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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第5章 闘技場の都市へ!
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第八十四話 バトルロイヤル(3)

 ヴィッシュの突撃に対し、弘は動じた風もなく……とシルビアは見ていたが、実はそうではない。

 右か左、どっちに避けようか迷っていただけなのだ。


(さっきはフェイントかけて右に跳んだけど、今度はどうする?)


 今度は逆で左に跳ぶか? それともフェイントをかけずに、また右へ跳ぶか?

 いっそのこと、大跳躍して飛び越すべきか?

 そんなことを迷っているうちに、ヴィッシュが眼前に迫り……弘の左側を通り過ぎていった。


「へっ?」


「あ、くそ! 今度は逆に跳ぶと思ったのにぃいい!」


 悔しそうなヴィッシュの声が、その姿と共に遠ざかっていく。

 どうやら迷っていたのは、向こうも同じだったらしい。

 結果的に間抜けをさらしたのはヴィッシュの方だったため、弘は自分が何もしていないにもかかわらず得意顔となった。


「へっ。ドジ野郎が、おま……」


 後ろ姿に向けて何か言おうとしたが、不意に自分が照らし出されたことに気づき言葉を切る。

 この闘技場内は、天井部に魔法照明が用意されており、新たに照らし出されたということは、天井照明とは別の光源が発生したということで……。

 と、ここまでを一瞬で考えた弘は、勢いよくレッサードラゴン……クロムの方を振り向いた。

 かなり離れた位置にクロムがいて、どっしりと構えている。そして、そこから弘までの間を高速で飛ぶモノがあった。

 直径1メートル半ほどの炎球である。


「やべぇ! ファイアーボールだ!」


 叫びつつ弘は左方へ跳ぶ。幸い、ファイアボールの飛翔速度は手で投げるバスケットボール程度のものであったため、かろうじて回避することに成功した。

 ただし、ボールは落下点ではねるだけだが、ファイアーボールは爆発する。


 ドグァアアアアアン!


 大音響と共にファイアーボールがはじけ飛び、火炎と衝撃波をまき散らした。


「ぶわっ!? 熱ちっ! 熱ぅう!」


 特攻服の各所に炎が取りつき、弘は爆風で吹き飛ばされるまま転がって消火する。

 そして、ようやく火が消えて立ち上がるとクロムを睨みつけた。


「この野郎、てめ……」


「クロム! 何のつもりだ! 俺1人で戦えと言っただろうが!」 


 弘の声を掻き消す大音声。声の方を向いたところ、ヴィッシュがクロムを怒鳴りつけていた。

 対戦相手ながら、彼の怒りは弘にも理解できる。共闘を誘って蹴られたと思ったら、自分が攻撃を外した隙に手出しされたのだ。

 傍目にもクロムの行為は小賢しく、そしてせこく見える。このヴィッシュの抗議に対して、クロムは何と答えるだろうか?


「何を怒る? 共闘はせんが、今はバトルロイヤルの最中だぞ? 隙あらば攻撃するのは当然ではないか」


 筋は通っているが、言いぐさがムカつく……と弘は思う。


「そら、お前もくらっておけ」


 言い放ちざま、クロムはその口を大きく開けた。


「お、おい!?」


 狼狽えるヴィッシュにかまわず、クロムはファイアーボールブレスの第2射を吐き出す。

 弘は見た。レッサードラゴンの長い首……その根元がボコリと膨らみ、口元に向けて移動したかと思うと、上下に開かれた口の奥から火球が射出される様を……。


 ドボァウッ!


 小柄な人間がすっぽり入るほどの火球。それが、何とも言えない射出音を残して飛んでいく様は凄まじい。とはいえ、目で追えるほどの速度であるため、弘ほどの『身軽さ』、そして『跳躍力』があれば回避するのは難しくないだろう。

 だが、そのどちらも備わっていないアーマーライノスのヴィッシュは、これを回避しきることができなかった。


 ゴアアア……きゅぼ、ドグァアアアアン!


