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その者、”異端”につき。  作者: 月乃あかり
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不穏の種


本当に久々に出す、恐怖を含んだ声音。

つい、口に出た名の者を思いながら、俺は強く目を閉じた。

続いてくるはずの何かしらの衝撃を思い身構えていた俺だったが、その代わりに感じたものは…


冷たい水飛沫。


「っつめた…!」

『グギャアぁアあアア!!!』


いや、水飛沫どころか結構がっつり濡れたぞ。

想像もしない感覚に目を開けると、足に絡まった蔦は地面へつながる途中で切れていた。

そしてすぐ後ろにいた筈のアウラウネはなぜか前の方へ横たわっている。

俺を捕まえた蔦を切った上に、背中に飛沫を感じたということはおそらく地面下より水で持ち上げたのか?


しかしここにそれだけの勢いを出すほどの水場はないはず。


「ってことは…」

「…おまえ、こんなとこで何やってんだ」

「…キール!!!」


つい名前を呼んでしまったものの、本当に現れるとは思っていなかった。

どこぞの物語の展開かよとも思うが本当に来た。

それは颯爽と、というほどではなかったが。


「ったく…がっつりと目を離すとすぐ厄介ごとに首突っ込むんだから」

「好きで突っ込んでるわけではないんだけど…」


それでも、願ったものが来る。というものはとても嬉しいものだ。

ついついそれだけで涙腺が緩んでしまう。ばれないようにぐっと堪えるけれど。

少しぼやける視界。擦りたいところだが気づかれてはからかわれてしまうのでそのまま前を見直した。

アウラウネは結構な衝撃だったようでゆっくり起き上がっている。

ちらりとティナさんの方を確認する。俺の集中が途切れてしまったせいで張っていたバリアーがなくなっているのを確認する。

アウラウネが気づく前に行かないと…。


「キール、あそこにティナ…人がいるんだ」

「…オーケーじゃあ今の内にかな」


アウラウネの方を向いたままのキールがティナさんのいる方向を指さす。小さく息を吸って、指を曲げるとティナさんの体が横たわったまま宙に浮かんだ。

そしてゆっくりと手を上にあげ、頭上のあたりで小さくくるくると数回円を描くとティナさんの体がこちらに飛んできた。

…詠唱破棄な上、法名の詠み上げもなしか…とても力の差を感じる…。

ティナさんを俺の元へ運ぶと、キールはアウラウネの周りに水のバリアーを張って俺のところへ駆け寄る。


「この子、どうした?」

「アウラウネの種子かな…それが肩に…そしたら魔力吸われてこんなことに…」

「……。傷口は塞いでないな、継続の回復魔法かけてるのか」

「うん、どうしたらいいかわからなくて…種取り除いてからでないと傷塞いじゃだめかと…」

「恐らく対処はあってる。この子は俺のほうでなんとかするから、セランはアイツのことお願いできる?」

「…うん」


ティナさんを見て、俺は静かに頷く。

そう、キールにまかせればあとは大丈夫だ。俺はまずあいつを倒そう。


―…もうすこし、頑張ってね…。


浅く呼吸し、冷や汗が流れるティナさんの頬を撫でる。

自分の手と比べると随分血の気が引いてしまっているのが分かる。


アウラウネの方を見ると、キールが張った水のバリアーを破れずに四苦八苦しているようだ。


「本来のアウラウネとは違うみたいだな。どうする?」

「一応元が同じなら風の属性が相性いいとは思うんだけど…どうやらあいつ、人や魔獣の魔力と、あとここ数階の岩石とか魔鉱石を食べてるみたいなんだ」

「なんだそれ…随分頑丈な歯だな…パッと見可愛いのに」


アウラウネはパッと見草系統の魔物に見えるのだが、実はガッチガチな岩系統も入っている。なので実はさっきからズバズバ切ってる蔦もとても堅いのだ。

しかもただの岩石だけの摂取なら、普通のアウラウネと同じなのだが。

さっきキールにも言った通り、魔鉱石まで食べている。だから結構タフなのだ。

体力だけなら、このダンジョンの中で一番なのではないか。むしろこいつがダンジョンの主なのでは?なレベル。

恐らく違うとは思うのだけれど。


「セラン、風属性大丈夫?」

「一応…上級のチラッと読んだ程度…」


キールの雰囲気がピリっとするのを感じる。

…あぁ、これは帰ったらできるだけ叩き込まれるやつだわ…。


「き、切り刻むのがいいかな…ティナさん、…そこの女の子は引き千切ってたし」

「まじかよこの子すごいな」


苦笑しながら俺とティナさんを交互に見る。

とりあえず俺は地面に埋まる魔石を見つけると手を添え、具現化魔法で少し大きめの剣を取り出した。

魔石から作れば多少普通のとりは頑丈だろう。相手も魔石取り込んでるし。


「い、一応いつもやってる、風纏わせて斬る、じゃダメかな…」

「いつもやってんのかそれ。物騒な弟子だな…」

