第10話 Bランク冒険者"轟脚"のレイヴン
俺は、自ら率いるパーティー《英傑の集い》で活動している。
メンバーは以下の五人。
シーフのゲイル、タンカーのダイナ、魔導士のリリーラ、ヒーラー兼バッファーのティナ。
全員が実力者であり、志も高い。
いつかSランクへと昇格し、自分たちのクランを持つことを目標に掲げている。
この世界において、Sランク冒険者は数えるほどしか存在しない。
拠点としている《オレンジの街》では、Bランクの俺たちが最高ランクである。
多くのSランクは王都や大都市に拠点を置き、クランを作り、国や貴族から直接依頼を受けるような存在だ。
俺たちもAランクに昇格した暁には、王都へ拠点を移すつもりでいる。
それまでは、ここオレンジの街で名実ともに最強の冒険者パーティーとして活動していく。冒険者は街の要だ。街が魔物に襲われた時、強い冒険者がいないと住民も街も終わりだ。
冒険者には崇高な志とそれに見合う強さが何よりも必要だ。
日々、ダンジョンに潜り、素材を集め、経験を積み、己を鍛え続ける。そして、英傑の集いの後釜になれるような冒険者を探して、育成する。俺たちがAランク冒険者としてこのオレンジの街を出た後も、大丈夫なように。
冒険者として前線に立つだけでなく、未来の“英傑”たちを育てる責任もまた、俺に課せられた役目だ。
そして今回。
【ゴブリン】【ホブゴブリン】【オーガ】が勢力を広げつつある魔物の集落討伐クエストにおいて、正式に指揮を任された。
参加するのは、以下の三つのパーティーだ。
《紅の騎士》:ベテランのマルコさんが率いる安定のCランクパーティー。
俺たちがまだ駆け出しだった頃から面倒を見てくれていて、今でも頭が上がらない存在だ。
《月下の弓矢》:実力は高いが協調性に難がある、一癖も二癖もある問題児集団のCランクパーティー。
何かとトラブルを起こす連中だが、実力は申し分ない。
《鐵》:近頃、名を上げ始めた新進気鋭の若手パーティー。
人数も二人と少ないが、見た所、相当の実力者たちだ。戦力としては一級品で、もしかしたら月下の弓矢や紅の騎士たちよりも個人の実力では強いかもしれない。
俺たち《英傑の集い》は、そんな彼らをまとめ、討伐作戦を成功へ導く役目を担う。
街を出発する際の顔合わせ。やはり、《月下の弓矢》は問題をしでかした。
だが、事前に釘も刺してあるし、大事には至らないだろう。
それに、あの二人が仮に襲われたとしても、返り討ちにされるのは《月下の弓矢》の方だ。
……まあ、もし彼らが勝手に自滅してくれるなら、それはそれで都合がいい。
冒険者ギルドの治安も、多少は良くなるだろうからな。
とはいえ、あいつらもCランクのパーティーだ。
“力量差”くらい、分からないはずはない。
分かっていないとすれば、それはただの愚か者たちだ。
──そんなこんなで、作戦は実行された。
開戦の合図となったのは、リリーラの放った火魔法。
鮮やかな炎が宙を裂き、ゴブリンの群れに轟音とともに突き刺さる。
ヒーラー兼バッファーのティナが即座に全員に支援魔法を展開し、回復の準備に入る。
タンカーのダイナが正面から敵を引きつけ、リリーラの広範囲魔法が密集地帯を一掃する。
すり抜けてきた個体は、シーフのゲイルが素早く処理する。
俺の役割は、強個体の殲滅。
【飛翔】で空へ舞い上がり、地上を見下ろす。
標的は、群れの中でもひときわ図体のデカいホブゴブリン。
爆発魔法を足にまとわせ、一気に急降下――。
戦場のゴブリンたちが大方片付いた頃。
マルコさんのパーティーのジンが血相を変えて駆け込んできた。
