やりがいがあるって、いいよね
俺の言葉に誰も返事をすることなく、その場は沈黙に包まれる。
奥でざわざわしていた先輩たちも静かにこちらを見ていた。
…うん、本当に何なのこの沈黙。
あ、あの、先輩そんな目でこっち見ないで…
目が怖い怖い怖い
「できるのか?」
妙な雰囲気の中、イケメン先輩が口を開いた。
その表情は、嫌味な顔ではなくて、逆に少し優しい雰囲気が見えた。
更にその顔を見ているとなにか頭の隅でよぎるような、不思議な感覚を覚える。
…誰かに似てる?
なんだか、もやもやする。
「…………は、はい!
じゃあ…"風の戯れ≪フリーウィンド≫"」
俺の周りに、ふわりと風が舞う。
徐々に風量が強くなり足元へ集まっていく。少々砂埃もまってしまったが、それは足の下で小さくなり俺を持ち上げるかのように地から離れると、先輩達が驚きで声をあげる。
…この魔法自体、確か基礎魔法の一つだったはずでは…まあもう言うまい
あとは勢いをつけそのまま塀の上まで上がっていくと、視界から塀が消えた。
代わりに映るのは綺麗な街並み。
「よし、あとは……」
寮の屋根の上まで上がり、その街並みに向かって行こうと前方へ飛んで…
―― バスンッ
「―っ…てぇ…」
行こうと思ったのだが、何かに当たった。
しかもその衝撃に後方へ弾かれる。
思わず足の力が抜けそうになったが上手く堪えた。
「なに、ここまでこんなのはってんだ…!」
思いきりぶつかって鼻がヒリヒリする。
さすると痛い。顔から突っ込んだからか相当強く打ち付けたらしい。
そのシールドらしきものをコンコンと確認しながら上や横へ移動する。
もしかして…と思っていたことが、確信へ変わる。
このシールド…いやバリアか
「このでっかい寮、全部包んでる…?」
しかも、持続で…。
もしずっと掛かってるのだとしたら、しかも日常生活を過ごしながら継続しているとなるとそれには相当強い魔力が必要だ。
どうやって継続しているのかわからないけど、魔法を実行する段階でこれに必要なほどの魔力。
流石魔法学校。
めっちゃ凄いよ?
めっちゃ凄いけど。
未だヒリヒリする鼻をそっと撫でる。
「…………なんか、腹立つなぁ…」
手の平をシールドに押し当てる。
そして、目を閉じ手の平に集中……
詠唱破棄はその分集中力も居る。でもこういう場合は、詠唱に必要な内容を把握した上で構造を考えて詠唱しないといけない部分もあり、イメージ構築する分破棄の方が楽な気がする。俺はね。
あと大体このタイプは
「"解明"」
解こうとすると魔法陣が出る。大体組み込まれてるだろうなってものをイメージしたのが正解だったらしい。目を開けてみると俺の手を中心に魔法陣が現れており、魔法陣のほとんどがくっきりと表示されている。
組み込まれているものがわからなくて足りなかったりすると、そこは文字や模様がうっすらになっているものだ。
その内容は大分複雑…流石寮全体を囲むだけあって、色々なモノが組み込まれている。
まあでもここまでくっきり出ているのだ、これだけでも半分以上は手間は省かれている。
「……これはやりがいあるなぁ」
解明は、得意だ。
口の端が上がる。
手の平から体中に気を巡らせる。
その魔法陣から流れる魔力の種類・濃度を探り、流れるものと同じ魔力を更に自分で流し込み融合させる。
大体このタイプの魔法陣は魔法を使用した本人しか消したり中身を変えたり、と管理できないんだけど、融合させて俺の魔力も注いだことにより、俺にも管理権限を持つことができるようになる。
とりあえず簡単に言うと、たくさんある錠をたくさんある鍵の中から探して開けていく!
そんなこんなで全部の鍵を開けて、
「"解放"」
解錠解明、終了。
―…パァンッッ
魔法陣が消えると高い音をたてて、シールドは解けた。
というか割れた。
「―っしゃあ!」
俺が拳を上げて声をあげると、下で待機している先輩達の声もあがる。
ちょっと、嬉しいかも
それを見て笑むと、俺は塀を超え、少し遠め、視覚に入っていた多めに木々が並ぶ恐らく公園であろうところへ向かう。
小さめの丘や子供の遊ぶ遊具。境目に作られた小さな林。塀で囲まれているのはちょうどいい。
早めに戻らないといけないので、ちょっと急ごう。
なにより寮全体を覆っていたのを割ったのだ、恐らく魔法を張った本人も感じている筈。
バレたらヤバイ。戻ったら張りなおすべきなんだろうけど、しっかりとした範囲まではわからん。
気をつけて帰らないとなぁ
なんて思いながら、魔法陣を書く場所を探す。
塀を伝って歩いていると、いい感じに木々と草で影になっているところを発見。
「ここ良いかも!…"物質化(メイリアル゛)"」
手にはチョーク、これで移動するための魔法陣を書いていく。
よし、目標3分!




