慈しみの地へ、踏み入る影
「アルケオン 第二章 感情の色を探して」
彩葉たちの活躍から、十年――。
世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。
日本・大阪府大阪市。
その街に、一人の守護者が存在していた。
イラストから生まれた守護者――ユズ。
絵を描くことを愛する彼女は、
しかしひとつの欠落を抱えていた。
それは――
“色で感情を表現できない”こと。
どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。
色が、ただの色にしか見えないのだ。
そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。
苦しみの上位想霊――
感情体「サファリング」。
感情から生まれる存在である彼女は、
ユズの“欠落”に興味を抱く。
そしてユズもまた、
“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。
タブレット端末を手に、
二人は旅に出る。
喜び、怒り、悲しみ、愛――
さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。
これは、色を知らない守護者が、
“感情の色”を探し出す物語。
そして――
世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。
ユズ、サファリング、プライドは——
船に乗り、千葉県へとやってきた。
港の空気は、どこか柔らかく。
神奈川とはまた違う静けさが漂っている。
ユズは周囲を見回しながら、少し不安そうに口を開いた。
「どこにいるんでしょう……」
プライドは顎に手を当て、少し考える。
「う〜ん……やっぱり、千葉県市川市八幡じゃない?」
「そこにいるんですか?」
サファリングが小さくうなずく。
「ん、とりあえず……行ってみよう」
「はい!」
三人は歩き出す。
港から離れ、街の中へ。
しばらく歩いた後——
ユズがふと気づいたように言う。
「バスで行くんですか?」
「ん、バスに乗って駅に向かう」
「さ、バスが来たわ。乗りましょ」
「うん!」
バスに揺られること、しばらく。
窓の外の景色は、ゆっくりと変わっていく。
やがて駅へと到着し——
そこからさらに移動し。
——千葉県市川市八幡。
ユズはその地に立ち、周囲を見渡す。
「ここが……ここにいるんですか?」
「おそらくね」
プライドは軽く答える。
だが——
サファリングの表情は、わずかに硬かった。
「あそこは……通りたくないけど……行くしかない」
「?」
ユズは首をかしげる。
——その頃。
千葉県市川市八幡。
「八幡の藪知らず」。
昼であるにも関わらず、そこだけは異様に暗い。
木々は生い茂り。
中の様子は、まったく見えない。
踏み入れてはいけない——
そんな気配が、濃く漂っている。
その奥。
黒い影が、ゆらりと揺れた。
「……クフフ」
低く、歪んだ笑い声。
「誰か来たようだ」
その声には、明らかな“愉悦”が含まれていた。
「それは仏か鬼か……」
影が、ゆっくりと蠢く。
「……楽しみだ」
静かな街の中で。
確実に——
“何か”が、待っていた。
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