不穏の正体
引きずり込まれてから、やっとこの穴が縦穴ということに気づいた。
そしてその割に奥行きがあるから遠目からは先も見えない穴で、下方に広がる穴に引きずり込まれたから二人が消えたように見えたのだろう。
ちょっと考えたらわかることだった。初めてといえるパーティー参加で仮にもそのメンバーの危機に俺も動揺しまくりだったから…というのは言い訳、とキールはいうだろう。
「…にしても随分深くまで行くな…」
そう、結構下層まで伸びている、この縦穴。
引きずりこまれる形でなかったらラッキーなショートカットとして使用していたかもしれない。
なんてことを考えているが、他の特に女性陣は引きずり込まれた時からとても長い悲鳴が続いている。よく息が続くものだ。
同じくフィーも野太い叫び声が聞こえていたが途中で止まった。気絶でもしたのだろうか。
確かに急降下にも近いこれは間違えれば意識が飛ぶものだろう。俺は魔法でここまでの急降下ではないが飛び跳ねていることが多いから慣れているけど…。
意識飛ばないで悲鳴続いてる二人、そう考えるとすごいね。…と思った途端悲鳴が消える。
「岩窟ゾーンだっけか…天井がどれくらいかにもよるけど、数階層分は降りて行ってるよね…というか、またぞわぞわしてる」
腰のあたりからなにか抜けるような感覚と共に、背中がぞわぞわしている。
急降下によるものかなとは考えてみたけど初めて兎跳で飛んだ時の感覚とはまた違うな。
なかなか底が見えない穴。俺は脚をはじめ体全体に巻き付いている蔦の中もぞもぞと手を出し、下のほうへ手のひらを向ける。
そして一発火の玉を下のほうへ向けて撃った。炎に照らされ、魔晶石の光以上に明るく下のほうを照らしながら落ちていく。
というかあわよくば燃えないかなと思っていたけれど、この蔦燃えないものなのね。びっくりした。
すると火の玉がどこかに当たったように消えた音が聞こえた。
底が近いということかな。魔物の口内でないことを祈ろう。
視界でも底となる岩場を確認したところで蔦が横の穴から伸びているのを見つける。
「あそこか…うおっとぉ!」
底に足がつくかくらいの距離まで来ると急に横へ引っ張られる。足の先少しかすったけどいってぇ。
岩窟というわりに藻のような緑があちこちに見える。少しじめじめするようにも感じるが、そのせいだろうか。
横方向へ引っ張られてからそんなに経たずに、広めのフロアへ到着した。
高い天井、良く見てみると何人かの人影が見える。蔦によりぶら下がっている。結構数がいるようだが…。
「! ウィルさん、カインさん!!」
その中に見覚えのあるローブが垂れ下がっている。
俺自身も吊られるのだろう、上の方へ上がっていくと二人をしっかりと確認した。
俺に続いて他の四人も天井に吊るされる形で並べられる。
よくよく見てみると人間だけではなく、他の階層でみた魔物もぶら下がっているぞ。
今まで経過していたあの縦穴、各階にあったのかと思われるほどの種類だ。
体勢が体勢なもので頭に血がのぼって二人は朦朧としているようだ。早く下ろしてやらないと、他の人たちも。
しかしこんな体勢初めてなのだが、頭に血がのぼると皆顔が青ざめるものなのだろうか。
「……ん?」
視界の隅で動きがあった。
…というか、人がいなくなっている。
魔物に何かされた?にしては不思議な消え方だ。魔物がいるわけでもなく、蔦も捕まえる相手がいなくなって空をしばらくわさわさと動き、主のところに戻っていくのか天井のほうに引いて行った。
「…あぁ、入り口でもらったパスカードか!」
確か…迷宮に入って7日経過するか…魔力が枯渇するか…。
魔力が枯渇?
「!!」
また剣士であろう鎧をきた人が消えた。これは7日経ったから転送魔法が作動したわけではない!