「これが一番物理的には手っ取り早いんだよ…これだと岩も切れるし、いけないかと」


二人で暫く沈黙。

まあ…


「ただ、普通のよりタフで大きいだけだ。頑張れ」


そうそう、キールがティナさんを見てくれている、それだけで集中はできる。

恐らくいい笑顔で言い放つキールを後方に、俺は先ほど作った剣を更に数本具現化させた。

いろいろ使えるように、10本ほどあればいいだろう。


流石にバリアーを抜け地面からやってくる蔦をサクサクと切って試しているが切れ味も申し分ない。

とりあえず5本を風魔法で浮かせ、くるくると操作してみている。


『ギュギギイイィィィイイィ!!!!』


浮かせた剣で先ほどのフロアへと続く蔦を切っていく。これ以上魔力を回復されても困る。タフな理由の一つでもあるだろう。

怒りの声が響く。


残りの5本も浮かせ、一本は自分で。

流石に量の為か動かすときに若干溜めが生じる時がある。初めての試みとはいえ、今後も使えそうなのでこれは訓練だな…。

自分の動きと同時進行で宙の10本にも気をやり、と徐々に体に動作を馴染ませながら足を進める。

奴はギイギイと叫びながらついに水のバリアーを突破し、蔦やそこらの岩やらを飛ばしてくるが、馴染ませ中の動作で対処できるレベルだ。ヨシヨシ。


『お腹…ヘッタのォ…』


アウラウネの本体は人型の方ではなく、巨大な球根のような蔦の塊の方、とよく言われている。

小型のアウラウネなんかは頭から花や球根がついているから、そこが弱点だとか。

恐らく奥の方にある、巨大な塊が恐らく本体だろう、と思ってはいるのだが…。


『貴方…オイしそうなのよオ…』


アウラウネが大きく片腕を振り上げる。

すると指先から裂けていくように蔦へと変わり、振り下ろすと同時に俺の方へ向かってきた。

宙で遊ばせている剣で難なく切り刻む。


『ンぎっ…!』


流石に自分の体から伸ばしたからか、悲痛の声。

怯んだところで切り刻んだ剣でそのまま肩の辺りへ落下するように勢いよく振り下ろす。

一本なら肩に引っかかる程度なものだが、流石に数本分。両腕が切り落とされた。


『ぐあぁあアアァァア!!!』


多少なりとも人型なものだから、俺の良心も痛むものがある。

両腕を無くした小柄な体はふらふらとしながらも、俺への怒りだけで踏ん張っている。


そこでふと、視界に違和感を感じた。


まるで布をこすり合わせるような甲高い声をあげ、自分の体より蔦を多量に吹き出し、俺をめがけて襲う。

自分の腕の代わりのように振り上げ、振り下ろし、左右へ振り払い。人型の体から発生させている。


そして、先ほどまでこれでもかというほどの存在感をだしていた大きな塊は、もうその場にはない。

俺の視界には、小柄なアウラウネの体のみ。

本体と思われていた、その塊が見当たらないのだ。


「めちゃくちゃ気が引ける…!」

『ウアァッ…!ぐゥ…!!』


アウラウネは体を屈めると、周りの地面から蔦だけでなく草木を発生させ、発見時のように塊を作ろうとしている。


「! させるか…アースクエイク!!」

『くっ…!!なンで…っ』


発生した草木の下から岩を隆起させ、発生したものも切っていく。

体の周りに囲むように剣が舞う。また囲みを作り溜めこまれる前にと全部の剣で奴を狙った。


『なんで…ジャマするのよォおお!!!』

「ッ?!」


泣きわめくような大声と共に、大きく膨れ上がる魔力。

共に髪の形状をしていた部分も膨れあがり、大量の蔦が俺を囲うように発生した。

アウラウネの大きな瞳がグラグラ揺れている。


『ごはんン……ナンで、ジャマするのよォオオお!!!』


「ぅおっ?!」


流石に量が多すぎて、しかも全部の剣はアウラウネの所。さばききれず、大量の蔦は俺の体に巻き付いていく。

俺自身数で攻めていた手前、同様で返されるとは思っていなかった。

魔力を纏った剣にも巻き付けば、そこからも俺の魔力を吸い取っていく。


「げ…まじかよ…!」

「セラン!大丈夫か!」


キールの声が聞こえる。

この量だ、俺だけではなくキールの方も狙ったようだ。しかし大半は俺の方、キールの方はなんとか抑えている。


「…くそッ…またこの感じ…!」


腕だけでなく体全体を締め付けられ、かつ魔力も吸われて、イライラするこの感覚。

地面に固定するようにビッチリと巻かれた俺の体。

地団駄を踏むように、魔力の吸収によりどこかモヤモヤとした魔力を足から流し出す。

それを追うように気持ち蔦が地面へ向かい、気持ちなのか体なのか少し軽くなったように感じた。


浅く息を吐く、そのまま兎跳(ラビットウィング)で勢いよく上へ飛ぶと俺の体を固定するように地面へ絡みついていた蔦が引っ張り出される。

地面に埋まっていた分もどんどんむき出しになり、本体へと続くとわかるともう一回。


すると本体も一緒に引っ張られ、上空へ。

流石に驚いたのか『ほぁっ?!』と声が聞こえた。

そこそこ高い天井まで飛び上がり、俺は体の向きを変え天井を蹴り今度は地面へ戻る。

