表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/15

第9話 月下の弓矢②

エリシア、そっちは大丈夫か?

《大丈夫よ。こいつら、全然強くないもの。》

魔人錬成(サタン・サーヴァント)によって、可能となった念話で、俺たちは心の中で言葉を交わし、再び戦いへと身を投じる。


 エリシアの戦鎚を、ググが盾で受け止める。

その隙を突いて、ギギが短剣を振るい、じわじわと体力を削っていく。


そして最後に、ギギの斧で仕留める、双子ならではの見事な連携だった。

 だが、エリシアは一切本気を出していないのにもかかわらず、一度もギギの攻撃を受けていない。

余裕の笑みを浮かべながら、双子が想像もしなかった言葉を口にする。


「そろそろ、こちらはケリをつけましょうか。」

「防戦一方のくせに、何言ってんだよ。」

「何言ってんだよ、防戦一方のくせに。」

「そーりゃっ。」

掛け声からは想像できない凄まじい力が込められた一撃が、ギギの盾に叩きつけられた。


それまで様子を見ていたエリシアの強烈な一撃に、ギギは反応できない。

盾は吹き飛び、そのままバランスを崩す。

エリシアの相手ではなかった。

二人の連携の要は、ギギの盾。

その盾を砕かれた今、双子に勝ち目はない。


「こいつ、隠してやがった。」

「隠してやがった、こいつ。」

「生かしていたぶるのは、やめだ。」

「やめだ、生かしていたぶるのは。」

「「殺そう。」」

「私たち初めて意気投合したわね。でももうおしまいよ。」


『雷魔法ーー纏雷(てんらい)

纏雷――それは、自身の体に雷の負荷をかけることで、代償として【筋力】と【俊敏】を劇的に引き上げる雷の強化魔法。その効果により、もはやエリシアの視界にも映らぬほどの速さを得ていた。

青白い雷光が、エリシアの体を這うように走る。

空気がピリつき、焦げた匂いが漂う。地面の草が弾け、空間が歪む。


ゴオォォ……と低く鳴る雷鳴のような振動が、空気の奥底から響いた。

一歩踏み出すだけで、爆ぜるような火花が迸る。


「速すぎるぞ、ギギ……!」

「ググ、速すぎる……!」

双子は完全に翻弄されていた。

連携も、戦術も、力任せの速度と圧にねじ伏せられ、ただ無力に蹂躙されるばかり。


エリシアの戦闘スタイル。

それは、速さと力、そして卓越した戦闘センスをもって、相手の土俵ごと粉砕するものだった。

「遅い。」

エリシアが呟くと同時に、雷光が金槌を包む。

『雷魔法ーー雷鎚(らいづい)

雷を纏った金槌が、唸りを上げて振り下ろされる。


ドォンッ――!


