下層を目指して
道中ただ黙って進むのもつまらないと思ったのか、ヴァイトさんから更に詳しく紹介が続いていた。
どうやらこのパーティーはみんな同じ村の出身らしい。
先に一番年上のヴァイトさんが学校卒業後村をでて冒険者に。暫くしてレベル30、ランクCまであがった頃に両親が経営していた牧場に家畜を狙った魔物が入り込んできたらしく、そのまま世話をしていた親は襲われ他界してしまったと連絡が。
それで妹のシーダさんとティナさんをつれて村を出ることに。そのとき似たような理由で数年前に親を亡くしたガーライン兄弟も引き抜き、家を継ぎたくないと村を出ようとしていたロフィーもつれて、俺とキールのように各地を転々としていたとのことだ。
そして各自の適正審査のときに一番魔力値の高く回復の適正もあるティナさんを回復職につかせ、同じく魔力値が高いが回復適正の低いカイルさんが魔術師職へついたようだ。
今日ここにきたのは俺と同じくミストラル学園への入学が決まったティナさんのお祝いのための資金繰りらしい。
いつもは難なく15階層まで降りていってるため、そこそこの魔物素材が手に入る。んで今回は折角だしもう少し下層まで、そして何か新しい情報でも入れれば報酬金も出る。
確かに制服やらの初期費用だけで俺でもちょっと高いなと思うほどの金額だ。村の出身というだけあって少しは補助金が出るとしても辛いものがあるだろう。
一度来たことのある人との同行というのは思ったより楽なものだった。
順調に下層へ向かい、あっという間に15階層を通り16階層へ。
「さすがに先に行っている冒険者が居るからかすんなりですね…」
「あぁ、いつもこんな感じでな。直行で降りてくれさえすればあっという間だ」
「時間帯にもよるけど、大体敵の数も多くないしね」
「たしかに…」
念のため策敵魔法をかけながら歩いているが、数はそんなに居ない。
このパーティーなら難なく倒せるだろう。
それにしても…
「ティナさんって魔法の素質もあるけど、おそらく前衛職向きですよね」
「えっ!どうしてわかるの?すごい!」
そういいながら肩のあたりをバシバシと叩く。地味に痛い。
こういう一発一発が結構ダメージくらう…身をもってうけていればわかりやすい。
単純に力が強いのもあるし、魔力の流れがよく手元のほうにいってるのを感じる。だからか手元から発生させる魔法はとてもスムーズに発動できるのに発散・分散させる魔法は発動まで時間がかかるようだ。
村で牧場を営んでいたってくらいだから手作業が多かったからなのだろうか。…まだその手の素質云々の性質って解明されていないんだよね。
ということを説明すると「ほぁ…」と妙な声が口から漏れた。
「そうなの…魔力を手先に集めるのは得意なんだけど、どうもそこからこう、ボワッとさせるのが苦手で」
「その杖は魔力増加の付与でもついてるの?」
ティナさんは腕の長さほどの小ぶりな杖を腰から下げている。
いたってシンプルな棒の先に小さく魔石がくくりつけられていおり、逆の棒先は細くとがっており、あまり固くない魔物であれば刺し殺せそうだ。おそらくその目的なのだろうが。
「一応微量だけど、杖があるほうが狙いを定めやすいから…」
「素手では難しいですか?」
「こう…両手を前にだせばそんなに難しくはないかな。そういえばセランドは何ももってないね」
「それにめちゃくちゃ軽装だしね」
シーダが話しに入ってくる。
聞くとティナさんがパーティー以外の人と盛り上がっているのが珍しいとの事だ。
まあ確かに。回復職であるティナでさえ胸当てや四肢当てをつけているのに対し、おれは服のみ。
まさか俺なかなかの紙防御なのでは…
「あ、この先にナイトゴブリンとナイトバットが二匹ずつ居ます。…あとティナさん」
「ん?」
「もしよかったら…」
