保護
地下通路から地上へ出たとき、少年──いや、あの光を放った存在は、私の腕の中で完全に力を失っていた。
軽い。あまりにも軽い。
だが、それだけではない。
腕に抱えた身体から、微かに温かい気配が伝わってくる。
魔力ではない。
もっと柔らかく、もっと澄んだ……祝福のような気配。
「……説明がつかん」
私は馬を走らせ、帝都の自宅へ向かった。
騎士団本部ではなく、あえて自宅を選んだのは、この少年が“保護対象”であり、“尋問すべき危険人物”ではないと直感したからだ。
扉を開け、客間の寝台にそっと横たえる。
フードがずれ、顔が露わになった。
「……少年、ではないな」
華奢な顎の線。
長い睫毛。
荒れた生活の痕跡があるのに、どこか神聖さを感じさせる顔立ち。
私は息を呑んだ。
「女……?」
だが、それ以上に気になったのは、彼女の胸元から微かに漏れる光の残滓だった。
あの地下で見た光と同じ。
魔物を退けた、あの神聖な輝き。
私は椅子に腰を下ろし、額に手を当てた。
「魔物のスタンピード……そして神聖光……。
教会の聖女でも、こんな純度の光は出せん」
帝国の記録にも、こんな例はない。
だが、目の前の少女は確かに光を放った。
私は彼女の手首に触れ、脈を確かめた。
弱いが、規則正しい。
「……無茶をしたのか。それとも、力の反動か」
彼女の服は冒険者の粗末なもの。
荷物持ちとして扱われていたのだろう。
だが、あの光を見た後では、
彼女が“ただの荷物持ち”であるはずがない。
私は深く息を吐いた。
「君は何者だ……」
寝台の上で彼女の指が微かに動いた。
胸の奥に、説明のつかない感情が湧く。
守らねばならない。
理由は分からない。
だが、この少女を放っておけば、また誰かに利用される。
私は立ち上がり、部屋の扉に鍵をかけた。
外敵から守るための鍵だ。
「安心しろ。君を傷つける者は、ここにはいない」
その言葉は、誰に向けたものなのか自分でも分からなかった。
ただ、彼女が目を覚ましたとき、
怯えた瞳を向ける必要がないように──そう願っただけだ。




