8話 御子、スキルを創造する
呪詛の『解析』をさせてもらってから、わたしは集中したいから、という理由で、砦内のわたしの部屋に居た。
ミンスさんと約束した正午まで、あと三時間ほど。
”できる”というイメージは持てたけど、実際にできるかどうかはやってみないとわからない。
「ほんで、かなちゃん、これから何すんの?」
さも当然のような顔をして、一緒に部屋に入ってきたビートさんが言った。
顔には”好奇心”って書いてある。
「そうですね。ちょっと、つくってみようかと、思うんですよ」
「つくるって、なにを?」
「この砦を元に戻せるようなスキルを」
ビートさんが固まる。
わたしも言ってて半信半疑だけど。
「んなことできるんだ」
「たぶん、ですけど。やったことないですし」
「かなちゃんのスキルって、『解析』、『分解』、『構築』の3つだったよね」
「そうですよ。3番目の『構築』で、新しいスキルを作れるんじゃないかと思ってるんですよ。『構築』スキルを『解析』したら、”万物の創造”が可能ってなってたので」
「前に船を作ったみたいに?」
「んー、少し違いますね。あのときは、エリオルくんに出してもらった材料からスキルを使って組み立てた、って感じですから」
そう、今までは主に『分解』と『構築』を使って元々あるものを作り直してた。
けど、今回の”スキルを創造する”というのは、そのままの意味で、わたしがほしい新しいスキルを創っちゃおう!ということなのである。
「今回は、”無”から”有”を生み出す感じですね」
「無から有を、ねえ。それだったら、死んだ兵士や壊れた砦なんかを、最初からさくっと創るんじゃだめなわけ?」
ビートさんの質問はもっともだ。
無から有を創れるなら、わざわざスキルを創る、なんて回りくどいことをせずに、最初からほしい結果を創ればいい。
けど、それにはおそらく欠点がある。
「それができれば確かに一番簡単なんですけど。ビートさん、わたしのスキルの条件って覚えてますか?」
「視認だろ?まあ、見えてなくても認識できてるって思えば、オッケーって言ってなかった?」
「そうです、もし死んだ兵士たちを”創る”場合、問題はそこなんですよね」
「そこって、どこ?」
「認識っていうのが、わたしがそれを”わかる”とか、”できる”って意識できるかどうか、にあると思うんです」
「つまり、カナちゃんの『構築』では死んだ兵士を創れるイメージが湧かないってこと?」
「正直、人や生き物を”創造する”事自体は、スキルの能力としては、可能だと思ってます。ただ、もしそれが出来たとして、創られたその兵士たちが、本当に”死んだ彼らである”というイメージはちょっと難しいです」
わたしは、ちょっと間をおいて、答えた。
「もしわたしがそれをした場合、この世界に、全く同じ人が二人、存在することも可能になる気がするんです」
「………外見も中身も、全く同じ人間を創り出せるってことか」
「そういうことです。例えば、ロンデさんを量産して、筋肉の壁を創ることも可能でしょうね」
「いや、そこ、ロンデのおっさんで例える必要あった?やめて!たくましい胸筋が列をなして迫ってくるのを想像しちゃった!」
うんうん、安定のノリの良さ。
ビートさんは難しい顔して目を瞑って、うーんとか唸ってる。
胸筋に挟まれてるのでも想像してるんだろうか。
「……マーレの姐さんだったら悪くないかも」
「…ビートさん」
ドン引きですよ。
半眼になって見つめると、冗談だよーって、手をプラプラ振られるけど、絶対本気だったろお前…。
でも、マーレさんの量産か。
…マーレさん自身じゃなく、あの豊満な2つの膨らみを、わたしに『構築』で…。
「カナちゃん、何考えたのか何となく分かるけど、カナちゃんの慎ましさも、オニーサンはいいと思うよ」
慎ましさとか言うなし!
「まあ、なんか脱線しましたけど、そんな感じなんで。そんなわたしが、『死んじゃったなら、また創ればいいじゃない!』って創った人が、その人だって思えます?」
少なくとも、わたしは思えない。
だって、怪我をしちゃったから、新しく自分を創り直して、怪我をする前の全く同じ自分ができたから、怪我をした方はもういらないって、なかったことになんてならない。それとおんなじだと思うから。
「まあ、そうね。カナちゃんの気持ちもわかるよ。ただ、同じであれば、それでもいいって奴は、たくさんいると思うけどね」
「それは、…わたしも否定しませんが」
「死んだ奴をどんな形でも生き返らせたいと思うやつや、自分のスペアがほしいと思うやつ、有能なやつを量産して、兵士として使おうとするやつ。カナちゃんのスキルは、そういう奴らが喉から手が出るほどほしい能力だと思うよ」
いつもおちゃらけたビートさんの目が、真剣味を帯びてて、ゾクッと背中に冷たいものが走る。
「そんな顔しなさんなって。不用意に人を信じすぎて、何でも話しすぎるんじゃないよ、って話だからさ。特にオニーサンなんて、信用に欠片も値しないっしょ」
ワシャワシャ頭を撫でられる。
この人、ほんとに人の頭をよく触るな。
こちとら思春期真っ只中の元女子高生だぞ!
