あるパーティーとの出会い
階段をおりるとすぐ分かれ道。片方はすぐ近くに大きめのフロアがあるのか、冒険者の戦ってますよ!な掛け声が聞こえてくる。
声のしないほうを選びながら進んでいく。
だいたいの迷宮のつくりからしたら、階層ごとで似たような魔物のレベルでまとまっている筈だからランクの低い冒険者は1~3階を周回していることが多い。
索敵魔法を使いながら下への階段を探してどんどん降りていく。
下に行けば行くほど、辺りは静かになっていくようだ。
と思ったら10階層までが初心者向け、と言われているだけあってか、10階層には一階層と同じくらい人がいた。
でも戦い方が慣れてきているからか、人数のわりに静かだ。聞こえて指示とか陣形とか詠唱くらい。
「さてさっさと下に行くか…索敵魔法っと」
何気にここまでサクサクと降りてきたからか、まだ30分くらいしかかかっていない。
順調に降りているところいうのもなんだが、地下迷宮の進み方ってこれであってるのかな。
みんなの目的とは…レベル上げもありそうだけど、さっき聞いた情報のためなのか、ここあるのかわからないけど迷宮ならではの宝的なものがあるのか…そもそも攻略って、最下層までいくとなにかあるの?
「修行ってわりに迷宮は魔法の実践にしか使ってなかったからなぁ…今更聞くのも…って俺迷宮初心者だから聞いても恥ではないんじゃないか?今度聞いてみよう…」
そうブツブツつぶやいていると大きめのフロアに出る。
このフロアから道が数本続いているようだ。索敵魔法の通りでは…とその通りに進もうとすると、進行方向から何かくる。
人間っぽいのが6人…パーティーだろうか。何かから逃げるようにこちらへ向かって走ってくる。
「もう少しで階層の入り口だ!」
「ティナ頑張って!!」
剣士のような装備をした男の人と、もう少し軽装の女の人…がその人より一回り位小さい女の子を担いでフロアへ入ってきた。
後ろでは敵が追ってきているのかそれの攻撃をしのいでいるのと、それを後ろで支援する魔術師らしい人。
担いだ女の子の両下肢、腹部には血が滲んでいる。女の人は担いでる手と逆に負傷している子のであろう装備を抱えており走りずらそうだ。
ようやく全員フロアに入ってきたのを確認する。と通路に感じる魔物の気配。
「キメラアントクイーンか! 10階層の割りに大きいなアイツ!」
通路といえ、高さはゆうに2メートルはある。それいっぱいに壁に擦れながら進行してくるクイーン。
支援の結果なのか、主に攻撃を仕掛ける前脚2本の内右脚がもげたようになくなっている。
しかし追うように入ってきた3人も結構なダメージと疲労を感じる…魔術師の方魔力大分消耗してないか?
「ウィル!フィー!カインの魔力がそろそろやばいわ、アイツがひっかかってる間に交換しましょう!」
女の人が叫ぶ。近接用の装備だけど交換ってことは魔法が使えるのだろうか。
様子を見ながらゆっくり俺も歩いている。このフロア本当広いけど何かあるのでは、ときょろきょろ見渡すが何もない様だ。
ようやく負傷者を担ぐ片方の剣士がこちらに気づいた様子だ。
「君!!こちらは危ないぞ!クイーンが迫ってきている!!」
「誰かいるの…あっ、あなた逃げなさい!!アイツ、巣を壊されて興奮してるからやばいのよ!」
俺に気づいて声をかけてきた。
話を聞くと、このフロアの先からそれたところにあるキメラアントの巣をおそらく少し前に通った冒険者が壊してしまったらしく、ちょうど続いて通りかかったこのパーティーに狙いをつけて襲ってきたらしい。
その時にキメラアントの相手をしていたら、クイーンまで現れてこの始末なのだと。
春先にキメラアントクイーンは排卵を終えて動き出すからなぁ…起きてきて巣が壊されてたらそりゃ怒るわ…。
まあ害虫だから駆除してなんぼなんだろうけど。こいつら魔法攻撃の耐性そこそこあるしね。
逃げろと言われてもなお進む俺に2人…3人か。が駆け寄ると、早口で話しかける。
「興奮状態の奴らの攻撃力はとても強いんだ!おかげでこの子…ティナがこの状態で…回復と支援が主だから体制がとれなくなって…」
「そうなんですか…巣を壊すには時期が悪かったですし、本当にタイミングが悪かったとしか…」
「えぇ…前の冒険者はおそらく卵を狙ってほとんど壊していってしまったみたいなの…」
「うわぁ…」
クイーンが起きてくるタイミングで孵化前の卵の一掃はダメでしょ…。
前に通った冒険者の配慮…いや他の冒険者のことは考えないんだろうけどさ…。
「あ、あなた…いきなりで悪いんだけど治癒魔法使えたり…しないわよね…」
「何言ってるんだシーダ、彼の装備は見るからに魔術師だろう!治癒が使えたとしてもこの傷は…!」
「師匠ほどではないですけど、一応使えますよ。その方…ティナさんでしたっけ…こちらに」
