第8話 月下の弓矢
〔紅の騎士〕が赤いオーガと対峙していた頃、俺たちはゴブリンやホブゴブリンをあらかた倒し終え、新たな戦場へ向かおうとしていた。
ーーーだが、やつらは俺たちの前に唐突に現れた。
「おうおう、Eランクでもホブゴブリンくらいは倒せるようだな。」
「殺りがいがあるじゃねぇか。」
「あるじゃねぇか、殺りがいが。」
〔月下の弓矢〕だ。
ステータスを見る限り、他のCランクよりも強い。レイヴンさんには到底及ばないが、〔英傑の集い〕のパーティーメンバーと同じくらいの実力がある。
「どうかされましたか、月下の弓矢の皆さん?」
「ちょっと野暮用でな。そこの女を奴隷商にでも売ろうかと思ってよ。まあ、売る前に、少し楽しませてもらうけどよ!レイヴンのやつらがいたから、今までは手が出せなかったが……ようやく、俺らにも月が回ってきたってわけだ。」
下卑た笑みを浮かべながら、リーダーのトーマスがこちらへ歩み寄ってくる。
「半殺しにしてギルドに突き出すか……それとも、依頼中に死んだことにするか……。レイヴンさんの顔に泥を塗るような真似はしたくないんだがな。」
「お引き取りにならないようね、やってしまうしかないようね。」
エリシアの顔は、笑っているようで──まったく笑っていなかった。
……やばい。こいつら、本当に死ぬぞ。
俺は心の中でご冥福を祈りつつ、トーマスへと意識を戻す。
「女のほうは生かしておくんだぞ、ギギ……ググッ……!」
「女ぁッ!死ぬなよ!」
「死ぬなよ、女ぁッ!」
『火魔法――烈火の長槍・創成』
『再現リバイバルーー水星の小剣水星の小剣』
火魔法で長槍を生成し、右手に構える。左手には小型の短剣を逆手で持ち、相手の攻撃に備えた。
エリシアも、身の丈を超える戦鎚を両手で構え、臨戦態勢に入る。
「来いよ、クソ野郎ども」
「死に急ぎがぁ!」
トーマスの大剣と、俺の長槍と短剣がぶつかり合い、戦いが始まった。
トーマスは、さすが、Bランクに近い実力を持つCランク冒険者と言ったところだ。
これまで戦ってきた魔物とは、まるで別次元の強さだった。
大剣の一撃、その隙を補うように繰り出される足技、さらには魔法まで駆使してくる。
――戦闘経験が違う。そう感じさせられる相手だった。
トーマスの大振りの一撃を、俺は短剣でなんとか受け流し、その隙を突こうと右手の長槍を突き出す──が、大剣を軸に身体をひねり、あっさりとかわされる。
それどころか、すぐさま魔法による反撃が飛んできた。
『土魔法ーー土塊の槍』
地面から勢いよく土の槍が伸び上がり、俺の足元を狙って突き上げてくる。
動きを封じるための一撃。
そのうえ、位置取りがいやらしい。
隙を見て仕掛けようとするたび、必ず大剣を彼我の間に差し込まれる。
攻めようにも、その大剣が邪魔で手を出せない。
正直、これまでの戦いでは、俺のスキルを持て余していた。 Eランクの依頼では、俺を本気にさせるような相手とは、出会えない。
だが、トーマスは違う。
有り余るステータス、過剰なスキル、それらを全力でぶつけられる相手だ。
もっと速く動ける。
今までは、戦いを楽しむために無意識に相手の速度に合わせ、力をセーブしていた。
今その枷を外す。
意識を切り替え、身体を高速で動かす。
アースランスを跳ぶように回避すると、間髪入れず、トーマスは再び詠唱。
『土魔法ーー土塊の槍』
立て続けに土の槍が足元を突き上げる。
足場を奪い、動きを封じようという作戦か。
しかし、俺はすべてを見切り、すべてを避けた。
そして――トーマスも、俺の動きを見て覚悟を決めたのか、大剣を構え直し、致命の一撃を狙って踏み込んでくる。
俺は低い姿勢をとり、その場で身体を回転させる。
今度は短剣ではなく、踵で大剣を弾いた。
想定外だったのだろう。
トーマスは驚愕の表情を浮かべながら、ギリギリとこちらを睨みつける。
土魔法を使われる前に、そして回避の余地すら与えぬよう、短剣が届く距離まで一気に詰め寄った。
逆手に握っていた短剣を順手に切り替え、狙うは首。
寸でのところでトーマスはバックステップ。
切っ先が喉元をかすめるにとどまる。
その反動を利用し、大剣を持ち直す。
構えを正眼に戻す――その寸前。
俺は右手の長槍を突き出し、トーマスの右肩を正確に狙って打ち込んだ。
『土魔法ーー大地爆発』
トーマスが焦りを見せた一瞬、自らを中心に大地を爆発させ、俺を強引に吹き飛ばす。
――轟音と土煙が戦場を包んだ。
「……あぶねえ。この魔法を使わされるとはな。レイヴンが言ってた通りだ。やりやがる。お前、本当にEランクかよ?」
「顔、引き攣ってるぞ、先輩。……手ェ出す相手、間違えたな。」
「クソが、本気で相手してやるよ。」