「ぐはあああああああっ!」


 それなりに回避を試みたヴィッシュであったが、すぐ近くで着弾され、その爆風をまとも浴びてしまう。


(うわぁ、サイが燃えてる……)


 弘の場合、特攻服の各所に火がついた程度だったので、転がって消すことができた。しかし、ヴィッシュは全身が火だるまとなっており、多少転がった程度で火は消えない。ようやく消火できた頃には……すでにヴィッシュはボロボロの状態だった。


(ひでーな。分厚い革がアチコチ破れて、血が噴き出してるし) 


 火炎だけでなく、爆発の衝撃波でもダメージを受けていたようだ。この分では、身体の内部にまで被害は及んでいることだろう。


(俺のときは、地面すれすれに跳んで伏せて……そのあと転がされたけど。あのサイは伏せても高さがあるからなぁ)


 つまり、弘よりは爆風を浴びたことになる。


「ぐ、この……」


 ヨロヨロと立ち上がったヴィッシュは、怒りに燃える目で……弘を見た。 


「えっ? 俺かよ!?」


「こうなったら一番死にやすそうな奴から始末する! クロムは、その後だ!」


 相手が2体居て、一方がべらぼうに強いのなら、先に弱い方を潰す。合理的だが、標的にされた弘としてはたまったものではない。


「あの野郎! また突っ込んできやがった!」


 迫り来る黒こげの壁。そこに先ほどまでの勢いはない。

 弘は少し腰を落とし、ジッと相手を見据えた。


(どうせまた、俺がどっちに跳ぶか考えてんだろ? けど、あのスピードじゃあ間際まで待ってから跳んでも、余裕で回避できるぜ!) 


 それに、これまで数回の突撃を見たことで、多少は慣れてきている。

 弘は落ち着いて、ヴィッシュの接近を待っていたが……。


「馬鹿めっ!」


 言うなりヴィッシュは右前足を振り上げ、闘技場の地面に叩きつけた。

 何のつもりだ? と思った瞬間、対象物解析で得た情報が思い出される。


(足を踏みならして、振動波……)


「って、コラ! 踏み鳴らすんなら、もっとドカドカ……」


 文句を言うが、それを言い終わる前に地面が跳ね上がった。トランポリンとでも表現したくなるような突き上げ……これにより弘の身体が大きく宙に舞う。


「どわああああっ!?」


 弘には柔道等の心得がないため、このまま落ちても受け身を取ることができない。だが、『素早さ』(器用度を兼ねる)と『力』が強化されているため、多少無理な姿勢で落下しても腕一本で着地可能なのだ。

 このときも腕を地面に向けて伸ばし、着地に備えた弘であったが、その掌は地面に接地するなり弾かれてしまった。ヴィッシュの発生させた振動波が、まだ残っていたのである。


「なっ!? だはああああっ!」


 完全に依拠を突かれた形となり、弘は背中から地面に叩きつけられてしまった。更に悪いことに、左足首を捻ったかして痛めたらしい。 


「痛っつぁ! 痛てて、痛い! くそっ!」


 すぐには起き上がれず、弘は足首に手を当てて転げ回った。

 一方、ヴィッシュは弘の落下点が横にそれたので、またもや通り過ぎている。しかし、今度は余裕を持って……いや、血まみれ黒こげの姿で弘を振り返った。


「ぐふふ。足でも痛めたか? では、もう何度も避けられないということだ」


 自身の血で顔を濡らしたクロサイ……アーマーライノスの顔が笑った。

 彼の言うとおりだと、弘は思う。

 こうなったら右足一本で跳ね回って回避するしかない。しかし、それが何度も通用する相手ではないし、着地に失敗して転倒したら、そこを狙って突撃される。


「畜生! けど、やるしか……あだぁ!」


 起き上がろうとするも左足を捻ってしまい、弘は激痛に悶絶した。

 どうやらすぐに立ち上がるのは無理のようだ。


(召喚タバコを吸って回復させるか? いや、ダメだ。すぐには治らねぇ。てことは……こ、ここで迎え撃つしかない? マジかよ……)


 弘の背筋を、嫌な汗が伝って落ちる。

 召喚術で出せる品の、いったい何を持ち出せばヴィッシュの突撃を止められるのか?


「……なんかねーのかよ。おい……」 


 せめて五体満足であれば、真っ向から受け止めにかかる選択肢もあり得た。しかし、左足を痛めた今となっては無理な話だ。


「ぐっ……畜生……」


 ベルトに差していたトカレフを抜くと、腰を落としたままの姿勢で発砲する。


 ドカドカドカドカ!


