表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/49

23


お互いを見つめあうその光景は美しかった。

そう思えるほど『私』こと井原は異物でしかないと痛感する。

やっぱり、そんな考えが巡る。


そもそも階段から落ちたあの時。

あの時に『私』は死んだはずだった。

それが何故だか愛した世界で誰かの人生を乗っ取っていた。

愛した世界で、『私』のしたことは、愛するキャラを幸せにする事。

だって、不幸になると知っているのに。

このまま放置すればずっと泣いて、苦しむ子を見ないふりしろなんて。

できなかった。

この手で、この人の立場なら、出来るんだもの。

でも、それは。


ああやって、心から愛する二人を十数年も引き離すという身勝手。

別人に乗り移られた愛する人と。

なんて恐ろしいのだろう。

謝って、許されるのだろうか。


「お顔を上げて、井原さん」


凛とした声。

間違いなく大人の声が。


「ようやく会えた。

 今までずっとリクとカイ、それにリリアを守ってくれてありがとう。

 あなたはずっと三人を愛していた。

 それは本当にすごい事よ。本当にありがとう。

 それで、私、ずっとあなたと話したいと思っていたの」


少し上の姉、もしくは母親。

『私』とは違う。

呑気に好きな事をしていた『私』とは違う。

貴族で母親で夫人でと立場も責任も背負い生きる大人であるパンジー。

たった三行の出番。

可哀想なリリアを表現するためのセリフを言わされるだけのキャラ。

そんな出番しかなかったパンジーだってきっと人生があったのに。


「……あなた、私が怒っていると思っているのね。

 人の人生を乗っ取った、なんて」

「……えっ、どうして」


思っていたことを言葉にされる。

どうして。

その言葉も、すぐに返ってきた。


「どうして。ふふ、当然よ。

 私とあなたは、同じなのよ。ずっとここにいるもの。

 あなたがずっと悩んで、嘘をついていると苦しんでいたのも知っている。

 もちろんリリアたちをずっと愛してくれた事もよ。

 あなたはずっと誰かの幸せの為に奔走してた。

 それはこの私が一番知っている事実なの。もっと自信を持ちなさい。

 あなたは誰も不幸になんてさせてない。大丈夫」


見ないふりをしていた現実。

殆ど自己満足で捻じ曲げた少女のルート。

それは全部『私』の勝手。

そうやって変えたくせにアイローズやヒロイン、本当のルートにおびえて。


「わたし、ずっと」


水晶の中で微笑む貴婦人は美しかった。


「私、ずっとあなたと話したかった。

 不思議だったの。リリアのこと、どうしてこんなにも知っているのか。

 どうしてあれこれと気にしているのか」

「それは」



〇〇〇



ぽつりぽつり話したのはこの世界の事。

ここがゲームの世界で物語があるという事。

そしてリリアがその物語でみじめに扱われたこと。

それが嫌で物語を変えてしまった事。


「ごめんなさい。わたし、わたし……。

 パンジーさんの事を利用してたんです。

 せっかく親戚の立ち位置だし、リリアを守れるって。

 物語で、パンジーは、少ししか出番がなくて、それで」


身勝手な理由でしかない。

言えば言う程、自分がどれだけ勝手であるか知るようで無視した。

結局物語を勝手にかき回して、好き放題しているのは私。

誰でもない。

一番勝手に人の人生を遊んだ最悪の。

でも、それでも、やっぱり『私』は。

もう悲しみの涙を流さないリリアを。


「……そのために、私を、そう……」


やっぱり嫌だろう。

自分の欲望を満たすために人の人生を乗っ取るなんて怨霊でしかない。

もうこのまま消え去りたい。

でも、でも、やっぱり……。

リリアはもう、救われたのだ。

『私』が消えても、きっと。

でも、でも……もっと、もっとそばに。


「ずっと思っていた。あなたは、リリアを守る為に

 ここへやってきた守護霊の様だと」

「………へ……は……?」


そんなわけない。

その言葉は出てこなかった。

守護霊なんて聞こえのいい言葉、オタクにはもったいない。

もう死んでるし、そんな綺麗な存在じゃない。

いや、そうじゃない。


「だめだめだめ。そんな風にまとめたらだめです。

 確かにリリアの事は大好きですよ。

 ええ。『私』の推しなんですよ。でも、そんな」

「素敵ね。物語のようだわ」

「物語はそうなんですけど」


まとまるようでまとまらない話をしていたのをずっと見守ってくれていた二人がようやく入ってきた。入りづらいのは少しわかるけれど。二人も聞いた話を何度も静かに聞いていてくれた。いいひとたちだ。


