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1話 到着、ソマリの街

 ハイベルの砦を出発して、約三日が経った。

 幻獣の移動速度は速かった。

 わたしの作った船よりも速く、空を駆け、それなのに乗っているわたしたちへの負荷は殆どなかった。

 こんなに速いなら、バチルダン小国へも幻獣でいけばよかったのにって聞いたら、一応こっそり偵察に行っている手前、幻獣なんて目立つもの連れていけない、だそうだ。

 あの船、目立ったんじゃないかなあ。

 良かったんだろうか。


「カナメ!見えてきたよ!アレがソマリの街だよ!」


 エリオルくんが、遠くにうっすら見える街を指さして、わたしを振り返った。

 遠目からでもわかる、外壁が外壁を取り囲むような複雑で広大な街が、その指の示す先にあった。


 ソマリの街。

 ミンスさんたち5人が拠点にしている街で、モルガディス王国の第二都市。

 ミンスさんとロンデさんが16歳のときに、商業ギルドを立ち上げて、何もなかったこの土地に作った町が、たった30年そこらでここまで大きくなったんだそう。

 びっくりしたけど、商業ギルドっていう物自体、ミンスさんが立ち上げて、それまで個々の国や街で完結していた物流を世界各国に繋げてしまったそうなので、この発展が頷ける。

 街が大きくなるに連れて、外壁を外に外にと囲っていったらしく、不思議な作りになったんだとか。

 街の成長が早くて、全体を整然と作り直すより、こっちのほうが手っ取り早かったらしい。

 王宮や軍部の中心が王都にあることを除けば、他の面では王都にも勝るとも劣らないとか。


「ミンスの旦那は作り直すのがめんどうだから、なんて言ってたけど、多分本当の理由は外敵からの防衛だよ」

「外敵、ですか?」

「そ、強国の街とはいえ、ポッとでの街が商業関係の権力握りだせば、よく思わないとこも多々あるっしょ。外壁で幾重にも囲むことで、中心部の防衛も兼ねてるんだよ」

「でも、国境での審査制度や砦もありますよね?」

「あれ自体、整備したのは旦那だから。あの街に入りたければ、従えってね」

「はぁー」


 思わず、感嘆と呆れが入り混じったようなため息をついてしまった。

 わたしから見たミンスさんは、人間に対しては性格捻くれてて腹黒ドS、にもかかわらず魔物は大の苦手で、スライムみたいな無害そうな魔物にも多分勝てない。

 高貴な位で五十近い年齢のくせして、負けず嫌いで大人気ない。

 歪で危うい気がして、この人が次期王様で大丈夫だろうかと思ったけど、なかなかに国を栄えさせるという手腕は優れているらしい。

 天は人に、才を与える。

 が、意外とバランスは取れているのかもしれない。

 うんうん。

 とか、一人失礼な納得をしながら、コソッとミンスさんの様子を窺う。

 うん、どうやらわたしのこの失礼な心の声は伝わってないみたい。

 この3日間で、マーレさんからミンスさんの『さとり』から思考を読まれなくするコツを教えてもらった。

 ミンスさんが本気で読もうとしてると無理らしいけど、ミンスさんの無意識下には引っかからないようにはなった。

 思考や気配のコントロールに当たるみたいで、熟練すると、感知系のスキルにも引っかかりにくくなるらしい。

 戦争が始まった場合、身を護るのに有効だからと、さとりを『解析』させてくれたのも大きい。

 こういうときはミンスさん、懐が深いなと思う。


「ロンデのおっさん!カナちゃんもこのまま上から中央に降りて大丈夫か!?」

「カナメは未登録だ!すまんが、入り口から頼む。俺たちはこのまま先に中央に行く!」

「りょーかい!そんじゃま、あとで!」


 街が近付いてきて、このまま中に入るんだろうか、すごく目立つなと思ってたら、ビートさんがロンデさんに何か確認した。

 どうやらわたしは別口みたい。

 わたしたち以外の四人は、そのまま城壁を超えて街の中心部に向かっていった。


「悪いね、カナちゃん。街の上空には魔除けと結界が張ってあるんで、通行許可された物以外通過できないようになってるんだ」

「こんなに高い城壁があるのに?」

「旦那は心配性でね。魔物はもちろん、人も、正規ルート以外からは絶対通さないんだ」

「それで、わたしたちは門から?」

「そーいうこと。あとでカナちゃんも登録してもらえると便利だけどね」

「あの長蛇の列の後ろに並ぶんですか?」


 正規ルートといえば、正門に連なる人の列だろう。

 さすが、商業に関しては随一の街。

 商人らしい大量の荷物を乗せた馬車や、冒険者ふうのグループ、旅人か観光客のような装いの人まで、長い列ができている。


「そっちでもいいけど、関係者専用の裏門もあるよ。どっちから入りたい?」

「うーん、せっかく初めての街なので、正面から入って異世界感を味わいたいところですね。けど、遅いって怒られませんか?」

「かもしれないけど、まあオレなんて遅刻の常習犯だから」


 ビートさんは軽く笑って、せっかくだから街を見ながら行こうか、って、正門の列に並んでくれた。

 マーナガルムの背中に乗って、最後尾に降りると、近くに居た冒険者たちに緊張が走った。


「え!?魔物!?」

「いや、人が乗ってるぞ!幻獣じゃないか?」

「シャドウウルフか?けど、ウルフ系の幻獣は空は飛べないだろ?」

「女の方は、変な格好してるし、ほんとに人間か?」


 ああ、ビートさんが、大丈夫大丈夫ー!なノリでこっちに降りたから、忘れてた。

 幻獣は、目立つ。

 わたしも、目立つ。

 一瞬にして、周囲の視線をわたしたちに釘付けにした。


「ああ、これ、オレの僕獣(ぼくじゅう)なんで、怖がんなくても大丈夫」


 ビートさんがひらひらと手を振って笑顔でフォローしてるけど、周りの人たちの視線は今だマーナガルムに注がれている。

 わたしたちの後ろには新たな列ができ始めてたけど“何故か”わたしたちとの間がゆうに2メートルは空いている。ほんと、何故か、ね。






 ヒソヒソ声と、突き刺さる視線に耐えながら、なんとか正門をくぐれたのは三十分後だった。

 途中で、騒ぎを聞きつけた門番の人が来てくれて、ビートさんを見るやいなや、裏からどうぞって言ってくれたのに『この街の大切なお客様が、是非とも正門から堂々と入りたいとおっしゃるので、気にしないで』とか言って追い返してしまった。

 確かに、確かに言った。

 でもこんなになるなら話は別だったのに!!

 わたしが居た堪れなさで小さくなってるのを横目に、ビートさんは逆に楽しそうに鼻歌を歌ってた。

 絶対わざとだ。許すまじ。

 あとで絶対仕返ししてやるー!



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