過保護
部屋の扉が静かに開き、クラウスが盆を持って入ってきた。
金属の鎧ではなく、軽装のまま。
その姿だけで、少しだけ緊張が和らぐ。
「起きているな。食事を持ってきた」
盆の上には、湯気の立つスープ、焼きたてのパン、香草で焼いた肉、そして果物まで並んでいた。
見たこともないほど豪華だ。
私は思わず息を呑んだ。
「……こんなに、いりません」
クラウスは眉をひそめた。
「いらないのではない。食べられるだけ食べろ。痩せすぎだ」
「……」
「拒否は認めん」
淡々とした声なのに、どこか優しい。
私は言われるまま、スープに手を伸ばした。
一口飲んだ瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。
温かい。
優しい味がする。
「……おいしい」
思わず漏れた言葉に、クラウスの目がわずかに揺れた。
「そうか。なら、もっと食べろ」
彼は椅子を引き寄せ、私の隣に座った。
距離が近い。
けれど、不思議と怖くない。
「パンも食べろ。肉もだ。果物もある」
「そんなに……食べられません」
「食べられる。君は細すぎる」
クラウスは真剣だった。
まるで、私が食べないと世界が終わるかのように。
私はパンをちぎり、口に運んだ。
柔らかくて、香ばしくて、涙が出そうになる。
「……こんなに食べたの、久しぶりです」
ぽつりと呟くと、クラウスの表情が固まった。
「久しぶり……?」
私は慌てて首を振った。
「いえ、その……荷物持ちの仕事は忙しくて。食べる時間が……」
言い訳のように言うと、クラウスの瞳が静かに怒りを帯びた。
「……君はまともな食事も与えていなかったのか」
低い声。
怒りを抑え込んだ声。
私は震えた。
怒られると思った。
だが、クラウスは深く息を吐き、私の前にそっと果物を置いた。
「もう心配するな。ここでは、君は飢えない」
その言葉は、胸の奥に静かに染み込んだ。
誰にも言われたことのない言葉だった。
私は小さく頷き、果物を口に運んだ。
甘くて、優しくて、涙がこぼれそうになる。
クラウスはその様子を見て、ほんのわずかに口元を緩めた。
「……よく食べたな。偉い」
その一言で、胸が熱くなった。
褒められることに、こんなに心が揺れるなんて知らなかった。