 立て続けに4発撃ってみた。距離が離れているにも関わらず、全弾がヴィッシュの顔面に命中している。しかし、案の定と言うべきか、分厚い外皮によってすべて弾かれてしまった。

 この結果に気をよくしたヴィッシュは、愉快そうに笑う。


「うはははは! その道具! パルファンは倒せても、俺には通用しないようだな! では、行くぞ!」


 ご丁寧に宣言してからヴィッシュは駆けだした。

 蹴り足によって大量の土が舞い上がっており、この突撃に掛けるヴィッシュの気合いが見て取れる。

 対する弘は、なおもトカレフによる銃撃を続行したが、焦っているせいか何発かは外れ、何発かは各所に当たるも弾かれていた。


「無駄だ、無駄だぁああああ!」


 勝利を確信したヴィッシュの声が、己が突進の地響きをも押しのけ闘技場に響き渡る。

 もはや、誰の目にも勝敗は明らかだった。

 観客達の脳裏には、アーマーライノスによって轢きつぶされるか、撥ねられて死ぬかした弘の惨殺死体が思い浮かんでいる。

 そして……そのときが来た。

 


◇◇◇◇



「ひっ!」


 観客席のカレンは激突の瞬間、目をつむって耳を押さえた。

 にもかかわらず断末魔の絶叫が聞こえてくる。 

 あのガラは悪いが陽気で憎めない異世界人。ヒロシ・サワタリは、アーマーライノスによって殺されてしまったのだろうか?

 怖くて顔を上げることができない。

 しかし、続いて大歓声が発生し、隣でいるシルビアに肩を掴んで揺すられたことで、カレンはその顔をあげた。


「ど、どうなったの?」 


 恐る恐る闘技場に目を向けたところ、彼女は二つのモノを目撃する。

 一つは、倒れ伏したアーマーライノス。もう一つは、そのすぐ近くで腰を落としている、弘の姿だ。

 呆然としていたカレンの顔に、少しずつ笑みが浮かんでいく。


「サワタリさん……勝ったの?」



◇◇◇◇



 沢渡弘は勝った。

 とはいえ、当人にしてみればギリギリの勝利であったと言える。

 ヴィッシュが眼前に迫った、あの瞬間。彼は残りのMPを総動員して、召喚できる限りの長巻を召喚した。それらは手に持って戦うために召喚したのではない。

 柄頭を地面へ突き込み斜めに立てて、ヴィッシュを止めるための支え棒にしようとしたのである。

 そう、攻撃するためではなく、ただただ、ヴィッシュの突撃を何とかしたかっただけなのだ。

 しかし、結果としてヴィッシュは、地面から斜めに生えた数本の長巻に対して全力で突撃をしてしまう。そうして出来上がったのが、アーマーライノスの死体だった。

 顔面に3本、左前足の付け根に1本の長巻が突き立っており、一部は後方へ貫通している。元から持っていた長巻はまだ手元にあったが、それを杖にして弘は立ち上がった。

 と同時に、数本の長巻を支え棒にしていたヴィッシュが大きく傾く。


 ……ぐらぁ……ズズゥウウウン!


 地響きと共に、大歓声が弘を押し包んだ。そういえば、つい先ほどからも歓声は聞こえていた気がするが……目の前のヴィッシュに気を取られて気がつかなかったのである。


「な、なんにせよ。死なないですんだぜ……」


 かろうじて、それだけ言うと弘はステータス画面をチェックした。ヴィッシュが長巻に突っ込んだあたりで、ファンファーレが聞こえていたのだ。

 パルファンを倒してレベルアップをし、そのすぐ後に1体倒しただけでレベルアップ。これもまたヴィッシュが強敵だったという証拠だろう。

 さて、今回のレベルアップに関しては以下のとおり。



名前:沢渡 弘

レベル:25→26

職業 :チャラい不良冒険者

力:88→90

知力:33→34

賢明度:68→72

素早さ:87→92

耐久力:91→96

魅力:57→62

MP:145→158



(うわ……召喚品の追加とか無しかよ) 


 能力値の上昇は嬉しいし、レベルアップするとMPが全回復する仕様なのもありがたいが、この後、弘は無傷のレッサードラゴンと戦わなければならないのだ。


(見聞きしただけでも召喚できるんなら、バズーカ砲とか追加されりゃいいのに)


 と内心で愚痴を言った……その瞬間。弘の耳に、聞き覚えのある風切り音が飛び込んできた。

 遠くにいるレッサードラゴンのクロムが、弘めがけてファイアーボールブレスを吐いたのである。


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