赤月の執行者
「アルケオン 第二章 感情の色を探して」
彩葉たちの活躍から、十年――。
世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。
日本・大阪府大阪市。
その街に、一人の守護者が存在していた。
イラストから生まれた守護者――ユズ。
絵を描くことを愛する彼女は、
しかしひとつの欠落を抱えていた。
それは――
“色で感情を表現できない”こと。
どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。
色が、ただの色にしか見えないのだ。
そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。
苦しみの上位想霊――
感情体「サファリング」。
感情から生まれる存在である彼女は、
ユズの“欠落”に興味を抱く。
そしてユズもまた、
“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。
タブレット端末を手に、
二人は旅に出る。
喜び、怒り、悲しみ、愛――
さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。
これは、色を知らない守護者が、
“感情の色”を探し出す物語。
そして――
世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。
新潟の浜辺。
波音が静かに響く中——
戦いの気配だけが、異様に濃くなっていた。
マーダラスは、ゆっくりと前へ出る。
その瞳に宿るのは——
純粋で、濁りのない“殺意”。
「狙いに来た……ねぇ……」
腰に手を伸ばし、
数本のナイフを取り出す。
刃が、鈍く光る。
「いいよ?」
「相手になってあげる!」
マーダラスの口元が、わずかに歪む。
「さぁ——どの刃で死ぬ?」
次の瞬間。
姿が、消えた。
「っ!?」
バネ足ジャックの目の前に——
もう、いる。
「まずは右腕……」
振り下ろされる刃。
だが——
「甘いな!」
バネ足ジャックの体が、大きく跳ね上がる。
常識外れの跳躍。
攻撃を回避し、距離を取る。
マーダラスは着地しながら呟いた。
「!?……バネ足……なるほど」
「さすがの跳躍力だね」
バネ足ジャックは余裕を見せて笑う。
「私の自慢なのでね」
その瞬間。
マーダラスの空気が——変わった。
「じゃあ……」
静かに、しかし重く。
「殺気の極意——“タイムストップ”」
世界が——沈む。
「!?!?……体が動かない!!」
バネ足ジャックの体が硬直する。
「いや!重い!!!」
「何だこの覇気は!!!」
空間そのものが圧し掛かるような殺気。
動けない。
逃げられない。
ユズが思わず声を漏らす。
「す、すごい……」
サファリングも静かに分析する。
「ん、入る隙がない」
プライドは目を細めた。
「でも、さすがね」
「相手の得意技を封じてるわ」
バネ足ジャックは必死に抗う。
「く、くぅぅっ……!」
だが——動けない。
その隙に。
マーダラスが、ゆっくりと近づく。
「……終わりだよ」
そして——
「殺意の極意——“ブラッティ・バーサーカー”」
無数の斬撃。
見えない速度で振るわれる刃。
「ぐぅッ!?」
バネ足ジャックの体に、次々と傷が刻まれる。
「くうっ……はぁ……はぁ……」
膝をつきながら、息を荒げる。
「無差別に切り刻む技とは……」
「悪質な殺人鬼のようだな……」
その時——
ふと、気づいたように目を見開く。
「ん?待て!」
「その……赤い月のように光る瞳……」
「黒い衣装に、その特徴的な帽子……」
震える声で言う。
「まさか貴様……」
「“赤月の執行者”か!?」
「数々の殺人鬼を暗殺してきた……あの!!」
一瞬の沈黙。
マーダラスは、わずかに目を伏せた。
「……その名前」
「聞くのは久しぶりだね」
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「あぁ、そうだよ?」
ユズは驚きを隠せない。
「サファリングさん、赤月の執行者って?」
サファリングが淡々と答える。
「ん、殺人を犯したものを徹底的に追い詰めて殺す執行人」
「……マーダラスだったんだ」
プライドも小さく頷く。
「えぇ、驚きよ」
バネ足ジャックは、苦しみながらも笑った。
「ふふふ……なるほど……」
「私は相当運が悪い」
「まさか赤月の執行者に会うとは……」
マーダラスは、ナイフを構える。
その姿は——
もはや“少女”ではない。
ただの“執行者”。
「さぁ——」
静かに、告げる。
「本番だ……」
浜辺に、赤い殺意が満ちていく。
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