結界
夜明け前、クラウスの屋敷は静寂に包まれていた。
だがその静けさを破るように、白い法衣の影が庭を横切る。
「聖女候補リオネッタを確保せよ。抵抗は許さない。」
教会直属の“聖女捕縛部隊”。
彼らは帝国の許可もなく、屋敷に侵入した。
クラウスはすぐに気配を察知し、剣を抜いた。
「……来たか。」
その瞳には怒りではなく、
“奪わせない”という静かな狂気が宿っていた。
騒ぎに気づき、リオネッタは部屋を飛び出した。
「クラウス様!」
「戻れ、リオネッタ! ここは危険だ!」
「いいえ……私も戦います。」
震えていた。
でも、その瞳は強かった。
「私のせいで、クラウス様が傷つくのは嫌です。」
クラウスは一瞬だけ目を見開き、
そしてゆっくりと頷いた。
「……なら、私のそばから離れるな。」
捕縛部隊が結界を展開し、リオネッタを囲む。
「聖女よ、教会へ戻れ。あなたの力は世界のために使われるべきだ。」
リオネッタは首を振った。
「私は……“聖女”じゃありません。私はリオネッタ。私の力は、私が選んだ人のために使います。」
その瞬間、胸の奥の光が脈打ち、金色の波が広がった。結界が砕け、捕縛部隊が後退する。
「な……この純度……!」
クラウスはその隙に前へ出た。
「彼女は誰のものでもない。ましてや教会の道具ではない。」
剣を構え、リオネッタの前に立つ。
「彼女は……私が守る。」
捕縛部隊は撤退を余儀なくされた。
その背中を見送りながら、クラウスはリオネッタの手を取った。
「帝国は教会の支配下ではない。
彼らが再び来るなら……帝国と教会の戦争になる。」
帝国議会はクラウスの報告を受け、
正式に“リオネッタの保護”を宣言した。
教会は手を出せなくなった。
嵐が過ぎたあと、屋敷には穏やかな日々が戻った。
リオネッタは庭で花に水をやり、
クラウスはその横で書類を片付けている。
「……クラウス様。」
「なんだ?」
「私……これからも、あなたのそばにいていいですか?」
クラウスは手を止め、ゆっくりと彼女を見つめた。
「君が望むなら、ずっとそばにいろ。私は……君を失いたくない。」
リオネッタは微笑んだ。
「私も、クラウス様のそばにいたいです。」
クラウスはそっと彼女の手を取り、指を絡めた。
「なら、決まりだ。君はもう、どこにも行かせない。」
その言葉は束縛ではなく、“選び合った未来”の宣言だった。
リオネッタの力は、教会のものでも、帝国のものでもなかった。
それは、彼女自身が選んだ人を守るための光。
そしてクラウスは、その光を奪うのではなく、ただ隣で受け止めることを選んだ。
二人は並んで歩き出す。世界がどう変わろうと、彼女の光は、彼の剣は、もう離れることはない。
以上で完結になります。読んでくださりありがとうございました。急ぎ足でございましたが無事完結できてよかったです。また他の作品で会いましょう。