「大変です! 赤い……赤い特殊個体のオーガが現れました!このままじゃ、マルコさんが──!」
息を切らし、言葉に詰まりながらも、ジンは必死に叫んだ。
その顔には、明確な“恐怖”が刻まれていた。
まさか、そんなことが。
Dランクのクエストだからと油断していた。
頭数さえ揃えば、問題なく片付くはずだと。
浅はかな考えだった。
ここはオレンジ街周辺の森。
数ヶ月に一度、冒険者と騎士団合同の偵察が入る。
奴らはそれらを掻い潜ってきたか、
それとも異常なペースで集落を築いたのか。
どちらにせよ、異常個体がいてもおかしくない。
だが、今はそんなことを考えている暇はない。
マルコさんたちを今すぐ助けなければならない。
マルコさんとコールマンさんには、駆け出しの頃から言葉に尽くせぬほどお世話になっている。
こんなところで死なせたりはしない。
「東か?」
思わず声が荒くなる。
ジンは怯えたように頷いた。
その瞬間、俺は飛翔のスキルで高度を取り、爆発魔法を足に纏い、言葉通りの“爆速”でマルコさんの元へと飛び出した。
幸運なことに、俺が現場に到着した時、戦いはまだ終わっていなかった。
空気は震え、金属がぶつかり合う音と叫び声が響き渡る。
赤い特殊個体のオーガが、周囲のゴブリンたちを蹴散らしながら、荒れ狂っていた。
マルコさんたちは必死に食い下がっているが、その表情には焦りと疲労がにじんでいる。
この戦い、まだ終わらせるわけにはいかない。
俺はすぐに態勢を整え、爆発魔法を纏った足で宙を蹴って、戦場へ飛び込んだ。
「マルコさん!」
声を張り上げて駆け寄る。二人は重傷で、立っているのがやっとだった。血と汗で顔が汚れ、呼吸も荒い。
「レイヴンか」
マルコさんが弱々しくも力強く答える。
「マルコさん、しっかりしてください。あとは俺が」
その言葉に、マルコさんの瞳が一瞬、力強さを取り戻すのがはっきりと分かった。
「大きくなったものだな」
俺はマルコとコールマンを巻き込まないように、手早く安全な場所へと移動させる。
「あなたたちの背中を見てきましたから」
「…あとは頼んだ」
「はい」
すぐに戦場の方へ視線を戻した。
今すぐ助けなければ、彼らの命は危ない。だが、ティナがすぐに駆けつけるのは望めない。俺があいつらの元へ連れて行くしかない。
「お前を倒す。爆速でな」
右の利き足を少し浮かせ、足元に細かな爆発を連続して起こす。
「お前は強そうだな。俺をもっと楽しませてくれ」
狂気に染まった赤いオーガが大きく口を歪ませて飛びかかってきた。
『爆裂脚』――爆発魔法で爆速に加速した勢いをそのままに、オーガの顔面目掛け蹴りを叩き込む。
直撃と同時に放たれる『爆発魔法ーー爆光』。俺のオリジナル技だ。
オーガは吹っ飛ぶ。俺は攻撃をやめない。
『爆発魔法ーー大炎大爆布』
膝を曲げ、オーガに足裏を向け、焦点を合わせる。そして、足の裏から射出された炎のビームがオーガに炸裂する。着弾と同時に炎は眩いほどの光を放ち、爆発した。
レイヴンはオーガをこの程度の攻撃では倒しきれていないと知っていた。再び加速して、オーガを追いかける。先ほどよりも助走を取り、大技を繰り出す。
"轟脚"。レイヴンの代名詞とも言える爆発魔法と脚技の最大出力。
『爆光』の上位魔法である『爆陣百々』を着弾と同時に使用する大技。爆裂脚は、至近距離からでも使えるが、轟脚は十分な助走を取らないと使えない。
今度もオーガの顔面に炸裂するかと思ったその時、俺の轟脚に対抗して、オーガが拳に魔力を集める。そのまま蹴りと拳が交錯する。
大きな爆発音がなった。二人はそれなりの手傷を負うが、致命傷には至らない。二人の戦いは始まったばかりだった。




