美咲の様子がおかしい
ビルの前に立つ。
『うん、なかなか決まってる!!』
無精髭は全部剃り、髪型はオールバック。
黒のスーツは少しブカッとしているが中年太りにはちょうどいいだろう。
このガラス張りのビルの先に、美咲との待ち合わせの定食屋がある。
桜がすっかり散ってしまったが、
満月の綺麗な夜だ。
通勤でよく使っていた、桜並木を歩く。
桃色の花びらで敷き詰められた絨毯の上を歩きながら、満月が反射している河川を眺める。
こんな日は飯が美味そうだ。
木目の扉を開ける。
カランコロンと鳴るドアのベルは心地がよい。
さながら、再会を祝するファンファーレの代わりのようだ。
店内は夜ということもあり、中間照明がアダルトな雰囲気を醸し出す。よく来ていた定食屋も夜になるとこうも違うのか。
店の奥に美咲は座っていた。
私は少し口角をあげて美咲に手を振る。
美咲は顔を上げた。
『・・・・?』
ぎこちなく手を振る。
心なしか手が震えているようにも見えた。
『久しぶりだな、美咲。』
『ひ、久しぶりね、お、おとうさん。』
目が大きく見開かれている。
口元は噛み締めているからか、ブルブルと震えている。
『どうした?』
私は覗きこむように美咲を見る。
『・・・て。』
『うん、なんだ?』
『・・・きて』
『きて?』
『一緒に学校にきて。』
『美咲?』
美咲は立ち上がると私の腕を掴みそのまま店の外に出る。
美咲は私の腕をこれでもかという力で掴みながら、足早に歩く。
『お、おい。いったいどこに・・・。』
『学校!!』
そういうと、唐突に足を止める。
美咲の肩にぶつかる。
『どうしたんだ??』
美咲の顔を見る。
息はかなり上がっていて、過呼吸に近い。
眉間には何重にも皺ができており、怒気を纏っているかのようだ。
『入るよ。』
美咲はドアを開ける。
夜なのに、なぜ空いているのか。
そこは・・・
私のかつての職場、鹿島や真島の坊ちゃん、そして美咲の母校だった。




