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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第5章 闘技場の都市へ!
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第八十三話 バトルロイヤル(2)

 パルファンの蛇体から毒液噴霧された弘であったが、攻撃を受けた瞬間、特攻服の後ろ襟に指を引っかけて半脱ぎ状態にしている。そして引っ張り上げて頭部を隠した後、息するのをやめて暫く耐えた。

 パルファンがやったのはヒドラのように毒気を吐くのではなく、あくまで液体の散布。少し耐えていれば、地面に落ちるなどして効果範囲が消える……と弘は考えたのである。

 もっとも、そう考えたのは特攻服にくるまって、様子を見だしてからのことだったが……。


(反射的に身を守っちまったけど。少々くらう覚悟で、ここから離れた方が良かったかな……)


 ヴィッシュが手出ししてこないところを見ると、彼もパルファンの毒霧には注意しているらしい。アーマーライノスが警戒するほどなのだから、吸い込まずとも、触れただけで効果があったりするのではないだろうか?

 毒霧が晴れるまで数秒とはいえ、なまじ考える時間があるものだから他にも色々と考えてしまう。

 周囲を漂う毒霧が、強酸性とかだったらどうしよう? あるいは肌に付着するだけでも効果がある毒だったら?

 弘は毒物に関して特別詳しいわけではないが、漫画やテレビの特番で見知った知識程度ならある。それだけに、見知らぬ大動物の発する『毒』は怖いのだ。 

 そして毒霧が晴れだした頃……心配したとおり、毒の効果が現れてきた。


(うお! 手とか足とかピリピリする! やっぱ少し吸っちまったか!)


 吸ったのか肌から浸透したかは定かでないが、体調に影響が出ているのは間違いない。

 この後の展開は、毒による苦しさでのたうち回る……そんなことを想像した弘であったが、幸いにも手足が痺れる以上の症状はないようだ。


「なんだ、ビビらせやがって。大したことないな」 


 ぼやきつつ特攻服を着直すと、黄色の毒霧はすっかり晴れていた。そして、少し離れた位置で倒れ伏したパルファンを弘は目撃する。

 先程の毒液噴霧は、彼女にとって最後の力を振り絞った攻撃だったのだろう。


「あ~あ、殺しちまった。もったいねぇなぁ。美人さんだったのにな」


 攻撃されたし殺されかけもしたが、別段、彼女に恨みがあったわけではない。そして、上半身だけとはいえ口のきける女性を殺害したことについて、弘は後味の悪さを感じていた。


(ここは闘技場だ。殺し殺されの場だし? やらなきゃ俺が死んでた……。しかたない……よな?)


 こういうことを繰り返し、人殺しに慣れていくかと思うと正直嫌だと思う。それでも動くべき時に硬直するようなことだけは避けたい。自分が戸惑ったが為に、誰かが犠牲になるとか……そういう展開が弘は大嫌いだからだ。


(それはさておき……だ。お次はクロサイか。どうしたもんかな?) 


 パルファンの場合、『蛇頭部上の女性体』という弱点があったからトカレフで倒せている。何しろ、大柄とはいえ人間女性の上半身にすぎない。当たりさえすれば大ダメージが発生したのだ。

 しかし、アーマーライノスのヴィッシュが相手では、トカレフだけで倒せるか自信はなかった。


(拳銃で象を倒せって言われても難儀なのに、相手が相手だし……って、あれ?)


 手を握ったり開いたり、足を振ったりして痺れを散らせていた弘は、ヴィッシュが口を大きく開けているのを目撃する。パルファンのように何か吐く気なのかと思ったが、対象物解析の結果を見た限り、ブレス系の能力は無かったはずだ。


(てか、ひょっとして驚いてるのか?)


「お前……何ともないのか?」


「え? なにが?」


 遠間からヴィッシュが話しかけてくるので、弘は律儀に聞き返した。あまりに普通な態度で聞いたせいか、ヴィッシュは何度か口をパクパクさせてから叫ぶ。


「パルファンの毒霧は、俺だって身動きが取れなくなる……いや、下手をすれば数日意識を失うほどの猛毒だ! なんで人間のお前が平気な顔をしてるんだ!」


「ええっ! そんなに凄い毒だったのか!? でも、ちょっとピリピリするぐらいだぜ?」


 弘は、自分の腕や足を見た。

 話している間にも運動していたので、もうすっかり痺れは消えている。ヴィッシュが言う程の猛毒だとは思えないのだが……。


(ステータス値の『耐久力』も結構上昇してるし。そのおかげか? どっちかって言うと、浴びせかけられたら溶けるとか、強酸系の攻撃じゃなくて助かったぜ)


 強酸系だったとしても真っ先に溶けるのは特攻服なので、すぐさま脱ぎ捨てて、新たに特攻服を召喚するだけのことだが……。

 ヴィッシュに視線を戻すと、またもや思考停止に陥ったようだ。観客達も、毒霧を浴びせかけられて平然としている弘に驚いているのか、ざわめいている。


(……今のうちに体勢を立て直すか)


 油断なくヴィッシュをチラ見しながら、弘はステータス画面を開いた。

 毒霧が晴れる少し前、レベルアップのファンファーレが幾度か鳴っていたのである。


(もうそろそろレベルアップすると思ってたが、数レベルも上がるたぁな)


 呆気なく倒せたのでピンと来ないが、それほどサーペンターとは強敵だったらしい。


(ま、飛び道具がなきゃ苦戦しただろうし。手槍だって、投げたけど外したもんなぁ……)


 そう、別にわざと外したわけではなく、本気で手槍を投じたのである。もっとも、トカレフが無い場合は、投げるにしても、もっと慎重にやっただろうと弘は考えている。 

 さて、レベルアップの状況は以下のとおり。



名前:沢渡 弘

レベル:23→25

職業 :チャラい不良冒険者

力:82→88

知力:30→33

賢明度:63→68

素早さ:79→87

耐久力:85→91

魅力:55→57

MP:130→145



・長巻

攻撃力+60 消費MP18



(長巻? ながまきって読むのか? これ何だっけ?)


