対立
リオネッタが癒しの光を使った翌日。
クラウスの屋敷の門前に、白い法衣をまとった男たちが立っていた。
「帝国騎士団長クラウス・ヴェルナー殿に、教会より通達がある」
門番が慌ててクラウスを呼びに走る。
クラウスはすぐに姿を現した。
その表情は、すでに警戒で固まっている。
「……教会が、何の用だ」
使者は微笑みを浮かべたまま、淡々と告げた。
「帝都にて、強い“聖属性反応”が観測されました。
調査のため、付近の住民・騎士団員への聞き取りを行っています」
クラウスの眉がわずかに動く。
「聞き取りなど不要だ。帝都の治安は帝国騎士団が管理している」
「しかし、聖女候補の可能性がある以上、教会としても──」
「聖女など存在しない」
クラウスの声は低く、鋭かった。
使者は一瞬だけ目を細めた。
「……団長殿。あなたの屋敷に“保護している者”がいると聞きましたが?」
空気が凍りつく。
クラウスは一歩前に出た。
「それがどうした」
「その者に、我々が直接会う必要があります。
聖属性反応の中心が、この屋敷の方向だったもので」
クラウスの瞳が、冷たい刃のように光った。
「断る」
使者は驚いたように眉を上げた。
「……断る? 教会の要請を?」
「帝国の領土で、教会が勝手に調査する権限はない。ましてや、私の保護下にある者に勝手に触れることなど、絶対に許さない」
使者の笑みが消えた。
「団長殿……その者は、教会の管理下に置かれるべき存在かもしれないのですよ?」
クラウスは一歩踏み出し、使者の目の前に立った。
「“かもしれない”で人を連れていくのが、教会のやり方か」
使者は口を閉ざす。
クラウスは低く、静かに告げた。
「二度とこの屋敷に近づくな。
次に来たら、帝国法に基づいて拘束する」
使者は唇を噛み、法衣を翻して去っていった。
その頃、私は屋敷の奥の部屋で、クラウスの帰りを待っていた。
扉が開き、クラウスが戻ってくる。
その顔は、いつもより険しい。
「……クラウス様?」
彼は私を見ると、少しだけ表情を緩めた。
「リオン。教会が……君を探している」
胸が冷たくなる。
「わ、私……何か……」
「君のせいじゃない」
クラウスは私の肩に手を置いた。
「だが、君の力を知れば、教会は必ず“聖女”として拘束しようとする。君の意思など関係なく、だ」
私は息を呑んだ。
「……そんな……」
「だから、絶対に屋敷から出るな。君を守れるのは、私だけだ」
その声は、怒りでも命令でもなく、
ただの“願い”のように聞こえた。
胸が熱くなる。
「……はい。
クラウス様が言うなら……」
クラウスは安堵したように息を吐き、
私の頭にそっと手を置いた。
「大丈夫だ。君は私が守る」
その言葉は、祈りのように優しかった。




