おめかし
帝都の仕立て屋に足を踏み入れた瞬間、店主が驚いたように姿勢を正した。
帝国騎士団長が私服で訪れるなど、滅多にないことだ。
「団長様……本日はどのようなご用件で?」
「少年──いや、保護している者の服を買いたい」
言いながら、胸の奥が微かにざわつく。
“少年”と呼ぶのが、もう正しくない気がしていた。
店主が並べられた服を示す。
「動きやすいもの、丈夫なもの、どのような用途で?」
クラウスは一瞬迷い、そして静かに答えた。
「……暖かくて、柔らかいものを。
あの子は、ずっと粗末な服しか着ていなかった」
言葉にして初めて、自分がどれほど怒っているかに気づく。
あの細い肩に、あんな薄い布しか与えられていなかったことが許せなかった。
店主は頷き、上質な布地の服をいくつか取り出す。
クラウスはそれを手に取り、指先で確かめた。
柔らかい。
軽い。
肌を傷つけない。
「……これにする。あと、同じものを数着」
「数着、ですか?」
「洗い替えが必要だ。あの子は……服を持っていない」
店主は驚いたように目を見開いたが、すぐに理解したように頷いた。
クラウスはさらに、靴、下着、外套まで揃えた。
気づけば、店の一角が“リオンのための服”で埋まっていた。
「……これで足りるか?」
自分でも分からない。
ただ、彼女に寒い思いをさせたくなかった。
クラウスが帰宅すると、両手には大きな包みがいくつも抱えられていた。
「……それは?」
「君の服だ」
私は目を瞬いた。
服など、荷物持ちとして最低限のものしか持っていなかった。
クラウスは包みを開き、ひとつひとつ丁寧に並べていく。
柔らかい布。
温かそうな外套。
新品の靴。
どれも、触れただけで胸が熱くなる。
「こんなに……必要ありません」
「必要だ。君の服は薄すぎる。
それに、あれでは寒さを防げない」
クラウスは淡々と言うが、その声には怒りが混じっていた。
「……あの連中は、君にこんなものすら与えていなかったのか」
私は言葉を失った。
怒られると思ったのに、違った。
彼は私のために怒っている。
クラウスは服を手に取り、私の前に差し出した。
「着てみろ。サイズが合わなければ、すぐに直させる」
「……本当に、私が着ていいんですか?」
「当たり前だ。これは君のものだ」
胸がぎゅっと締めつけられた。
“自分のもの”と言われたのは、いつ以来だろう。
私はそっと服を抱きしめた。
温かかった。
布の温かさではなく、誰かが自分のために選んでくれたという温かさ。
クラウスはその様子を見て、わずかに目を細めた。
「……似合うと思う」
その一言で、胸の奥がまた熱くなった。