 解説画面を確認したところ「長大な刀に長柄を付けたもの。刀や槍のように扱うには、常人離れした腕力が必要」とのこと。

 試しに召喚してみると、確かに刀の数倍は柄の長さがあり、取り付けられた刀身も長大だ。攻撃力の数値も高いし、これは頼りになるだろう。

長柄の武器に関して弘は手槍で慣れているので、取り扱いに問題はないはず。

 それに強化された腕力であれば、通常は不可能とされる端を持って振り上げたり、振り回したりといった用法も可能だろう。


(うおー、すげー。刃渡り、何センチあるんだ? 120センチとかか?)


 持ち上げてみると、日本刀よりは随分重い。しかし、比較して重いという意味であって、扱えない重さではない。


「こいつならクロサイとも戦えそうだぜ! たぶんな~」


 日本刀やトカレフではキツイと思っていただけに、これは嬉しい召喚品である。

 弘はトカレフをズボンのベルトに差し込むと、両手で長巻を構えた。と、ここでヴィッシュの声が聞こえてくる。


「クロム! 見てたろ! パルファンがやられた! 手を貸してくれ! おい、聞いてるのか!」


 どうやら今度は、レッサードラゴンのクロムと組んで戦う気らしい。

 これを聞いた弘は「マジかよ?」と思う。

 長巻という新しい武器を得たとは言え、残る2者が組んだら重装甲モンスターコンビの誕生である。


(3体同時に相手するよりマシなんだろうけど、キツいことはキツいんだよなぁ)


 しかし、クロムはヴィッシュの要請に応じようとしない。


「知らん。俺は俺のやりたいようにやる。お前だけでやるんだな。それとも、相手を変えて俺と戦ってみるか? バトルロイヤルらしくな」


「ぐっ……お前、後で運営にドヤされるぞ?」


 突き放されたヴィッシュが言葉に詰まっているようだ。

 こうして聞こえたクロムの言い様は一見格好いい。だが、弘にしてみれば「アホだ」としか言いようがなかった。


(バトルロイヤルルールで、組んで戦えるってのになぁ……)


 前述したように、2体がかりで来られるとキツイのだ。なのにプライドの問題かどうか定かではないが、その手を使わないとクロムは言う。


(映画や漫画じゃねーんだから。勝率下げてどーすんだかな。まあ、こっちは助かるけどよ)


 とはいえ弘も、その『バトルロイヤル』の状況を上手く利用できてるとは言い難い。


(元々、怪獣大乱闘の中をコソコソ動き回って戦う気だったのに。思うとおりにはいかねーもんだぜ)


 結局、2者の連繋攻撃を相手することになったし、パルファンとは、ほとんど一対一で戦う羽目になった。そして会話の流れを聞くに、どうやらヴィッシュとも一対一で戦うことになりそうだ。


「ようするに、デカブツと開けた場所でタイマンか。やだねぇ……」


 そう言う弘であるが、その口元は何故か笑っていた。



◇◇◇◇



 光の神の信徒、シルビア・フラウスは、レッサードラゴンとアーマーライノスを見据えて立つ弘をジッと見ている。

 クロニウスでジュディスから話を聞き、彼が強くなっていることは知っていた。だが、今見た弘の強さは前情報を大きく上回っている。


(もう、その辺のベテラン冒険者では、パーティー単位でも太刀打ちできないんじゃないかしら?) 


 そして、認めたくないことだが、鎧の力を発動させたカレンよりも強いようにも思う。


(ヒロシ・サワタリ。異世界から来た召喚戦士。……戦士?)


 何やら違和感を覚え、シルビアは流麗な眉をひそめた。

 弘の肩書きは、ギルド登録の上では『召喚戦士』となっている。しかし、シルビアは精霊や獣、それに死霊でもない……他の何かを召喚する能力者について、聞き覚えがある……ような気がしていた。


(そうだわ。肩書きの『戦士』部分に気を取られていたけれど……もっと他に別な……) 


 ウワアアアアアアアッ!


 突如発生した大歓声に、シルビアは思わず我に返っている。


「え? なにが……」


 試合場に目を向けると、共闘の誘いをクロムに蹴られたヴィッシュが、弘に対して再度の突撃を敢行していた。そして、それを弘は動じた様子もなく、真っ向から迎え撃っている。

 新たに召喚した妙に柄の長い長大な剣。それを手にさげて立つ弘を見たとき。シルビアは一瞬鼓動が早くなったような気がした。


(今の……なに?)


 胸に手を当てる……が、法衣の下にはチェーンメイルがあるため、鼓動を確かめることはできない。

 今のシーンで何か、胸に感じるようなことがあったのだろうか?

 シルビアは暫し考え、その答えを導き出した。


(一緒に旅したこともある知人が、命がけで戦っている。それを見て緊張するのは当然だわ……)


 そう思うことにしたシルビアは、胸に当てていた手を下ろすと、隣で座って応援しているカレンを暫し見て、その後……弘に視線を向けるのだった。


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