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その者、”異端”につき。  作者: 月乃あかり
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フロアの中心には蔦が集まるようにできた大きな塊。

そこの上下から長く長く蔦がのびており、天井や床を伝ってさっき俺たちが連れてこられた部屋や、各階層へのびているようだ…。

この場所からではそこまでしかわからない。


「これ以上近づくのもな…」

「う、うん…」


先ほど俺が抜け出すときに火属性が効かなかったのは策敵魔法で感じた様子だと、地属性とはいえおそらく草系の魔物ではない様子。

見た目草っぽいから燃えると思ったのに蔦燃えないで力ゆるまっただけだったしね。

慎重にいかないとと思う反面、若干気が急いてしまう。

今俺たちがこうやって見てる分には人間の被害はないが、いつ何があってもおかしくない。


「…せ、セランド…さっきから何かきこえない…?」

「えっ?」


集中しているつもりだったが、ティナさんの声に耳を澄ます。

すると、微かにだが何か聞こえる。


フロアのほうから聞こえる気がする…。俺はハッとする。

もしかして、嫌な感じもするけど、もしかすることもある。何をそんなに慎重になっているかというと、だ。


「…まさか、あの蔦の塊…」

「の中…誰か、いる…?」


もしかしたら、罠かも。

そう言い掛けたところで、俺の言葉を最後まで聞くことなく、ティナさんが駆け出していった。



「ッ!! ティナさんっ!!!」



各階層からあれほどの魔物を取ってきて、人間にいたっては魔力を吸って、それが枯渇寸前で消えたから新しいものを補充。

そのサイクルで動いているとして、こんな下の階層で、生きているのだ。知能がないわけない。

いつもはするりと居なくなる人間。それが自然と居なくなるわけでなく、自分の力で抜け出たのだ。

そうなれば…罠のひとつくらいあってもおかしくはない。


「何があるかわからないんだ!戻ってっ!!」

「だって!誰かいるんだとしたら、助けなきゃ!」

「……くそッ」


小さく舌打ちをすると、俺もティナさんを追いかけて走り出した。

ティナさんは早くも魔物のようなもの…もとい塊にたどり着いている。せめて俺がつくまで待つよう声をかけ、俺も続く。

そばに寄れば寄るほど、その塊の大きさに息を呑む。

子供である俺とティナさんが見上げても、頭頂部まで見えない。遠くから見た感じ頭頂部から蔦が伸びているだけのようだが…。


「でっけぇ…」

「しっ。ほら、やっぱりここから…ねえ!誰かいるの!?」

「ティナさん、あまり大きな声は駄目だ」

「だって…」


『……っく…』


「「!?」」


『…ぅ…っく…だれか、いるの…?』


塊の中から、女の子のようなか細い声が聞こえる。

しゃくりあげるように話す声に、ティナは表情を変え自分の拘束を解いたように蔦を引きちぎっていく。

何重も層のように重なる蔦を引き千切り、中心のほうへ行くほどクリアになる女の子の声。


「いま、今助けるからっ…!」

『うん…た…たすけて…』

「セランドも手伝って!」


ティナさんの強い声に俺もハッと手を出した。

蔦に触れた手がぴくっと震える。なんだろうこのひやっとした感覚。


…嫌な予感がする。


ティナさんの手が蔦の束を引き抜くと、そこには蔦ではない、人の素肌。


「!! 私の手につかまって!今出してあげる!」

『うん!ありがとう!』


ティナさんが手を伸ばすと、声の主はその手に応え強く握った。

更に蔦を分けるように強く押し、引っ張り出そうとしているティナさんに俺も加勢する。

ここまで来たら嫌な予感はちょっと置いておこう。今ティナさんを制止させるのは今後の為にもよくない。

引っ張るなら俺がやるからティナさんには出てきやすいように道を作ることに専念してほしいことを伝え、俺は両手で手を取る。


「もう少し…一気に広げるからセランドお願い!」

「うん!」


「「せい……のっ!」」


その掛け声で集まっていた蔦は大きく開き、中から先ほどまで肩ほどまでだった声の主がずるりと姿を出した。

大きなくりっとした瞳。声とあった幼い顔。


しかしその髪は、先ほどまでティナさんが引っ張ってちぎっていた、それだった。


「!!」

「…やっぱりアウラウネ…!?にしては大きい…ダンジョン級か…!」


『ふふっ…ありがとう!なんだかおなかが減ってるのにいっぱいにならなくて、助けてほしかったの』


「……あなた」

「くそっ…ティナさん早く離れ…!」


俺は咄嗟に両手を離したが、ティナさんはまだ塊のすぐ目の前にいる。

下手したら先ほどまでアウラウネがいた場所に引きずりこまれてしまう。急いでティナさんの肩をつかみ引き寄せた。

しかし、可愛い顔のわりに大きくギザギザな歯が並んだ口は、その間に「いただきまぁす」と動いていた。