眩しぎる稲光が、あたり一面を真昼のように照らし、一瞬で空気が焦げつく。地面が爆ぜ、木々が燃え上がる。


ギギの盾が砕け、ググの足が止まった。

双子の全ての動きが、雷に飲まれる。

轟音。

爆風。

雷の咆哮が、森中に響き渡った。

視界は真っ白になり、風が唸りをあげる。

残ったのは、焦げた大地と、微かに立ち昇る黒煙。


二人は、沈黙したまま動かない。

エリシアは戦鎚を肩に担ぎ、灰色の風の中にぽつりと呟いた。

「……少しやりすぎたわ。」

エリシアはふぅっと息をつき、肩に担いだ金槌から微かに揺れる雷を見下ろした。


「……やっぱり、やりすぎたか。お前だけでも、ギルドに引き渡せば十分だろう。」

エリシアの方を一瞥しながら、俺は呟く。


「ちっ、使えない奴らだ……。だが、こっちもそろそろ終わらせる頃合いだな。」

「ああ。そうだな。」

俺は静かにスキルを発動する。

【自動HP回復】

体内を熱が駆け巡る。トーマスの攻撃でできた傷が、みるみるうちに塞がっていく。

裂けた服の隙間から、再生していく肌が覗く。

「な、バカな……! 何をした……っ!」


俺は一歩、ゆっくりと踏み出す。

その足音に合わせるように、口元だけが笑っていた。

「……手を抜いてただけだ。」

「戦いには、まだ慣れてなくてな。ちょうどいい相手だったよ、お前は」

トーマスの顔から、余裕が完全に消える。

「おかげで、今なら“俺の最高”を出せそうだ。」

最後の一歩を踏み込み、目を射抜くように見据えて言った。


「――だから、お前が死ぬのは……ほんの一瞬だ。」

この戦いでは、あえて封じていた火魔法を、動きに体を慣らした今こそ解放する。

『火魔法ーーファイアアロー』

空気が揺れ、魔力で形作られた火の矢が宙を裂く。


「 大見得切った割に、随分と小物だ。こっちも本気だ!」

大剣の面をバットのようにして、俺の魔法を打ち返してきた。


凄まじいスピードで弾き返されたファイアローが迫ってくる。

水星の小剣に魔力を込める。水星の小剣は、魔力を通すことで刃を水が覆い、一回り大きな水の刃へと変化する。

正直、火魔法を得意とする俺にとっては扱いづらく、魔力の消費も激しい。


だからこそ、露店で安く手に入った代物だ。


水の刃でファイアローを迎え撃つ。ジュワーと音を立てて、ファイアアローは鎮火した。


再びファイアローを放つ。

今度は、大剣を軽く振ってファイアアローを弾き落とした。

その瞬間、彼の顔色が変わった。

「――っ!?」

ファイヤアローの陰に紛れ、俺が右手に持っていた烈火の長槍(ブレイズ・ランス)を、投槍の要領で放っていたのだ。


トーマスの大剣の魔法反射スキルは、確かに強力だ。

だが――あくまで“大剣”である。


動作は大振り。大技の魔法には有効でも、ファイアアローやファイアランスのような小さな魔法には対応しづらい。


最初のファイアアローを反射したのは、ブラフだ。

“魔法は効かない”と見せかけるための。


実際は逆。

小さい魔法ほど厄介。


大剣では弾きにくい。加えて、あの重量では回避も遅れる。


トーマスは慌てて身を捻り、間一髪で回避する。

その動揺を見逃すはずもない。


三度、ファイアアローを放つ。

同時に、トーマスの顔の前で重なるように、左手に持っていた水星の小剣を投擲した。


ファイアアローと水星の小剣が、動揺するトーマスの眼前で衝突する。

弾けた水は瞬時に蒸気へと変わり、白煙となって視界を覆った。


「くそッ、前が見えねえ!」


高速でトーマスの元へ接近する。


『土魔法ーー大地爆発アース・エクスプロージョン


そうだよなあ。視界を奪われたお前は、土魔法で全方位を制圧するしかない。


予想通りの選択だ。

地面が蠢く気配を感じた瞬間、俺はすでに空へ跳んでいた。


「レパートリーが少ないんじゃないか、先輩」


再現(リバイバル)――傑物の大斧』


空になった両手に、かつて奪い取った大斧を再現する。

重みが掌に宿ると同時に、俺は真上から急降下した。


落下の勢いをそのままに、刃を振り下ろす。


骨ごと断ち切る手応え。


トーマスの両手首が、遅れて宙を舞った。


「ぐあああぁぁ! ああ!! 手が!!」


消失(ロスト)


一瞬で、大剣がトーマスの手から消える。

俺の手の中へと、回収された。


絶叫は途中で途切れた。

あまりの痛みに、意識を手放したらしい。


「……終わったな」


戦いの気配が消えたのを見計らい、近づいてきたエリシアに呟く。


「退屈な相手だったね。さっさと行こう。“例の魔物”がいるよ」

「ああ」


意識を失っているトーマスを、念のため手足を縛って固定する。

二度と暴れられないよう、結び目はきつく、容赦なく。


「……これでよし。」

小さく息をついた俺たちは、再び森の奥――気配を感じる方角へと向かった。

空気がひんやりと重たくなり、ただの“討伐依頼”とは違うものが始まる気配を感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