6話 範囲呪詛
落雷が過ぎ去ったあと、雲は散り散りになって、消えていった。
東の地平線から、太陽が顔を出し始め、大地が照らされる。
落雷の衝撃で、あたりに立ち込めていた砂煙が、徐々に晴れていく。
露わになった地面には、下半身を囚われたゴーレムたちが雷槌に撃たれ、頭部からその体の中心まで見事に砕けていた。
範囲攻撃をしたせいで、出来るだけ傷つかないように、と思ってたアンデッド兵士がちょこっと楔に掠ったり、ちょこっと焦げたりしてる。
…すまんかった。
マーレさんが言ってた呪詛のせいか、すぐに修復してるみたいだけど。
マーレさんは、孔を塞いで、魔物と呪詛をどうにかして欲しいと言ってたけど、このアンデッド兵士たちはどうするんだろう。
私がこのまま呪詛を解いて、不死身ではなくなったアンデッド(すでに死んでるのに不死身って違和感があるけど)を、一人ずつ殺すのだろうか。
私のスキルで、生き返らせる?
確かに一度、自分自身をフルオートで『構築』したけれど、あれをここで再現できるだろうか。
そして、それができたとして、私が『解析』結果に基づいて『分解』と『構築』で創り直したこの人たちは、果たして本当に元のこの人たちなんだろうか。
体組成を理解して、パーツとして組み替えて、心臓を動かし、ハイ生き返りました。ちゃんちゃん。とは、ならない気がする。
なら今のわたしはどうなんだ、というのは今は置いとこう。
ビートさんの傷を直したときは、特にそんな深く気にすることもなかったんだけど。
うーん。
「カナメさん」
上空で、うんうん唸ってたら、砦の屋上にミンスさんたちが来ていて、名前を呼ばれた。
手招きされたから、とりあえず降りてみることにした。
この擬似無重力空間を完全には消してしまわないよう、重力の相殺を徐々に少なくし
「ってええぇええ!」
しまった。
ちょっと考え事をしてたせいか、加減を間違えて上空から投げだされた。
えーとえーと、痛みを『分解』したら痛くないかな。
って、それはわたしが、屋上の床にベチャって潰れたあとの話ー!!
ポスっ
衝撃が来るかと思ったら、軽い音がして、落下が止まった。
すと、と、床に足が着く音。
恐る恐る、目を開けると、近くにビートさんの顔がある。
ビートさんの顔の位置が近くて、ちょっと顔の筋肉が強張った。
「カナちゃん、なにやってんの。さっきまでカッコよかったのに、ちょいちょい残念だよね」
「スミマセンね、カナメの半分は残念でできてるんです」
ちょっと気恥ずかしいのもあって、お礼の代わりに、スネた態度を取ってしまった。
ビートさんは、何いってんの。って、笑ってくれた。
その笑顔がちょっと眩しい。
いや、眩しいのはきっと朝日だ、気の所為だ。
よくよくみたら、今回は荷物担ぎじゃなくて、お姫様抱っこされてることに、ドキドキしたとか断じてない。
「はい、カナメさん。百面相はそこまでにして、少しお話よろしいでしょうか」
パチン、叩かれた手の音に我に返り、にこにことこちらを見つめる『さとり』持ちに、別の意味で顔の筋肉がヒクついた。
しまった。
どこまで聞かれたのか、と、悔やまれながらも、心静かにと努める。
慌てれば慌てるほど筒抜けになる。
お姫様抱っこから降ろしてもらいながら、思わずジト目になってしまうと、ミンスさんがわたしの顔を見て、クスリと笑う。
「さて、穏やかに歓談したいところですが、まだ全て片付いてないので、本題に入りましょう」
「カナメのおかげで、とりあえず脅威は去ったと言っていいが、問題はアンデッドになった兵士と、呪詛の解除だな。今、マーレとエリオルが、砦の魔道士たちと呪詛の解読をしている」
ミンスさんが、仕切り直すと、ロンデさんが状況を説明してくれた。
「呪詛の解除って、難しいんでしょうか?」
「今回のように、これだけ多数の死者をアンデッド化するような呪詛だと、かなり強力だからな」