「それで、これまではまあともかく。『これから』の話はどうする?」


そう。これまでは『私』がいうのもアレだが。

これまでの事はどうやってもどうすることもできない。

仮にパンジーが「今まで勝手にして。人生を返せ」と言っても何もできない。

逆に許されたとしても『私』だって微妙な気分になる。

けれど、『これから』はどうにでもなる。


「プランタ伯爵、それなら答えが出ているよ。

 もともといはら嬢の願いはリリアの、推しの傍にいる事だろう」

「え、ええ。そうですが」


トアル侯爵令息は自信たっぷりに言う。

『推し』って今更ながらこの世界に相応しくない言葉だ。

けれどこの世界に似合う言葉は思いつかない。流そう。


「トアルは半永久的に生きられるような体で研究し続けたいというから断られたが、

 実は『僕』自身の魂を別の場所へ移して体を返そうと研究していたんだ。

 ……断られたけれど、『僕』としては研究が見れれば満足だったし、

 トアルと意思だけ通じれば充分だと思ってたんだ。彼には断られたが」

「……それは」

「 『僕』がいうのは動くことのできない物に魂を移す、と言うことだ。

 僕らは魂と言ってもわずかに魔力を帯びている。それが僅かであってもだ。

 物とは、ランプだったり、髪飾りだったり、ぬいぐるみだったりね。

 動くこともできない、下手したら見守るだけかもしれない。

 そんなのごめんだと言われてね。まあ下手したら処分だってあり得るし、

 逆にそれこそ長い時間、それこそ永劫の時をただ茫然と見ることしかできない……。

 そんな地獄をみる事になるから、『僕』も少し考えてね。

 けれど、あなたの話を聞いて、これをもっと改良したならば、リリア嬢と。

 あなたの『推し』の傍で、その行動を、見守ることができるのではないかと思ったんだ」


つまり彼は『物に転生しないか』と言っている、と理解していいだろうか。

確かにすぐに処分され、その世界で消えてなくなることもありえるし、逆に大事にされてずっと家系を見続ける事にもなるかもしれない、それはどっちも地獄だ。

でも、そうすれば。


「パンジーは、どうなるんですか」


今まで話を聞くばかりだったウィリアムの声が、希望を見出したように言う。


「それは、『僕』が……『僕ら』がうまくやらないと、わからない。

 そもそも、こんなのもしかしたら、神の領域を侵すとんでもない事だろうし……。

 期待されても困る、と言うことだけは言える」

「……そう、ですか」


それはそうだ。期待だけさせるなんてしたくないだろうし。


「その代わり、その、『ミエマスの珠』を後日お送りするよ。

 それは僕とトアルの為に作ったものだから、無くなると困るから

 ほんの少しだけ待っていてくれませんか。

 ……長々と色んな話がきけて、うれしかった。

 事情は話してあるけれど、あまり長々と話していると伯爵たちにも

 ご迷惑が掛かる。時間はある。また面会の日取りを決めて今日はこれまでにしよう。

 早速制作と開発に力を入れるよ。

 もともとあるものを改良するんだ。上手くできるように力を尽くすよ」


当たり前のように話しているが、まだ『珠』越しで、これは借り物。

こうやって話すのは、すぐには来ないのだろう。


「……そう。せっかく話せたのに残念だわ。

 もっと聞きたいことが……あ、ああ……また、ゆっくり……」


光が消えていく。

名残惜しい。

『私』もまだ聞きたいことが。





帰りの馬車は静かだった。

もう互いの事を知っている『私』たちは静かに意思を固める。

それは、パンジーにもう一度会うことだ。

それは、すぐにやってくる。

そして、『私』もまた新たなことが始まりそうな予感がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