俺が手を差し出し受け取ろうとすると剣士は一緒に担ごうとするが、二人じゃ動きずらいんだよ。
「これくらいの方でしたら一人で大丈夫です。それより後方の方も早くこちらへのほうへ。クイーンがまだ通路に引っかかってる間に!」
「まだこっちまで来ないの?というかこの子あなたより身長あるのよ大丈夫?」
「はい今のスピードだともう少し時間がかかるはずです。ここで待機するよりまず合流したほうが得策かと」
「…わかった。ティナをお願い!ウィル、フィー!ひとまずこっちへ合流しましょう!」
シーダと呼ばれた女性は3人のもとへ走っていく。カインと呼ばれた魔術師が疲労でふらふらなのだ。
結構声をかけているのを見るとリーダーなのだろうか…。にしてもこの子思ったより軽いな。
俺より少し大きいほどの彼女を右肩で支えるように担いだ状態で壁側へ連れていく。出来るだけ移動に衝撃を与えないようにしているつもりだが、両下肢のダメージが強いのだろう、苦痛の声が漏れている。
「ティナさん、気を確かに。頑張ってください。もう少ししたら休めますから」
「う…ぐぅ…」
壁側へ着くともたれ掛からせるように地面へおろす。足に力を入れないぶんか少し呼吸は落ち着いたようだ。
一度水泡を傷口であろうところへかけ、傷口の状態を見る。
おそらくキメラアントの小さいのに齧られたのだろう…肉をえぐりとったような状態の傷跡が両脚に4か所ずつ。
腹部は主な攻撃方法である前脚でザックリと。まだ内臓までいってないがダメージはでかい。
「こんな若い女の子にも容赦ない…酷いなぁ。…状態完治癒」
「ふぅっ…ぅ…ぁ…?」
両手を重ねて出た光。その両手を広げて範囲を大きくし、ティナさん全体を光が覆うようにする。
すると血の気を失い苦痛で歪んでいた顔が徐々に緩くなっていく。じわじわと血が滲んできていた傷もふさがってきた。
キールだともう少し早くいろいろできるんだけどね。俺水属性ではないしそこは勘弁してくれ。
傷が大体ふさがってきたところで左手でその光を維持し、右手でマジックバッグを探る。
取り出したのは普通なら回復薬である緑色のした液体が入っている小瓶。しかし中身はピンク色の違うもの。
「ティナさん、自分でこれ飲めます?飲めそうなら、せめて半分は飲んで下さい」
「…は、い…っ」
緊張が解れたのか、脱力した手で小瓶を受け取る。一口一口ゆっくりと口に含んでいく。
半分ほどなくなってくると血の気の引いていた顔が若干紅潮がみられてきた。
残り少なくなった中身を一気に流し込む。すっかり表情はハッキリしている。
「ティナ!どう、だいじょう…」
「お姉ちゃん!ごめんなさい今回復するね!」
「あ、あなた…傷は?そんなに急に動いて大丈夫なの?」
「ど…どういうことだ…」
ようやく4人が俺とティナさんのところへ到着する。
先ほどまでの状態と全然違うから4人は顔を見合わせ驚いているのだが、ティナさんは自分の役目だからと皆に回復魔法をかけようと詠唱中。
一番驚いていたのはシーダさん。お姉さんだった…そういえば似ているような…。
「この子、キメラアントに囲まれてしまって、両脚を深く齧られて…倒れ掛かったところに腹部に攻撃を受けたのよ…通路にもこの子の血があんなに滴って…えっ」
あたかも死人が蘇ったようなレベルの驚きぶりだ。
とても驚いているところ悪いが、実際あれほどの傷だったらもう少しレベルの高い治癒師なら簡単に治せる範囲だぞ。
本格的に治癒魔法を職にしている人だと無くなった…は盛り過ぎだな、分断された腕でもくっつけて完治させてしまう人もいるくらいだ。
「…風の加護を持ちて…癒しの手より力を授け…風を…」
…長いな…あとこの詠唱はたしか癒しの風…風属性の初期の回復魔法だ。
魔力をねり始めたところ申し訳ないが、一時中断させてもらおう。
「ティナさんごめん。その癒しの風あと5節くらいあるよね、それでどれくらいの範囲かわからないけど、そうしてるうちにクイーンが見えてくるから」
「えっ!あ…詠唱…」
「おい何やってるんだ、詠唱の邪魔しちゃだめじゃないか!彼女はまだ回復役になって日が浅いんだ!」
詠唱を塞いだ俺にウィルかフィーが掴み掛ってくる。
その彼女を回復したのは俺なんだけど…。
すると俺をつかんだ男の手を剣士が止め制止する。
「そんな深手を負ったティナを、俺たちがここに来るまでの時間でここまで完治させた恩人だぞ、やめろフィー!」
「ぐっ…」
「お兄ちゃん…」
「…そうこうしている間に来ましたよ、クイーン」
「「えっ?!!」」
本当は完全にフロアに来る前にやってしまおうと思ったんだけど…。
全員回復させてこの人たちに半分頑張ってもらおうとか、考えたんだけどな…。
はあ、とため息を一つ吐く。
今までの苦戦を思い出し体を強張らせるティナさんたちをその場に、俺は駆け出した。