噛みつかれる。それなら俺にとティナさんの体を抱き寄せる。がアウラウネの口は体に接触することなく、プッと何かを吐き出したのだ。


それはティナさんの右肩に当たると思うと、まるで銃器でもつかったように肩当を貫通し体内へめり込んでいった。


「いっっ…!」

「ティナさん!」

『あはははハはハ!!』

「ティナさん、こっち!」


ティナさんの肩を抱き、急いでその場を離れる。

痛みに顔を歪めながらも俺の足に合わせてフロアの入り口へ向かって走るティナさん。


『逃がサないンだからァ…!』


笑うような声がフロアに響く。

ティナさんの痛みに耐える声が、すぐ横で聞こえた。


フロアの入り口付近の壁側にティナさんを座らせ、俺たちを囲うようにバリアを張り巡らせる。

肩当を外してもらうと、多少の出血もあったがそれよりも肩へめり込むように入っていった何かからだろう、根のようなものが皮膚を這っていくように伸びている。

相当痛いようで瞳から涙が零れ落ちていく。


「ティナさん、自分に回復魔法、できる?」

「う、っん…か…風の、加護を…うぅ…っぐ」

「…無理そうか…状態完治癒(トータルヒール…だと傷口ふさがった後どうしたらいいのか…」


そもそも、どれくらい体内に埋め込まれてしまったのかもわからない。

とりあえず、止血ができるほどの回復魔法を肩に。浅くしていた呼吸も徐々に弱くなってきている。

親指の爪ほどの穴。それだけでも痛いはず。

回復の為触れている肩。いつもより効きが悪い気がするのはおそらくこの埋め込まれたやつも魔力を吸い取る類のものだからだろう。


「どうしよう…どうしよう…」


アウラウネの笑い声が近づいてくる。

振り向くと、奥にある球根のような大きな塊より手前に、奴の小さな体がフロアの中心部まで来ていた。

バリアを張っているから蔦はなんとかしのいでいるが、奴がちゃんとした形の攻撃を仕掛けてくるならきっともたない。

回復とバリアを両方…できなくはない。


「…継続回復(リキュア)…ティナさん、もう少し頑張って…!」

「う…うん…」


一度ティナさんと距離を置こう。奴を離さないと。ティナさん用にバリアは張っておく。…よし。

俺はアウラウネの方へ向きなおし、駆けだした。


アウラウネが放ってくる蔦や葉をかわし、すぐ近くを通って奥のほうへ走る。少しでも離れたところで相手をしないといけない。


『待っテよォ…くすくす』


アウラウネの足はまるで木の根元のようになっている。その為移動が遅いのだ。助かるんだけど、今は早くこっちに来てほしい。

木より土気が多いなら、打撃のほうが効くのかも。

クイーンの時にも使用したトールハンマーを具現化させる。


「…っ風刃撃(ウィンドショック)!」


大きく振りかぶり、地面に叩きつける。地面がめり込んだ衝撃と、空を切った風が真っ直ぐアウラウネへ向かっていく。

可愛い女の子のような声が響く。自分を覆って防ごうとしたようだが、二つの衝撃は防げなかったようだ。

数歩で近づき、今度は直接胴体…人型をしている腹部のあたりをめがけて打ち込む。

そのまま遠心力で回転し、続けて頭へ。堅いような、その割にめり込むような、妙な感覚だ。


『ギャゥア…っ!!』


頭部を殴った際に体勢が崩れるのを見て、俺は後方に飛び退いた。頭頂部に咲いている頭と同じくらいの大きさをした花が散っている。

少しはダメージがあるようで、両手で顔を多い、なかなか起き上がられずにふらふらとしている姿が。

しかし致命的なダメージではない。ハンマーを握る手がじんわりと汗ばんだ。


早く、早くなんとかしないと…。


流石に焦りがでる。

あのまま、蔦につるされていたらこんなことには、とか。

まだ魔力が無くなって緊急転送になってれば、とか。

ティナさんに申し訳なくて、考えてもうまくまとまらないのだ。

しかし変に考えすぎても、ティナさんの方で継続して使用している回復魔法やバリアが薄くなってしまう。


自分の呼吸が、荒く、浅くなる。


助けなければ。俺が、なんとかしないと…。

胸が熱くなる、同時に重く痛む。


「駄目だ、一人で、なんとかしないと」


自分に言い聞かせるように、つぶやく。

もう一度、とハンマーを握り直し、足に力を入れた。

が、何かにつまずくように俺は倒れこんだ。


「ぅぐっ…?!」


足、足に何か…。


「!!? くそっ…地面から…!」


奴の、アウラウネの蔦が地面の下をくぐってきたのだろう、俺の足先を絡み取っていた。

引き千切ろうと蔦をつかみ、その手に力を籠める。


『だァめよ…そんなコトしたらァ…痛くテ泣いちゃウ…』

「えっ」


さっきまで、10数メートルは離れていたはずなのに。

その声はすぐ後ろ。

冷たい息が喉を通った。

小さく、暫く聞いたことのない声音が聞こえた。



「……キール……っ…」




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