その者、パーテイーに入る。
実のところ、全快させたこの人達6人でクイーン一匹位なら大丈夫かと思ったんだ。
俺の誤算といえば、怒りで興奮し攻撃力が倍加しているキメラアントクイーンが思ったより早くきていたこと。このフロアに来る前に残りの5人を全快できなかったこと。
思ったより時間がかかってしまった。
よし、反省終わり。
「危ないわよ!」
「せめて俺たちを回復してからにしてくれ!俺たちも戦う!!」
後ろから声が聞こえる。
もともとはその予定だったんだよ、魔力が枯渇しそうなカインさんを含めた移動にそんなに時間がかかると思わなかったんだ。
普段キールとしか組まないから、その分の経験不足からきたもの。
「反省終わりにしたはずだって…の!」
兎翔で前方にかけて跳び、顔を出したキメラアントクイーンの方へ駆けていく。
そして進みながら右手に魔力を溜め、具現化魔法で槍を作りクイーンの頭の首であろう部分へ一発打ち込んだ。
「ぐっ…かったぁ」
しかし槍の半分くらい刺さった。俺は一度飛び退き、クイーンの前へ着地。
もともとこいつら堅めの魔物なんだよな。しかも殻は魔法に強いし。小さいとなぎ倒せるんだろうけど。
刺さった槍はまだ消えない。
「具現化魔法…トールアクスかな…っと」
今度は自分の身長よりある大きい斧。
クイーンは自分に攻撃を与えるものを標的にする習性が…怒り状態だから違うかも。
とりあえず後ろのパーティーのところに行かなければいいか。
トールアクスを振り上げジャンプして頭を切りつける。振り上げておきながらだけど横から切った上遠心力で空中で一回転してさらに上からも降りおろす。
頭殻に亀裂が入り、中の身っぽいのが見えた。
クイーンからの攻撃で俺の着地と同時に、残った左脚で横方向に切り掛かる。怒り状態なのに頭回るね。
しかし鎌のような形状をした左脚は、低く宙を切る音を立てて空振ることになった。
着地はしたがまた同時には魔法発動させたからね、俺は地面にはいない。
「キメラアントって焼けるとめっちゃ焦げ臭いんだよね…まあいっか」
眉間にしわを寄せ考えるが、キメラアントの焦げた匂いはちょっと独特で他の敵はあまり寄ってこなかったはず。たぶん。
「放雷流」
「グギイイイイイィィィイイィ!!!!??」
首であろう場所にささった先ほど刺した槍に触れ、雷の魔法をそこから流すように打ち込む。
頭殻につくった十字の傷から抜けようと熱が集まるが、そこから解放されることなく亀裂から中身が焦げていく匂いがあふれ出てくる。
あの6人までは届かないだろうが、上にいた俺の鼻には直撃。思った以上に臭かった。
「えっ…無理無理駄目駄目!!」
すぐその場から少し離れ、手を振りかざしクイーンの周りに壁を発生させる。
ちょっと離れたはずなのにまだ鼻につく焼き焦げた匂いに俺はもう片方の手で鼻をふさいだ。
四方八方にクイーンを囲った壁。ちょっと囲うのにコツがいる、面倒だからあまりこの魔法好きじゃないんだよなあ、なんて思っても使うよ。
「うぅ…闇への誘い」
言い放ちながら手をきゅっと握る。その瞬間、クイーンを囲っていた壁が黒い光を発しながら一瞬で集束しその場から消え去った。
名残の小さな黒い光がふわふわと数個その場を漂っている。
匂いのもとを絶ったがさっきまでの匂いは消せない。俺はそのばからそそくさと移動し6人パーティーのもとへ戻ることに。
6人はぽかんとした表情で立ち尽くしていた。
「……おまえ、何者だ…」
「……何者といわれても…」
悪魔でも見るような、そんな目で恐る恐る話す剣士。
よく見たことのある目だ。
一応手を出したことへの責任は最後までもとうと回復しに来たのだが、俺自身が引かれてしまっては仕方がない。
近づく足を遅める。
しかしその中俺に駆け寄る声が聞こえた。
「凄い!私達が大変だったのにあっという間だったね!」
「えっ…えと、ひ…引かないの?」
「引かないよ!あなた凄いね、私にかけてくれた魔法も、あの回復薬も…助かりました、ありがとう!」
そういいながら俺の元へきたのはティアだ。俺の前までくると両手をつかむ。
そして興奮しながらぶんぶんと上下に振ってくる。すごい笑顔で。あとちょっと痛い。
「ここまで一人で来るくらいだもの、強いと思ってたけどあの大きいのによくむかっていけたね、私より小さいのに、ほんっとーにすごい!!」
「あ、あり、ありがとう…あと、いた、い」
「えっ、あっごめんなさい…!」
これまた勢いよく振りおろしながら手を離される。関節が小さく音を立てる音が聞こえたんだけど。めっちゃ痛い。
小さく「私興奮すると力の加減わからなくなっちゃって」と呟いている。魔物かよ、と突っ込みたかったけど剣士の視線に言葉を飲み込んだ。
他のメンバーは少しヨロヨロとしながらも呆けるように立っているまま。
俺はそれに気づくと、一歩だけ近づき
