ヒロインの試練?
まだ始まったばかりの長期休暇で、これからのはずだったのに。
次から次に生まれてくる真っ黒な感情は止まらない。
「どうしてよっ! なんでっ、なんでっ」
『ステラ』は精霊に愛された特別な女の子。
特別な女の子なのだ。『ステラ』の為の世界。
そのはずなのに、なんであんな恥をかくイベントがあるのか。
ふざけている。
バグだ。
狂っている。
誰かが、この世界を、狂わせたのだ。
「ふざけないでよ……! ここは、『ステラ』の為の……」
ふざけるな。
自分の幸せの為に世界を狂わせるなんて。
ツツジ様の美しい誇りを汚すなんて。
ツツジ様であるとわかってない。
立場をわかってないなんて本当にあり得ないわ。
ここは『ステラ』の為の世界なの。
そうであるはずなの。
『ステラ。気にしないで。
光の精霊のくせに逃げた腰抜けなんて忘れましょうよ。
何があってもステラが特別な事には変わりないのよ。
あんな子いなくたって、ステラは特別。
それは神様が決めた絶対の真実なんだから』
メーラが自信満々にいう。
そうよ。そうなの。
『ステラ』は特別なの。
それは、絶対。
「そうよね。そうに違いない。当たり前よね」
『そうよ。それに治癒が得意なのが光の精霊ってだけで
治癒の力自体はアタシたちにだってあるわ。
ね、そうでしょ。ローラ!』
『えっ!? え、え……そりゃあ、少しくらいはあるけれど、
わたしは……そういうの苦手なのよね……。
少し励ましたりぐらいなら、出来るけれど……』
メーラがローラに聞くが、その答えはどこか自信なさげだ。
けれど、良い事を聞いた。
あんな子いなくても、これからも、『ステラ』は特別。
やっぱりケガを治す奇跡の力の方が、見栄えするのよね。
ローラに期待できないけど、まあいいわ。
他の事をしてもらえば……あら?
そういえばローラは入学式の時に何かかけてくれたような……。
まあいいわ。
あとで思い出しましょ。
『何よ頼りないわねえ! お姉さん振るくせにさあ!
ステラ! 何かあったらアタシを頼って!
治癒だって、攻撃だって、なんでもしちゃうんだから!』
『メーラ……?』
ふふふ。
そうよ、まだ、夏のイベントは終わってない。
あのイベントは駄目でも、まだ……。
そうよ。
本当なら秋にしか解決できないレンのイベントを消化しちゃおうかしら。
……アスター王子とのイベント……惜しかったわ……。
でも、もっと大きな舞台で化けの皮を剥いで、『ステラ』がその隣に……。
ふふ。
ふふふ!
最高の舞台になるように、秋はもっと素敵なヒロインでいないとねっ。
あっ。
そうだわ。
あの伯爵令息だって、せっかくなら攻略したいなあ。
ツツジ様の化けの皮を剥ぐ為の練習台にいい感じだし……。
手駒がなくなれば少しはボロがでるかもだし……ね!
