酒と女
桜が満開の公園も、散ってしまうと味気のない風景だ。この界隈はホームレスも多く、公園にはダンボールがたくさんある。
そんなところで元妻と話しこむのは色気がないが、私はこの公園が好きなのだ。
どんな人間でも受け入れてくれる、そんな空気感が漂っているのだ。
しかし、妻はそんな俺を害虫を見るような目で一瞥しながら缶コーヒーを啜る。
『何のようかな?』
『あなたのところに、美咲が行かなかったかしらね。』
『ああ来たよ。』
『で?』
『いや、なんだか様子がおかしかった。桜の木に登ってよ。自殺しかけた。』
『そう・・・。』
実の娘が、死にかけたのに飄々としている。
『美咲は何か言ってたのかしら?』
顔色一つ変えない。恐ろしい女だ。
『いや、美咲のクラス、死人が出たろ?あの新聞に載った、、あれについて話をした。』
『あなたが用務員室に戻ってきたら、首吊ってたとかいう。死体はそのあと最近まで見つからなかったから、あなたは特に罪に問われなかったとか?』
いちいち嫌味な女だ。
『仕方ないだろ、見つからなかったし、不確定な情報を伝えても、、、』
『まあ、あなたじゃ信用されないわね。』
缶コーヒーをすする妻。
唇につい目がいく。
嫌味な女だが、色気はある。
『で、、何か?』
『今追ってるのよ。美咲、ヤクやってたんでしょ?』
妻は警視総監だ。
そんな人間が捜査の最前線にたつことはない。
警視総監の娘が麻薬なんて、週刊誌からしたら飯うまなスキャンダルだ。
『もみ消すのか?』
『美咲がやったという証拠が無ければシロじゃない。』
俺の時と同じだ。
俺が性犯罪を犯した時も、示談に持ち込み立件にならなかった。だから、前科ではない。
だが、警官からしたら俺は前科者だ。
その時示談に持ち込んだのが、真島の坊ちゃんの父親だ。
真島の坊ちゃんの父親と元妻、そして真島の坊ちゃん。
あの時の一時の気の迷いが、ここまで尾を引くとは思わなかった。
いや、いいのだ。
数年とはいえ安定した仕事は得られたのだから問題はない。
『美咲のいる病院にいったわ。』
『金を積んだのか?』
『さあ。あなた、もうこれ以上この件に突っ込まないで欲しいのだけど。』
釘を刺しに来たという事か。
『ああ。美咲には真っ当な人生を送って欲しいからな。』
『あなたと違ってね。』
元妻はベンチから立ち上がると、缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れた。
私なりにこの件を調べるつもりだったのだが、いろいろありすぎた。
私も立ち上がり、元妻に背を向ける。
お隣さんが待っている。
私は私の暮らしをしていくことにしよう。
寮に戻る。
2階のリビングには、いないか。
お隣さんの部屋をノックする。
物音一つ聞こえない。
『酒屋にまだいるのかな・・・・?』
寮を出て、酒屋へ向かう。
『閉まってるか。』
すでに夜も遅い。
公園を通って帰るか。
公園を通る。
いつもはホームレス達が酒盛りをして賑々しいのだが、なんだか妙に静かである。
『気味が悪いな。』
公園を出ようとした時であった。
『んー!んー!』
うめき声だろうか?
うめき声の方へ向かう。
そこは外からも公園内からも死角になるような草むらのかげ。
妙に酒臭い。
恐る恐る覗くと、そこには。
『いや、事後の酒は美味いよなあ、奥さん?』
そこには数人の寮の男とお隣さんに衣服をひん剥かれて乱暴されて泥だらけになりながら、あの緑の缶ビールを飲まされ、地面に寝そべっている元妻の姿があった。




