忍び込み
クラウス様は、私を守ろうとしてくれる。
それが嬉しくて、温かくて、胸がいっぱいになる。
でも──
私は守られてばかりでいいのだろうか。
「……私も、何かできるはず」
騎士団が魔物討伐に出ると聞いた日、
私はそっと屋敷の裏門を抜けた。
クラウス様に黙って出るのは、胸が痛んだ。
でも、彼の負担を少しでも減らしたかった。
「癒しの力があるなら……誰かの役に立てる」
そう信じて、私は討伐隊の後ろにこっそりついていった。
森の奥は、思っていたよりずっと怖かった。
魔物の気配が濃く、空気が重い。
「……っ」
前方で騎士が魔物に弾き飛ばされる。
私は思わず駆け寄った。
「大丈夫ですか……!」
「リオン!? なんでここに──」
騎士の腕に触れた瞬間、光が溢れた。
傷が閉じていく。
周囲の騎士たちが息を呑む。
「また……あの光……!」
「やっぱり、聖女の……!」
そのとき、森の奥から巨大な影が現れた。
「危ない!!」
私は避けられなかった。
魔物の爪が振り下ろされる。
目を閉じた──その瞬間。
「リオン!!」
私は全力で駆け込み、彼女を抱き寄せた。
魔物の爪が私の背をかすめる。
痛みなどどうでもよかった。
「……どうしてここにいる」
声が震えていた。
怒りではない。
恐怖だ。
リオンは怯えたように私を見上げる。
「わ、私は……役に立ちたくて……」
胸が締めつけられた。
「役に立ちたい? だから命を捨てるのか」
「ち、違います……!」
「違わない!!」
思わず声が荒れた。
リオンがびくっと震える。
私は深く息を吸い、彼女を抱きしめた。
「……君がいなくなるのが怖いんだ」
その言葉は、もう隠せなかった。
「君が傷つくくらいなら、帝国も教会も敵に回す。
だから……勝手にいなくなるな」
リオンの瞳が揺れ、涙が滲む。
「……ごめんなさい……クラウス様……」
「謝るな。ただ……私のそばにいろ」
私は彼女の頭を胸に押し当て、震える身体を抱きしめた。
周囲の騎士たちは、誰も言葉を発せなかった。
「……団長、あんな顔……」
「完全に……守る相手を見る目だ……」
「教会より団長の方が怖い……」
誰も近づけないほどの気迫で、
クラウスはリオネッタを抱きしめていた。
クラウス様の腕は強くて、温かくて、
でもどこか必死で。
「……私、クラウス様の役に立ちたいんです」
「立っている。君が生きているだけで、私は救われる」
その言葉に、胸が熱くなった。
私はそっと彼の服を握った。
「……もう勝手に出ません。だから……そばにいてください」
クラウス様は静かに頷き、
私の頭を優しく撫でた。
「約束だ。君は私が守る」
その声は、祈りのように優しかった。