吊るされた人を見ると魔術師や回復職だろう、ローブや軽装の人が多い。
「そういうことか…だとこの感覚は」
この蔦、魔力を吸い取ってるのか!
しかし転送魔法でギルドまで戻れるのはいいことだ。魔物に何かされる前に戻ってしまえば身の危険はそこまでではない。
でも少なからず魔力の量が多い人たちはもう手遅れの人もいるのだろう。
もしかして入り口の人のご武運をって最近こういう人が増えてるからってことだろうか…。
「いやいやいやそんなことばっか考えるな、今はこっち!」
頭をぶんぶんと振り、目の前のこの状況をどうにかするべく考えようか。
パーティーの皆は捕まってまだ時間がそんなに経過してない分まだ大丈夫…とは言い切れないけど。
枯渇したら枯渇下でギルドに戻れるから、あっちで魔力回復してもらえればすむ。
「しかし多分俺はしばらく戻れないぞぉ…」
苦笑いをこぼす。
魔力量500越えだもんね。ははっ。こんなことが仇となるとは。
「とりあえず、この拘束をなんとかしないと…!」
先ほど出した手のひらを蔦に這わせる。
初級魔法だから効かなかったのだろうか、確認。
「炎を纏えばいいんだろ…火炎武装化」
魔力が全身を包みこむ。途端に着火したように体の周りに炎のような膜が発生した。
しかし蔦が燃えることはなく。
嘘だろこれ一応中級魔法でも後半に覚えるやつだぞ…。
熱いのを我慢して暫く燃えていると、燃えずともさすがに蔦がゆるんだ。
「おっ今かな…兎翔!」
その勢いで蔦から抜け出る。出れたらあとはこっちのものだ。
うまく調節し難なく着地した俺は蔦の伸びるほうへいるはずの本体を目指し走りだした。
途端
「待って!私も一緒にいく!!」
この声はティナさんの声だ。しかも間違ってなければ上からでなく後ろから聞こえたぞ…
恐る恐る振り向いてみると、そこにはティナさんの姿。
目を疑った。俺結構苦戦したつもりでいたんだけど、ティナさんも自分の力で抜け出せたというのか
「ティナさん…どうやって…」
「えっセランドに教えてもらったやり方で手に力入れたら簡単に切れたんだけど…」
「……まじかぁ」
盲点だった。そっか、燃やすより引き千切るほうが簡単だったか。
…さすがミストニア学園に入学が決まっただけある、というほうが本人は喜ぶだろうか。
まだティナさん一人くらいなら、何かあってもフォローできるかな。
「…わかった。でも危険だと思ったら逃げてね。俺も逃げるから」
「!うんっ!!…あ、そういえばお兄ちゃんたちは」
「あの蔦魔力を吸ってるみたいなんだ、最悪枯渇すればギルド本部まで転送されるはずだから大丈夫。流石にこんなとこまで来て最下層までいくなんて言わないでしょ」
「そ、そうだよね…」
「別に降ろすくらいいいけど、一緒に向かわせるのはちょっとね。よし、行こう。終わらすなら早めだ」
上にいる他の皆を見た後に小さく頷くティナさん。
天井を覆うように這う蔦を辿り、俺たちは洞窟の奥へ向かった。
こんな状態だ、蔦の主以外の魔物はいないようだ。
まず道中の天井にもナイトバットやゴブリンがぶら下がっている。しかもダンジョンに吸収されず、干物のようになった状態のもいる。
横目に見て若干顔を引きつらせる俺とティナさん。仕方ない見慣れないんだもの。
しばらく走っていると、俺の索敵魔法になにか引っかかる。
速度を緩め、確認するとそこそこの大きさ…植物系かと思いきや土気も感じるんだけども。
「…こんなの、ガイドブックにあるわけないよね」
「…そう、だね…」
小さく苦笑する。敵はすぐそこだ。
通路の終わりに身をひそめ、大きなフロアの中を調べた。
そこにあったのは、大きな塊。




