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男装の荷物持ちが実が聖女でした~戻って来いと言われても帝国騎士団長のお膝元にいるのが忙しくて無理です~  作者: 早乙女姫織


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そばにいたい

帝都の朝は静かだった。

だが、クラウスの屋敷の前には、白い法衣の一団が立ち並んでいた。


「帝国騎士団長クラウス・ヴェルナー殿。

教会は“聖女候補”の身柄を引き渡すよう要求する。」


使者の声は冷たく、揺るぎない。

クラウスは門の前に立ち、剣の柄に手を置いた。


「聖女候補など、ここにはいない。」

「昨日の戦場での“奇跡”は確認済みです。

癒しの光、加護の波動……すべて聖女の証。」


使者は淡々と続ける。


「彼女は教会の管理下に置かれねばならない。

帝国のためにも、世界のためにも。」


クラウスの瞳が鋭く光った。


「……それは“彼女の意思”を無視した言葉だ。」


屋敷の奥で、私はクラウス様の声を聞いた。

怒っている。

いつもよりずっと、深く。


「……私のせい……?」


胸がざわつく。

昨日、戦場で力を使った。

それが原因だと分かっていた。

扉が開き、クラウス様が入ってくる。


「リオン。絶対に外へ出るな。」

「クラウス様……教会が……?」

「君を“聖女”として連れていくつもりだ。」


私は息を呑んだ。


「で、でも……私なんて……」

「君の力を見た者は、そうは思わない。」


クラウス様は私の肩を掴み、真っ直ぐに見つめた。


「君は道具じゃない。誰かに管理される存在でもない。……君は、君だ。」


胸が熱くなった。


屋敷の廊下に、複数の足音が響いた。


「団長殿、申し訳ないが──

我々は“聖女”を保護する義務がある。」


教会の神官たちが、結界の札を手に近づいてくる。

クラウスは剣を抜いた。


「一歩でも進めば、帝国法に基づき“侵入者”として扱う。」


神官たちは怯まない。


「聖女は教会のものだ。」

「違う。」


クラウスの声は低く、震えるほどの怒気を帯びていた。


「彼女は“私が守る者”だ。」


私は扉の前に立ち、震える手を握りしめた。

――逃げたい。

――でも、逃げたくない。

クラウス様が私を守ってくれている。

なら、私も……自分の意思で立ちたい。

扉を開け、廊下に出た。


「……私、ここにいます。」


神官たちが一斉に振り返る。


「聖女様……!」


クラウス様が私の前に立とうとしたが、私はそっと袖を掴んだ。


「大丈夫です。

クラウス様の後ろに隠れてばかりじゃ……嫌なんです。」


クラウス様の瞳が揺れた。


聖女ではなく“私”として、私は神官たちを見つめた。


「私は……聖女じゃありません。

ただ、誰かを助けたいだけの……普通の人です。」


神官は首を振る。


「その力は普通ではない。

あなたは世界に選ばれた存在だ。」

「選ばれた覚えはありません。」

私は胸に手を当てた。

「私を“聖女”と呼ぶなら……

その前に、私の名前を呼んでください。」


神官たちは言葉を失った。

クラウス様が、静かに私の肩に手を置く。


「誰も答えられぬようだな」


その声は、誇りと愛情に満ちていた。


神官たちはしばらく沈黙し、やがて一歩下がった。


「……本日は引き下がりましょう。

しかし、聖女の力は世界のもの。

いずれ、教会は正式な手続きをもって迎えに来ます。」


クラウスは冷たく言い放つ。


「そのときは、帝国と教会の戦争になる。」


神官たちは顔色を変え、退いた。



神官たちが去ったあと、クラウス様は私を抱き寄せた。

「……怖かっただろう。」

「はい……でも、クラウス様がいてくれたから……」

「君は強い。

だが、強くなくていい。

私は……君を守りたい。」


その声は、震えていた。

私はそっと彼の胸に顔を埋めた。


「……私も、クラウス様のそばにいたいです。」

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