……ですか?」
マーダラスが淡々と説明する。
「想霊は本来、生き物から生まれる……でもね」
少し視線を向ける。
「あの兄妹は“服”から生まれた」
「え……?」
ユズは戸惑う。
「服って……洋服とかの服ですか?」
サファリングが短く答える。
「ん、そう」
プライドが続ける。
「あの戦争——第一次神怪世界大戦で、原爆のせいで主人を守れなかった服たちが悲しみ……生まれたのがあの二人よ」
ユズの視線が、ゆっくりとサッドネスへ向く。
白い素肌。
光る目と口。
焦げた服。
手を繋ぎ、ふわふわと浮かぶ姿。
「……」
言葉が出ない。
キュリオシティが低く言う。
「しかも——今でも人を殺してる……」
「え!?」
ユズが驚く。
「彼らは原爆を落とし主人を奪ったアメリカ人を恨んでいる」
「元アメリカ合衆国国内で、今も虐殺をしている」
マーダラスが少し眉をひそめる。
「その方法は褒められたものじゃないけどね」
ユズは震える声で聞く。
「……どう、やって……?」
その瞬間——
兄のサッドネスが、ゆっくりと口を開いた。
「教えてアゲル……」
妹が楽しそうに続ける。
「アゲル♪」
「まず、糸で街を作ル」
「作ル♪」
「そこに人間がやって来テ」
「やって来テ♪」
「僕たちの糸で作った“モウこの世にはいない者”をその人間にあわせル」
「あわせル♪」
「そしてしばらくして教えル」
「教えル♪」
二人が同時に笑う。
「「そいつらはモウいないよ?」って……」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ♪♪♪」
「っ……!」
ユズの体が震える。
胸の奥が締め付けられる。
「……うぅ……」
プライドがすぐに駆け寄る。
「ユズ!落ち着いて!」
マーダラスが吐き捨てるように言う。
「悪趣味」
サファリングも同意する。
「ん、同感」
キュリオシティは静かに言う。
「そうだね……」
兄が続ける。
「そして、その悲しみの感情を食べル」
妹が笑う。
「食べル♪」
そして——
二人が同時にこちらを見る。
「そうダ……君たちモ、味あわせてあげル♪♪♪♪♪」
空気が、一気に重くなる。
キュリオシティが肩をすくめる。
「どうやら逃がしてくれないみたいだね」
サファリングがユズを見る。
「ん、ユズが回復してない」
マーダラスが即座に判断する。
「プライド!そっちは任せたわ!!」
プライドが頷く。
「え、えぇ!……ユズ」
ユズは——
まだ、動けない。
目の前の“悲しみ”に、
心が揺さぶられていた。
迫りくる、サッドネス。
戦いの気配が、
静かに、確実に近づいていた。
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次回もお楽しみに




