悲哀の糸、絡まる戦場
「アルケオン 第二章 感情の色を探して」
彩葉たちの活躍から、十年――。
世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。
日本・大阪府大阪市。
その街に、一人の守護者が存在していた。
イラストから生まれた守護者――ユズ。
絵を描くことを愛する彼女は、
しかしひとつの欠落を抱えていた。
それは――
“色で感情を表現できない”こと。
どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。
色が、ただの色にしか見えないのだ。
そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。
苦しみの上位想霊――
感情体「サファリング」。
感情から生まれる存在である彼女は、
ユズの“欠落”に興味を抱く。
そしてユズもまた、
“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。
タブレット端末を手に、
二人は旅に出る。
喜び、怒り、悲しみ、愛――
さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。
これは、色を知らない守護者が、
“感情の色”を探し出す物語。
そして――
世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。
福重小学校の校庭。
沈む夕陽が、廃校舎の窓に赤く反射する。
ユズ、サファリング、プライド、マーダラス、キュリオシティ——五人は、目の前に浮かぶサッドネス兄妹を凝視していた。
兄妹の白い素肌が光り、焦げた服が風に揺れる。目と口は不気味に輝き、手を繋ぎプカプカと浮かんでいる。
ユズの鼓動が高鳴る。
兄サッドネスが笑った。
「さぁ……味あわせてあげルよ?」
妹サッドネスも応じる。
「アゲル♪」
瞬間、兄妹の手から黒い糸が放たれ、校庭の空間を縦横無尽に走る。糸に触れた地面の土が燃え上がり、巨大な火の玉が跳ねた。
サファリングが振袖の袖をまくる。
「ん……この二本で——」
二本のムチが振られ、糸や火球を切り裂くように舞う。ムチの先端には光が走り、火球を真っ二つに粉砕する。
マーダラスは腰のナイフを手に取り、殺気を宿す。
「まずは……封じる」
殺気の極意が展開され、サッドネス兄妹の動きが一瞬止まる。次いで殺意の極意——渦巻く殺意をナイフに込め、黒い糸を切り裂きながら、兄妹に斬撃を浴びせる。
キュリオシティも詠唱する。
「時間は、好奇心の邪魔だ!」
周囲の時間が止まり、火球や糸が空中で停止する。ユズたちは静止した世界の中で次の動きを狙う。
だが、兄妹は力強く糸をねじり、巨大火球を再び加速させた。
「ハッドカッター!」
鋭利な刃のような光の波が飛び、マーダラスの殺意を振りほどく。
ユズは恐怖と緊張で固まる。
「……みんな、……大丈夫?」
プライドが前に出て、精神操作を試みるが、兄妹の糸や火球が彼女の視界を断ち切る。
サファリングはムチで防御しつつ反撃するが、兄妹の生成術で次々に糸の壁が生まれ、動きが制限される。
キュリオシティも蒸発の技を駆使し、糸をすり抜けるが、兄妹の次の火球に追われる。
戦局は五人が奮闘しても、サッドネス兄妹の前に押され気味だった。
巨大火球がマーダラス目掛けて飛ぶが、マーダラスは冷静に斬撃で破壊。
だが、兄妹の糸がユズに絡みつき、動きを封じる。
ユズは恐怖と絶望の中で足をもがく。
「……くっ……!」
その瞬間——
ユズの意識が、これまで出会った感情の記憶でふっと満たされる。
苦しみ、希望と絶望、郷愁、自負、高揚、執着、恐怖、慈しみ、怒り、勇気、殺意——
そして、心の奥底で自分自身を奮い立たせる声が響いた。
ユズの瞳が静かに光る。
「……行く……!」
正気を取り戻したユズは、絡みつく糸に立ち向かうべく、一歩前に踏み出した——
兄妹のサッドネスに向かって。
空気が張り詰め、次の瞬間にすべてが動き出す——
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