「もし、そちらが気にしなければ…回復魔法かける予定でしたが…ちなみに帰還予定でしたか?」
「え、あぁティアの負傷で帰還を考えてはいたが…ティアが回復と支援魔法を使えるほど回復しているのであれば、できたらもう少し下の階層まで行こうかと思っている」
「…そうですか」
「回復魔法…先ほどの素振りだと、全体魔法でもかけてくれる気でいたのか?」
「ええまあ、一応は」
剣士は「それはすまなかった」と謝罪の言葉をもらうが、その後ろにまだ若干身構えたままのフィーとウィルが見える。
そんなすぐに受け入れられるとは思っていないが、敵意とまでは行かないけれど近いものを向けられた人にまで回復を行うのは若干気が乗らない。
ティナさんは剣士と姉であるシーダさんを俺のほうへ連れてきて、どうかお願いしますと深く頭を下げた。
そんなティナさんの態度に変に応えるわけもいかない。
「…はぁ。…彼の者、癒しを求める者に安息を。生命の息吹」
俺の周りに手のひらほどのサイズの小さな光が無数に発生する。
手を振ると、四人のもとへ流れるように飛んでいき、そのあたりを明るく照らす。
この回復魔法を受けるの初めてなのだろう、体中の痛みや不調なものがじわじわと抜けていくのを感じて体のあちこちを確認するかのように動かしながら驚きの声を出している。
その光が発生したら、一定時間は消えないで回復し続ける。その間に、と再びマジックバッグよりティナさんに渡したのと同じ小瓶を渡していく。
「よかったらこれを。自己治癒能力を強化する薬です。カインさんは確実に全部飲んでください、魔力の回復が早まります」
「あ、あぁ…ありがとう」
仕方がないことだが、渡してすぐに飲まなかったフィーとウィルだが、カインさんが早くも口をつけたところ魔力の活性化を感じたのか声を漏らしたのを聞いて、続いて飲み始めた。
みんなが飲み終えたころ、ちょうどよく光も消えていた。
おそらく生命の息吹の効果により、ほとんどの不調・異常がきえたのだろう、剣士はとても生き生きとした表情でお礼の言葉を発した。
そして今まで口を閉じていた魔術師のカインが続いた。
「…この魔法、一応回復魔法一覧で見たことがあります。…完全治癒魔法ですよね」
「はい、よくご存知ですね。貴方も回復魔法を?」
「一応属性回復の基礎魔法は…勉強はしたのですが、あいにく回復とは相性があまりよくないみたいで」
ははは…と乾いた笑いを浮かべるカインさん。
向き不向きってある、わかる。と意味をこめて俺は深く何回も頷いて返すと、今度は優しい表情で笑った。
そんな俺とカインさんを見ながら何かはなしあっている剣士とシーダさん。
お互い見合って頷くと、シーダさんがおずおずと近寄ってきた。
回復のお礼を言われ、なにか言いづらそうに言葉が詰まったように間があったあと、
「キミも、この先に行くんだよね…?私達いつもなら15階層くらいまで行ってるんだけど、今日はもうちょっと先まで行こうと思っていたの。
それでよかったらなんだけど…途中までご一緒してくれないかな?」
後ろで二人の剣士が驚いた顔してるけど、仲間さんとお話しなくてよろしいのかな。
シーダさんの後ろでピョコンと顔を出しているティナさんは少し嬉しそうな表情をしている。俺と話していたカインさんも「俺からもよろしく頼みたい」と向けられ、俺は小さく笑った。
「いいですよ。俺もできるだけ下層に行きたかったことですし!」
「!ありがとう!!」
ぱっと咲くように笑顔を浮かべるシーダさん。後ろでティナさんも喜んでいる。
すると剣士の人が改めて、と手を差し出した。
「俺はヴァイト=セファイト、こっちは妹のシーダとティナ。この魔術師はカイル=ガーライン、あっちの剣士二人組の…俺達はウィルとフィーって呼んでいる、ガイウェルクの弟。もう一人はロフィー=セドルグ」
「あ…お、おれはセ…セランド=ツヴァイク。一応魔術師です。今回師匠ときたんですが、用事を終わらす間にちょっと地下迷宮に潜って来いって」
「セランドね、よろしく。なんともスパルタなお師匠さんね…まああれだけ強ければ仕方ないか」
「見た感じティナと同じくらいの年齢か?ティナはちょうど今年からミストニアへの入学が決まっていてな!凄いだろ!」
「えっ」
ティナさん俺より頭一個分くらい大きいのに、もしかして年下か同い年?
うっそ…
ちなみに歳は、と聞いたら11歳。これで10歳とか聞いたらとてもへこんでいただろう。
俺はとりあえず偽名で自己紹介を行う。大体キールの家名を使わせてもらうんだが。
入学するとなれば、妹さんの方にはいずれ本名バレそうだけれど。
「じ、実は俺も、ミストニアに…」
「えっホント?!じゃあはじめてのお友達だね!入学したらまたよろしく!」
「う、うん…よろしく」
そうして自己紹介を終えた俺達は、下層へと歩き出した。