少し歩くと道幅の倍ぐらいの小さなフロア。そこにゴブリンと、そのゴブリンが降るバットにじゃれるように飛び跳ねている蝙蝠型の魔物。
この二種は闇属性。レベルにもよるが、状態異常や耐性低下の魔法を使うときがあるのだ。
先制で攻撃をかけようと詠唱を開始しているカイルを守るように前衛が前に立つのを確認すると
「支援します!…聖霊の加護盾…相手の状態異常魔法や低下魔法を防ぎます。なにかあれば後方から回復・支援をします」
「おう!」
「…炎で包み焼き払え……炎の壁!」
カイルが言い放つと、ゴブリンたちの立つ地面から炎が湧き出す。
焼き焦げるにおいがする。魔物たちは攻撃先を探しきょろきょろと周りを見渡し、俺たちを見つけるとにやりと笑み、低いうなり声を上げかかってきた。
それに前衛であるヴァイトさんとシーダさんを先頭に剣士組が迎え撃つ。
「はあぁっ!」
「グギャアッ」
ゴブリンはひるみ、一度距離をとろうと下がっていく。
代わりにナイトバットが飛んで攻撃として超音波を浴びせてきた。びりびりと感じるものはあるが、状態異常は防がれるため聴覚異常もパニック症状もでない。
フィーの振りかぶった剣は二匹のうち一匹を叩き落とし、そのまま消失していった。
しかしウィルの振りかぶった剣はもう一匹に当たることなくすり抜け、後方の俺たちのほうへ飛んで向かってくる。
ウィルのしまったというか悔しそうな叫び声がフロアに響く。他のフロアから敵が流れてきたらどうするんだこの馬鹿め。
こっちにむかってはくるも別に支障はない。むしろ…
「ティアさん、さっき話したのやってごらんよ」
「えっ…う、うん!…我が体に宿りし風の精霊よ、我が手に集いて嵐となり、彼の者に裁きを与えん…旋風烈撃!」
そう放ち、向かい来るバットに直接拳を向ける。
バットは超音波が効かないことに対し今度は噛み付こうと大きく口をあけその拳に向かってくる。
だが、その拳をかむ前に、ティナの拳の周りに纏う風の塊によって細かく千切られるように消失した。
「おぉ…!なかなかな威力…!」
「魔法を相手に向けて飛ばすより、自身の体にかけて攻撃したほうがティアさんにはあってるよ。魔力を体内に溜め留める方が上手だし」
「回復待ちで敵に襲われたら今度こうすればいいんだね!」
「多分ティナさんならこの魔法くらい簡易詠唱レベルにできると思うよ」
「本当?…がんばる!」
そんな会話をしているうちに、前方の剣士陣がゴブリンを倒したらしい。
魔物の素材を早めに集めると、魔物の死骸はダンジョンの地面に溶けるように消えていった。
相変わらずこの場面は見慣れない…ダンジョン内で息絶えた魔物はダンジョンに吸収され、おそらく再構築されある程度の時間が経過すると再生するように他の場所へ出現されるのだ。
「あ、もうすぐ下層への通路です。案外あっという間でしたね」
「セランドが居るおかげだぜ、俺らだけじゃこんなすんなりできないもんな」
「早く誰かが策敵魔法覚えてくれるといいんだけどね…なかなかコツがつかめないみたいで」
そう話しながらお粗末にも階段といえない通路をくだりながら前方を歩くヴァイトさんとシーダさん、続いて聞こえる会話が遠まわしに教えてほしいみたいに聞こえるのだが…。
カイルさんの歩幅も俺とあわせるように少し早さを抑えている様子も見られる。
俺としては別にカイルさんやティナさんにだったら教えてもかまわないけど…
じゃあまた今度時間があるときにでも…と苦笑気味に返事を返す。後方からの二人組みの目線もちょっと痛いからね。
以前16階層へ行こうと足を踏み入れたときは、ナイトバットの数が多く先ほどのようにすり抜けて後方へ攻撃をしかけてしまうために早めに撤退したらしい。
今までの下層への通路にしては、少し長い気がするのは気のせいだろうか。
その件でシーダさんに話かけようとすると、出口らしきところから光が見えた。…光?