「それに、今回のような場合だと、まず、個人にかけられたものなのか、土地や砦といった特定の場所にかけられたものなのかによっても、勝手が異なりますね」
「個人と場所、ですか」
「場所なら、まあ最悪、解呪できなくても、呪詛の影響の範囲を封鎖して、ここから出さえすれば、なんとかなるでしょうね。ただ、個人個人にかけられた呪詛の場合、その人間がこの場所を離れたところで死亡しても、その場所で永久不滅のアンデッドになりますから。国にとっては、場所にかけられた呪詛よりも被害は甚大ですね」
「個人にかけられてるとすると、俺やミンスの旦那、ロンデのおっさんにも掛かってる可能性はあるんですかね」
「屋上にいた兵士達以外もアンデッド化していますから、対個人の呪詛の場合、その時砦及び周辺にいた人間全てにかけられてると思って間違いないでしょうね」
マジか。
みんながアンデッドになった様を想像して、思わず3人を『解析』してしまった。
結果は、問題なし。
今度は、砦とその周辺を『解析』してみる。
範囲呪詛
範囲内にいる者に呪詛の影響を与える。
核の破壊により解呪が可能。
「範囲呪詛のようですね」
「やはりそうですか」
「やはりってことは、旦那達も想定してたんですか?」
「今回、明らかに砦の陥落を狙ってたからな。まあ、それに、不滅のアンデッドなんぞ、これだけの規模に単体でしかけられた日にゃあ、やりきれんからな。とはいえ、範囲呪詛でこれだけ強力なものも聞いたことはないが」
「カナメさん、範囲呪詛ということは、どこかに核があるかと思うんですが、分かりますか?よくあるのは、魔具だったり、魔石だったり、建物に刻み込まれてたりしますが」
「調べてみます」
範囲呪詛の核、を意識しながら『解析』する。
屋上と、砦の周辺も『解析』したが、核は見当たらない。
おかしいな、あるならここかと思うんだけど。
「ビートさん、マーレさんは、呪詛の魔法陣は屋上で形成されたって言ってましたよね」
「おー、言ってたね。何かあった?」
「いえ、屋上にも、ここから見える範囲にも核がないんです。ここを起点に呪詛が作動したなら、核は屋上にあると思ったんですが」
「砦内を『解析』できますか?」
「わたしの“視認”の条件からだいぶ離れるようで、見えないところにある核を探すのは難しそうです」
「そうですか」
「マーレ達の解読で分かるといいが」
わたしの目では、“見ている”、と認識できないものは、『解析』対象にならない。
私の答えに、ミンスさんとロンデさんがちょっと残念そうに、眉をひそめた。
「カナちゃん、核自体を探すんじゃなく、魔力の痕跡を辿れたりはする?」
「痕跡ですか?」
「そう、“核そのもの”じゃなくてもいい、この屋上から、例えばちょっと変わった魔力の痕跡がないか、とか」
ビートさんに尋ねられ、“魔力探知”を意識して『解析』してみる。
左目に、うっすらと、黒いモヤのようなものが見えた。
「ありました」
わたしが言うと、ミンスさんとロンデさんが、『どこに!?』と、同時に食いついてきた。
ビートさんだけは、なんとなく想像がついてる顔をしてる。
「これは、動いてる?痕跡が砦の中に続いてます」
わたしは、答えながら、屋上の入り口を指差した。
ミンスさんが、わたしの指差した入り口を確認したあと、説明を促すようにビートさんを見た。
わたしも釣られてビートさんを見る。
「コレを考えた奴は、えらく性根の腐ったやつでしょうね。」
ビートさんが何故か自嘲気味に答えた。
「ミンスの旦那。おそらく、呪詛の核は、生きた人間ですよ。それも、俺達側の人間だ」
わたしの見つけた魔力の痕跡は、見張り台の上から、屋上の入り口へと続いていた。
核を破壊すれば解呪可能。
わたしの中に、苦いものが広がった。




