予感
リオンが癒しの光を放った翌日。
騎士団本部は、いつもと違うざわつきに包まれていた。
「昨日の光……あれ、本当に見間違いじゃないよな?」
「団長があんなに焦った顔、初めて見たぞ」
「教会に報告すべきじゃ……?」
その言葉を聞いた瞬間、クラウスは静かに歩み寄った。
「報告は不要だ」
低い声が、空気を凍らせる。
「昨日の件は、すべて私の監督下で処理する。
誰ひとり、外部に漏らすことは許さない」
騎士たちは息を呑んだ。
団長の声は冷静なのに、どこか切迫している。
「……団長。あの少年は、いったい……?」
「ただの保護対象だ。それ以上でも以下でもない」
クラウスはそう言い切ったが、
胸の奥では焦りが渦巻いていた。
――教会に知られれば、彼女は奪われる。
それだけは絶対に避けなければならない。
屋敷に戻された私は、クラウスの部屋で静かに座っていた。
怒られると思っていたのに、彼はただ黙って私の手を包んでいた。
「……リオン。昨日のことだが」
「ごめんなさい……勝手に力を使って」
「違う」
クラウスは首を振った。
「君は間違っていない。
だが、君の力は……あまりにも目立つ」
その声は、怒りではなく、恐怖に近かった。
「君のような力を持つ者は、教会が放っておかない。
“聖女”として拘束され、利用される」
私は息を呑んだ。
「……私、そんな……」
「君がどう思っていようと、あの光は特別だ。
そして特別なものは、奪われる」
クラウスの手が、私の手を強く握った。
「だから……頼む。
もう二度と、私の目の届かないところで力を使うな」
その声は震えていた。
私は初めて気づいた。
――クラウス様は、私のために怖がっている。
胸が熱くなり、私は小さく頷いた。
「……はい。
クラウス様が言うなら、守ります」
クラウスは安堵したように目を閉じた。
その頃、帝都の教会では──
「帝国騎士団本部付近で、強い聖属性反応を確認しました」
「聖女の気配……?」
「はい。しかも、純度が異常に高いものです」
司祭たちがざわめく。
「調査隊を出せ。“聖女候補”が現れた可能性がある」
帝国に、静かに嵐が近づいていた。