「わ…すごい」
先に通路から出たシーダさんから声がもれる。
俺も続いて通路からでると、そこに広がるのは森林。
岩ばかりに囲まれた場所でなく、森林に地面は草で多い茂ってるところもあり、明るいのもあってまるで外にいるみたいだ。
上を見上げると、水晶のようなものが埋め込まれた岩がたくさんあり、そこから光が発せられており外にいるように明るくなっている。
「地下迷宮のガイドにもあったんだが、これほどとは…」
ヴァイトさんが地下迷宮のガイドブック…受付隣にあった本をめくって確認している。
どうやら壁に埋め込まれた魔水晶が結構なお金になるらしい。しかし壁からとるのも一苦労なため、ここの魔物がドロップするのを拾う形になるみたいだが。
…ここの階層の魔物、魔水晶とか食べるのかよ…。
「…索敵魔法…どうやら思った以上に広いですね…先ほどまでのと違って通路やフロアといったのがない分、魔物も各々で散らばってます。周囲に注意しながら進みましょう」
「おう…。戦闘中に他の魔物と遭遇とかシャレにならないもんな…」
皆静かに頷く。
ガイドブックによるとここは森林ゾーンなだけあってかウルフ種や大木の形をしたトレント種も多く出現するらしい。
あとは主に魔石を落とすといわれている大きい亀のアーストータス、そのまんまだけど岩石の魔物…アースロックかな。
森林ゾーンが20階層まであって、それ以降が魔石を含んだ岩窟ゾーンになってるらしく、魔石を落とす奴はそこにも出現するとのこと。
腹が減ったらここのウルフ種を狩って、消える前にパパッと解体すれば食べれるんだってガイドブックには書いてあるけど、正直ここのは食べたくないなあ…。
索敵魔法をかけながら慎重に歩いていると、それに水属性のものが引っかかる。
長く続いているのを考えると…川に近い水場なようだ。
「この先少し行くと川があるみたいです。少し休憩しますか?」
「本当か、助かるな…じゃあそこまで言ったら一時休憩しよう」
確かに、合流したのが10階層だとして、そこからここが17階層。結構歩きっぱなしだったしな。
恐らくこのダンジョンに入ってから二時間以上は経過しているはず。
男性陣はともかく、女性陣…主にティナさんが少し疲れが見えている。
確かにティナさんは回復魔法のほかに俺が教えた攻撃方法で自分を狙う魔物を倒していたし、疲れるはずだ…教えたのが俺の手前申し訳ない。
川辺につくと俺は周囲に魔物の気配を感じないことを確認し、皆は手頃な岩に腰を下ろした。
ヴァイトさんはこの川の水が飲めるか確認に行き、シーダさんや剣士組は軽装を少し脱いで体を楽にしている。
カイルさんティナさんは自分達が楽な体勢で魔力を回復してるようで、俺は二人のところへ。
「あ、セランド~そっちは大丈夫?私たち体力なくてもうへとへとなんだ~」
「ちょうど休憩になってほんと助かった…」
「…もしよかったら、これ飲む?」
そういって俺が渡したのは10階層でも登場した、ピンク色をした自己治癒を高める薬…と言って皆に渡した小瓶。
いいの?と言うような目で俺を見上げるティナさん。俺より身長あるけど、今は座ってるから上目づかい。可愛いひとだな。
「うん。さっきも言ったけど、自己治癒能力を強化するから…」
「そんな貴重な薬もらっていいの?さっきも人数分貰っちゃったし…」
「大丈夫、たくさん作ってあるし…あとこれ簡単に作れるから」
その言葉を聞いてカイルが驚いた顔で俺を二度見する。
「その薬、君が作ったやつなのか?!セランド君は調合もできるのかい?」
「い、いえ…簡単なものくらいならですけど…あ、ちなみにこれは薬草とよく市場にも売ってるコロロの実の果汁、ローズの粉末…これは薬屋で素材として売ってますね。それを合わせるとできます。良ければ調合の仕方も教えましょうか?」
「助かる!何から何までありがたい!」
「コロロの実ってよく血行促進!みたいに言っておじさんとか年配の人がよく買ってるやつ?」
「そうだよ。魔力も血液と一緒に体内を巡ってるからね、実は結構魔力の流れと血液の流れって仕組みが似てるんだよ」
「それで血行が良くなると魔力の流れも良くなるみたいな?」
「そこは良く分からないけど…でも実際使ってみてどう?」
「うん、効果はとてもわかる…」
「ならいいんだけど」
カイルは小瓶の中を飲み干すと、腰から下げたカバンの中から紙と筆記用具を出し早くもメモをとっている。
俺とティナさんはそんなカイルさんを見て顔を見合わせてつい笑ってしまっていた。
一応この薬?はキールと考えて、商人ギルドの方に回復薬レシピとして申請中だ。
回復薬は大事だよね。ちなみにマジックバッグの中に通常の・中級・上級とあと状態異常にも効くやつと各50本近くずつストックをしている。
ヴァイトさんからの呼び出しがあるまで、カイルさんに普通の回復薬から中級の回復薬までの作り方を教えていた。