…信用は、実は結構してるけど。
言わないけどね。
「カナちゃんが、人そのものを創りたくないのはよくわかったよ。カナちゃんのスキルに、カナちゃんの意識が強く関わってるんなら、人間量産なんて無理だろうし」
「わたしもそう思います。それで、死んだ人を”創造する”んじゃなく、彼らを蘇生するようなスキルを創ろうと思って」
「なるほど、それでさっき、イスズの”生前”について確認してたのか」
「うん、この世界で可能な範囲であれば、わたしにもできると意識しやすいし。この世界で蘇生された場合、別人になるわけでもなさそうでしたから」
さあて、そうは言ったものの、まずスキルをどうやって創ろうか。
視認条件に当てはまらないから、ちょっとやりにくい。
とりあえず、やってみてから考えよう。
「うーん」
「ううーーーーーーん」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「それがスキルを創るときの儀式?」
んなわけあるかい。
「違いますよ。何もないところで、なんか創ろうとしても、うまくいかなくて」
一時間くらい粘ってみたけど、スキルの”ス”の字も創れなかった。
「そうだねぇ。新しいスキルって言えばさ、昨日空飛んでたのはどうやってたの?『浮遊』や『飛行』のスキルを使ったわけじゃないんだろ?」
「昨日のあれは、わたしにかかる重力と逆方向の力を『構築』、相殺することで、落下を防いだんですよって、あっ」
そういえば、あれも”無”から”有”を創ってるってことになるんだろう。
何か目的があったほうがやりやすいのかも。
「ビートさん、『浮遊』と『飛行』のスキルってどんなのですか?」
「原理とかはわかんないよ?」
「スキルのイメージができれば大丈夫です」
「『浮遊』は、基本はその場に浮かんで、すごーくゆっくりであれば動くことも可能かな。『飛行』の方は、『浮遊』の上位スキルみたいなもんで、飛び回るくらいのことができるらしいよ。どっちもかなりレアなスキルで、魔力操作に長けてる必要があるって聞いたことがある」
「なるほど」
ビートさんの説明に頷いて、わたしは部屋についてる窓を見つめた。
確固たる”目的”があれば…。
「すみません、ちょっと行ってきますね」
そう言って立ち上がり、窓を開ける。
「行ってくるって、どこに。って、ここ三階 」
ビートさんが止めようとしてきたけど、思い立ったらすぐ行動!
できる!
と思ったこのイメージが消えないうちに、試してみよう。
駄目だったときのことは…考えないどこう。
窓枠に足をかけて、わたしは、空に飛び出した。
「っ!!何してんだ」
ビートさんが息を呑む声が、傍で聞こえた。
見ると、わたしが飛び出した直後に、ビートさんも窓から外に飛び出していた。
手を伸ばされて、抱き込まれる。
「ちょ!なんでビートさんまで一緒に出てくるんですか!何してんですか!馬鹿ですか!」
「その言葉そっくり返す!って、んなこと言ってる場合じゃ 」
そう、わたしたちは二人して落下していく真っ最中。
このまま行けば、地面と仲良くなれそうだ。
大丈夫。
できる!
出来なきゃ死ぬ!
「翔べ!」
地面にぶつかる直前、わたしは空を見つめて叫んだ。
あの雲に届くほど、高く、翔べ。
ザッと、風を切る音が聞こえる。
地面すれすれだったわたしたちは、一瞬にして、雲の合間まで浮上した。
「すっげ」
ビートさんが、わたしを抱えたまま、というか、今はしがみついたまま、呟いた。
大きな石造りの砦、串刺しにされたリノセロス、上半身が砕け散ったゴーレム、そして未だに地面に半身を埋めたまま、近づくものへ攻撃しようと足掻いている無数のアンデッド兵士。
それらは、はるか遠くに小さく見える。
「ははっ、カナちゃん。あんた、ほんとにすっげえのな!」
ビートさんが笑った。
いつものような、冷やかすような褒め方じゃなく、心底すごいと思ってくれてる。
ちょっと少年っぽい無邪気な笑顔だった。
いつもそんな風に笑ってればいいのに。
「これって、新しいスキル?『飛行』でここまですごいのは聞いたことがない。カナちゃん、なんか背中に羽が生えてるし」
ビートさんに聞かれて、自分の所有するスキルを『解析』してみる。
ひとつ、新しいスキルが増えていた。
飛翔
超高速で飛行が可能
ちゃんと出来てる。
わたしの背中に生えてる羽については特に何もなさそう。
わたしの空を飛ぶってイメージが、鳥だったのもあるんだろう。
そのまま形になったのかもしれない。
「ビートさん、やりましたよ。新しいスキルです」
タイムリミットまで、後一時間。




