交錯する感情と、迫る異形
「アルケオン 第二章 感情の色を探して」
彩葉たちの活躍から、十年――。
世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。
日本・大阪府大阪市。
その街に、一人の守護者が存在していた。
イラストから生まれた守護者――ユズ。
絵を描くことを愛する彼女は、
しかしひとつの欠落を抱えていた。
それは――
“色で感情を表現できない”こと。
どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。
色が、ただの色にしか見えないのだ。
そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。
苦しみの上位想霊――
感情体「サファリング」。
感情から生まれる存在である彼女は、
ユズの“欠落”に興味を抱く。
そしてユズもまた、
“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。
タブレット端末を手に、
二人は旅に出る。
喜び、怒り、悲しみ、愛――
さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。
これは、色を知らない守護者が、
“感情の色”を探し出す物語。
そして――
世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。
神奈川県の夜。
静かな路地の一角で——
ユズたちは、その場に留まりながら言葉を交わしていた。
もちろん、それは“声”ではなく——
(……ねぇ、フィアー)
ユズが、少しだけ慣れてきた様子で語りかける。
(はい……)
(フィアーって、普段は何してるの?)
少しの間。
(……夜に、歩いています……)
(歩く?)
(えぇ……恐怖を、感じる場所へ……)
その言葉に、ユズは少しだけ背筋が寒くなる。
(人の……恐怖を、感じるんですか?)
(……はい……それが、私の“食事”ですから……)
サファリングが静かに補足する。
(ん、恐怖だけじゃないけど……フィアーは特に“純度の高い恐怖”を好む……)
(純度の高い……)
プライドが肩をすくめるように笑う。
(戦争みたいな極限状態が一番ってわけね)
(……えぇ)
フィアーの返答は、短く、静かだった。
ユズは、少し考え込む。
(……他の感情体は、今どうしてるんですか?)
サファリングとプライドが、ほんの一瞬だけ視線を交わす。
そして——
(……サッドネスとスペリオリティは……)
サファリングが、淡々と告げる。
(今も“現役”で人を殺してる)
(え……)
空気が、重くなる。
プライドが続ける。
(スペリオリティはヨーロッパ……)
(サッドネスは、元アメリカ合衆国の場所で……人を襲ってるわ)
ユズは言葉を失う。
(……どうして……)
(理由なんて単純よ)
プライドの声は、どこか冷たかった。
(感情を得るため)
(ん……強い感情は、強い“味”がする……)
サファリングの言葉もまた、淡々としている。
(悲しみも……優越感も……極限状態でこそ、濃くなる……)
(……)
ユズは、胸の奥がざわつくのを感じていた。
その時——
フィアーが、ふと顔を上げる。
「……?」
初めて、“声”が漏れた。
だが、それは小さく——
風に溶けるようだった。
(……誰か、来ます……)
その一言で、全員の意識が研ぎ澄まされる。
「……」
気配。
重く、異質な——
人ではない“何か”。
足音。
ゆっくりと、闇の奥から現れる二つの影。
白い毛に覆われた巨体。
そして——
角を持つ異形。
「ココガ……目的地カ……」
低い声が響く。
「あぁ……間違いないな……」
ユズは一歩下がる。
「な、なんですか……あれ……」
サファリングが静かに前へ出る。
「……敵」
プライドも、わずかに笑みを消す。
「趣味の悪い連中ね」
白い毛むくじゃらの存在——イエティが、ゆっくりと口を開く。
「我ラハ……“至上教”」
ゴートマンが続ける。
「選ばれし存在のみが上に立つ……それが我らの思想だ」
その視線が——
フィアーへと向けられる。
「その“恐怖”……いただこう」
「……!」
ユズは思わずフィアーの前に立とうとする。
だが——
サファリングが、静かに手で制する。
フィアーは——
何も気づいていない。
(……フィアーには、聞こえてない)
(え……?)
(あの子は、敵意を“匂い”で感じる……でも今はまだ、完全な殺気じゃない……)
プライドが小さく笑う。
(なら、今のうちに答えましょうか)
サファリングが一歩前へ。
「……断る」
プライドも続く。
「えぇ、その子はあげないわ」
ユズも、震えながらも前を向く。
「……フィアーは、渡しません」
イエティとゴートマンは、わずかに沈黙する。
そして——
「……ソウカ」
空気が、張り詰める。
夜は——
静かに、戦いの気配を帯び始めていた。
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