引っ張られていたアウラウネもそれに続くが、受け身を取れるわけもなく、天井に衝突しめり込んだ後、今度は地面に叩き付けられた。

流石に硬さはあれど、突然の衝撃によるダメージはあるようで。

少し怯めばと思ってやったことだが、相当のダメージを食らった様だ。

起きようとしているようだが、よろよろと立てない様子。その間に体中に巻き付いた蔦は切り離していく。


本来本体だ弱点だと言われているものが見えない今、本体と思われるのは人型の方。

どこを狙えば、と構える。

俺の魔力を吸収していた分、回復する前になんとかしないと。


宙を舞っていた剣をアウラウネの四肢へ固定するように突き立てる。

どこか幼女のような雰囲気を残した魔物の叫び声が響く。


実は先ほど、髪ごと膨れ上がった時見えたものがあった。

唸り声を上げるアウラウネへ近づく。四肢を固定され痛みから逃れようともがいている。

さっきまで俺が持っていた剣は魔力を吸収された時に咄嗟に消してしまったので、宙に浮いていた残りの剣を手に取り、アウラウネの頭に向ける。


痛みに歪む大きな瞳。

それと、同じほどの大きさの、魔石が髪で隠れた前頭部にあった。


「……魔石……」


それは、どことなく見たことのある色をしている。

小さな魔石自体は見たことあるのだが、手のひら程の大きさ以上の物は階層主とかゴブリンキング並の魔物でないとそう出ないらしい。

だからよくわからないのだが。


そう、みたことの、ある…


「ッ! …ふっ!」


ハッとする。目の前に敵がいるのにぼんやりしてしまった。

手に持った剣を魔石に沿わせ、勢いよく叩き割った。


『ッガ…あ、アァ……』


「……………ごめんね」


大きく揺らぐ目。

その瞳の光が静かに陰った。





キールの元へ戻ると、ティナさんの方に埋め込まれていた種子は取り除かれ、すっかり傷口も塞がっていた。

血色もよくなっている。俺は安堵の息を吐いた。


「よかった…」

「種さえ取り除けばあとは安心だ。最も、本体はもう排除されたから吸われることもないだろうけど」

「うん……」

「……それは?」


キールが俺の手に持つ魔石に気づく。

普通なら、アウラウネレベルの魔物には魔石なんて生み出せるはずはないのだ。

恐らくだが、本来なら本体といわれる草木の塊の方で地面等から吸収し生んだ魔力を人型のほうに流している筈のアウラウネだが、人型のほうに魔石があったから本来と逆のつくりだったのだろう。

きっと今までも蔦から逃れた人はいたはず。その人たちはそれに気付かず、やられてしまっていたのだろう…。

塊があったところ周辺に見える朽ちた骨はそれを物語っているようだ。


「…そういえば、キールどうやってここに」

「ん?俺の用事は済んだから連絡しようと思ったんだけど、魔道石が反応しなくてさ。おかしいなと思って受付近くに行ってみたら、セファイトさんだったかな…兄妹の人がいて、その人達にここのことを聞いてね」

「多分ティナさんの家族の人だ…ヴァイトさん?」

「そうそう。それで最近強制転送者が多くておかしいんだって受付の人に聞いたのと、お願いされてね」


確かに、この状態では滅多に来ないレベルの冒険者が来たらお願いしないといけないな。

しかし通信用の魔道石…と俺についたブレスレットを見る。確かに作動しない。もしかして最初の縦穴の時にこの石自体の魔力を吸われてしまったのだろうか。今までまず起こり得ない事だったから抜けていた。

まあ…助かったのだし良かったのだが。


「てことはティナさんのパーティーは大体上に戻ってる?」

「恐らくね。一応でさっきのフロアの人たちのことは受付の人に伝えておいたし、そのうち救助も来るでしょ」

「そっか…よかった…」


そういえば、実際ここって何階層なのだろう。

随分縦穴で下層に降りてきたとは思ったが。


「ん?確か…38階層だったかな…」

「えっ…」

「でもこの階層への入り口がなくてね。縦穴見つけて降りてきたんだぞ」


もしかしなくても、なかなかな下層だった様だ…。じゃあ魔鉱石も多量にあるわな…。

それにしても、パーティー組みながら18階層まで行ったのを、軽々一人で下層までくるのかこの人…。

逆に一人だから魔物をある程度無視してすいすい来たのだろうか。


よく聞いてみるとこのダンジョンの最下層は40階ならしく、一度そこまで行ったが人は居らず、戻っていく途中で縦穴を見つけたらしい。

恐らくここでないどこかに本来のダンジョンのフロアが他にあるのだろう。

あのアウラウネがあの縦穴と共にこのフロアを作り上げたのか…。


砕けた破片の魔石を見つめる。


「魔鉱石たくさん食べたからできた…て訳でもなさそうだな、それ」

「うん…」

「それギルドに預けるだろ?解析してもらおうな」

「……うん…」


それ、と呼ばれたものを俺は握りなおす。

未だに謎に包まれた、魔石。


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