その者、試験開始
それにしても流石大首都の学校である。
門をくぐったあたりから思ってはいたが、なかなか広い校内に俺は驚いていた。
学校は外から横目程度にはみたことはあれど、中になんて入ったことがない。
しかも自分には縁がないものだと思っていたから、こんなにじっくり見たこともない。
アリーナを探すべく校内地図を見ていたのだが、なかなかにわくわくしている自分がいる。
そしてそんな俺を見ながらニマニマと気味の悪い笑みをしているキールがいる。
キールの方に目をやると、気づかれてないとでも思っているのかふいとそらされた。
いや…ばっちり視界に入ってるからね?
「アリーナ、こっちみたい」
「おう、楽しみだな!」
「試験を楽しみって、周りの人見てみなよ」
俺の言葉に周りを見るキール。
同様にアリーナへ向かう他の受験者たち…俺と同じくらいの身長をした子供に、多分親だろうな。
魔法の試験とはいえ、実技だけでなくしっかり筆記もある。
やれ魔法の歴史だとか、仕組みとかなんだろうけれど。
なかには寸前まで頭に叩き込もうと、子供隣で歴史の年表のようなものをずっと呟いている母親であろう姿もある。
子供もとても緊張しているのか、ノートを見ながら歩いている。
あれで頭に入るのだろうか…。
「試験中ってキールとか、付き添いの人はどうするのかな」
「さぁ…周りでうちの子がんばれ!超がんばれ!…って応援でもするのでは」
「それじゃ周りも集中出来ないでしょ…」
紙に書いていないのか確認はしてるのだが、見た限り書かれていない。
そんな話をしていると、アリーナの入り口に到着。
入り口の両側には案内の人が立っており、受験番号を確認し、プレートを配っているようだった。
俺とキールも続いてプレートを一枚渡される。
アリーナに入ると、そこには筆記試験用であろう長テーブルと椅子がずらりと並んでいる。
なかなか広いためか、圧巻である。
アリーナを囲むように座席があり、そこに保護者が座るようだ。
「がんばれ」と俺の背中をポンとたたくと、キールは座席のある二階へ続く階段を上がって行った。
「…ちょっと、緊張してきた」
応援なんてされたら緊張する。
急に体が強張ってきたのを感じながら、自分の受験番号が書かれた席を探した。
長テーブルの端と端を使い二人で使用するようだが、この数をみるとざっとみて200人以上は受けるようだ。
自分の受験番号をみて思ってはいた、162番だからね。
ようやく自分の番号の書かれた席を見つける。
鞄をおろし、筆記用具を出そうとすると、
「なにその小汚い鞄、庶民が何をしに来たの?」
女の子の声が聞こえた。
流石王都の学校の受験者なだけあって、貴族が多いようだ。
しかし差別的な発言はどうなのだろうか。
「ねえ、聞いているの?」
庶民なんて言われたらふさぎ込むに決まっている。
受験資格に貴族しか受験できないとは書いていない。魔法の素質があれば試験を受ける資格はあるのだから。
「そこのあなた!返事しなさいよ!」
「へっ」
急に肩のあたりを掴まれる。
突然のことに掴まれた方に顔を向けると、そこには女の子の姿。
続いて聞こえる声に、先ほどまで聞こえていた声の主だと気づく。
座っている俺を文字通り見下すように見、怒りに満ちた視線をむける。
「さっきから私が話しかけてるのよ?無視とはいい度胸じゃない」
「はぁ…それは気づかなくてすみません」
「すみません?申し訳ございませんの間違いでしょう、この庶民!」
「はぁ…」
よほど無視がこたえたのか、顔を真っ赤にして瞳は若干潤んでいる。
発言も発言だったためか、周りの目がこちらに向いていて恥ずかしかったのだろう。
「で、なんて?」
「えっ…」
「俺になんでしょう?わざわざ話しかけてきたのだから理由があるんですよね?」
「理由…」
「まさか、貴族であろうお方が庶民の鞄を小馬鹿にするためだけに話しかけわけではないでしょう」
まだ肩に置かれた手が震えてきている。
と思うと、震えに自分で気づいたのか手を放し腕を組み、俺を再度にらみつけた。
「ふん」と顔を背けると自分の席へ戻り、勢いよく腰を下ろす。
おそらくだが、緊張しているのを紛らわそうとしての行動だろうな。
自分の方が優れている、だから大丈夫と思う為の虚勢の為、大人でもよく見られるが、子供でこれはどんな親なのだろうか…。
小さくため息をはくと、ざわつく中にコツコツと靴を鳴らす音が聞こえる。
ふと前をみると、テーブルの群の先に見える壇上に、一人の女の人が立つ。
それに気づいたものから徐々に静かになり、すこし時間がかかるがアリーナ内は更に緊張に包まれた。
「今日は、王都ミストニア学園の入学試験にお越しくださり、誠にありがとうございます。
未来有望な方々がこのように大勢集まって下さり、大変恐縮でございます…では今から入学試験を開始させていただきます。
本日、総合試験管を務めさせて頂きます、ソフィア・フロリーナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
静かなアリーナに響く、澄んだ声。しかし流石に緊張しているのか、言葉の橋端にそれは見える。
挨拶が終わると、各テーブルに冊子のようなものが配られる。
よく見ると筆記の問題用紙のようだ。思ったより量があるのに俺は息をのんだ。
「………大丈夫かな…」
一応軽く勉強はしては来たが、きちんとした座学なんてマーク先生に教わったのが最初で最後だ。
ひたすら図書館で頭に叩き込んではきたが、実は不安でしかない。
俺のつぶやきが聞こえていたようで、隣…先程の女の子から鋭い視線を感じた。
「では、時間は一時間とします。くれぐれも書き終わっても勝手に動いたりはしないよう。
もし何かあれば、お手数ですが静かに手を上げていただけると近くのものが伺います。
では…――はじめ!」
そして、入学試験が始まった。




