騎士団
リオンが遠慮がちにこちらを見上げてきた。
普段は感情を表に出さない彼女が、珍しく言いにくそうにしている。
「……あの、クラウス様。騎士団……見てみたいです」
胸が跳ねた。
だが、次の瞬間には冷静な判断が頭を支配する。
騎士団本部は、武器と魔力と噂が渦巻く場所だ。
あの細い身体のどこに、そんな環境を耐えられる力がある。
「……駄目だ」
即答だった。
リオンの肩が小さく揺れる。
驚いたのか、落ち込んだのか、判断がつかない。
「どうして、ですか……?」
その声があまりにも弱くて、胸が痛む。
だが、譲れない。
「危険だからだ。君はまだ体力も戻っていないし、魔物の異常発生の件も未解決だ。外に出すわけにはいかない」
本当はそれだけではない。
騎士団の連中が、彼女を“少年”として雑に扱うのが目に見えている。
そんなもの、絶対に許せない。
「……そう、ですか」
胸の奥がきゅっと縮んだ。
怒られたわけではないのに、拒まれたことがこんなに苦しいなんて知らなかった。
ただ、騎士団という場所を見てみたかっただけなのに。
クラウスは腕を組み、難しい顔をしている。
「君はまだ休むべきだ。それに……騎士団は、君のような者が行く場所ではない」
“君のような者”。
その言葉が胸に刺さる。
私は、そんなに弱いのだろうか。
そんなに、足手まといなのだろうか。
俯いた私を見て、クラウスがわずかに息を呑んだ気配がした。
リオンが俯いた瞬間、胸がざわついた。
しまった。
言い方が悪かった。
「……リオン」
呼びかけると、彼女は小さく顔を上げた。
その瞳が、どこか怯えている。
「君を否定したわけではない。ただ……危険に晒したくないだけだ」
それが本音だった。
彼女を守るためなら、どんな理屈でも使う。
それが過保護だと分かっていても、止められない。
「……君が行きたいなら、いつか必ず連れていく。
だが今は駄目だ。君の身に何かあれば……私は困る」
最後の言葉は、思わず漏れた本音だった。
リオンの頬が、ほんのり赤く染まった。
「……私の、ため……?」
クラウスはわずかに目をそらした。
普段は絶対に見せない仕草。
「そうだ。君が無事でいてくれないと、私は落ち着かない」
胸が熱くなる。
こんなふうに言われたことは、一度もなかった。
私は小さく頷いた。
「……分かりました。
では……いつか、連れていってください」
クラウスは静かに微笑んだ。
その笑みは、騎士団長ではなく、ただのひとりの男のものだった。
「約束しよう。その日が来るまで、ここで安全に過ごせ」
その言葉が、胸の奥に温かく染み込んだ。