あっ。
そうだわ。
ショウのイベントだってもうすぐじゃなかったかしら。
少し冷たくしたけど、イベントがあるなら構っても良いわよね。
ショウのイベントは確か成金子爵家が招待した夜会に二人で行ったら、成金令嬢に『ステラ』が虐められるのよね。養女で義姉なのに婚約者面なんて恥知らずって。
それをショウが庇って、愛を告白するのよね。
……まあ義姉に恋するなんて、ちょっと……抵抗あるけど。
たまには華やかな場にいるのも悪くないわよね。
知り合いだけだから、夜会も許可されてることなんだし……。
久しぶりに構ってあげないと、ね。
「ショウ~! 久しぶりにお茶をしましょうよ!」
普段ならすぐに飛んできて、にこにこしながら頷いてくれる初心者用キャラ。
興味はないけど、少しはかまってあげないとさ~。
嫉妬されて邪魔されるのはごめんだし。
ちょっと冷たくしたから、機嫌取らないとねえ。
「あら?」
すぐに飛んでくると思っていたのに、全然だ。
おかしいなあ。
「坊ちゃんならば今日は婚約者とのお茶会ですよ。
最近あれこれと理由をつけて断っていたから
長期休暇中は勉強会も兼ねて、回数を増やすそうで……」
「……あら、そう、なんですか……」
面白くないわ。
なによ、普段はあんなに後ろを張り付いていたくせに。
「あの地味な婚約者の所に……」
野暮ったくて暗いあんな女の子、どこがいいのかしら。
でも、今だけよ。
だって、ショウは、『ステラ』のものなの。
だって、今まで一度も行ってないもの。
『ステラ』が嫌がれば、お邪魔虫でしかないのよ。
まあでも。
「たまには良い気分にさせないと」
奪うのはいつでもできるもの。
〇〇〇
「さすがは私の娘ねえ!」
キラキラした宝石をにやにやしながら言うのはアイローズの母親。ベルローズ。
少しけばけばしいが随分と慣れた。
この長期休暇、『アイローズ』は稼ぐことに身をささげた。
本当なら没落寸前の貧乏伯爵家は今は見事に持ち直し、そこそこの伯爵家となった。ただ領地経営については改善はなく、ただ使えるお金には困らない。ただそれだけ。
『アイローズ』がしたのは前世の知識を生かした会話を楽しむ『かふぇ』という場所を作り出した事。始める前はそんな平民のすることなんてと馬鹿にしていた母は今では宝石を生み出す鶏である『アイローズ』を笑ったりしない。
褒めたりもしない。
まあ、特別に扱われた事もそこまでないけれど。
「ありえないわ」
事実を知って以降、それしか言葉が出てこない。
ヒロイン『ステラ』よりもずっと実用性があるはずになった『アイローズ』なのに。
ヒロイン『ステラ』よりもずっと知識があり、先回りしていたのに。
なのに。
なのに。
なのに。
この長期休暇になるまですべて空振り。
そのうえ勇者サマなんて言う馬鹿にされるあだ名までついた。
ありえない。
ありえない。
そのうえ、この家には正当な後継者が産まれる?
ありえないわ。
なんでこんなにも狂っているかと言えば、そんなのわかっている。
リリアが逃げ出したからよ。
あの女、きっと転生者に違いないわ。
その知識があるから嫌になって逃げだして、それなのに知らないふりをして!
ありえない!
きっとあざとい女が転生してるに違いないわ!
あんな奴のせいで『アイローズ』はしなくていい苦労をしているのに!
ふざけるな。
婚約者だって……!
もっと早く言えばいいじゃないの! 遅いのよ!
「ふざけているわ、こんなの」
これじゃあ『アイローズ』がリリアの立場になるじゃないの。
家の為に使いつぶされるか弱い令嬢。
そんなの、そんなの、嫌よ!!
あいつが、リリアの役目じゃないのっ。
それを押し付けて、幸せそうに笑って暮らして……腹が立つ!
どうにかして、この役目を押し付けてやらないと。
自分の生まれた家を見捨てるなんて、そんな事、よくも出来るものだわっ。
でも、あいつの周りにはまるで守るかのように人がいっぱいだし……。
「……そうだわ。いないなら、作ればいいのよ」
そうよ。
『アイローズ』がされたように押し付ければいいのよ。
「ふふ……ふふふ!
なら、いつも来る顧客に少し良い平民の女がいたわね……。
商家の、女だったか、どうだったか……。
アルに首ったけだったし、借金があるとかで使用人にして……」
リリアの立場を作って、押し付けてやればいいのよ。
そうすれば、少しは話だって、修正されるわ。
見てなさいリリア。
お前の幸せなんてすぐに壊して、使用人二号にしてあげるんだから。




